一話
空気の綺麗な冬。教室の窓から見えるのは澄んだ空だった。
「おい知ってるか、うちのクラスに不登校の奴がいるだろ?」
「ああ、うん。知ってるよ。大和田君でしょ」
「そうそう、大和田勝海。この街でヤンキーとして君臨してるらしいぜ、ヤバイよな」
「俺もそれ知ってる!何でもこの町の不良グループを一つ残らず潰して回ってるってよ」
「信じられないな、そんな人が僕たちのクラスメイトなんて」
始業前のチャイムが鳴りだした。
本来なら遅刻直前の時間に彼はやってきた。
「お、大和田勝海…?!」
「しーっ!聞こえるよ?」
クラス全員揃ったのに異様な雰囲気だ。
「何で?ヤンキーなのに何で学校来たんだ?」
「やばくね、超ガタイいいね。なんか怖いし…」
周りの人は囁きあった。すると、先生が入ってきた。
「おい、ホームルーム始めるぞ…って大和田!?」
「…ッス」
「お前、学校来たんだな。後で話を聞かせてくれ」
「わかりました」
大和田は覚悟を決めたかのように頷いた。
「それにしても今日はいい天気だな。教室も妙に明るい…し…」
突如床が光り始めた。辺りは眩い光に包まれ、何も見えなくなった。
その後、教室から人の気配が消えた。
ーーーーー
「…あァ?」
気づくと綺麗な城の中にいた。王様らしき人が一際高い玉座に座っていてこちらを見つめている。
俺は教室にいたはずじゃ…?
一旦落ち着け、俺は大和田勝海。元ヤンキーの高校二年生だ。
昔はヤンキーではなかったんだが、訳あって元いた町のチンピラ共をシメて回ってた、はずだよな!?
「何でこんなとこにいんだよ…」
その疑問に答えるでもなく、突然太ったメガネの男が話しかけてきた。制服を着ているので、この状況2巻き込まれた人間だとすぐに分かった。
「おや大和田氏、久しぶりですな」
なんだコイツ、急に馴れ馴れしいヤツだな。
「あれ、もしかして覚えていないのですか?僕は輪田ですよ、輪田。」
輪田…?
「あ、てめェ!輪田か!!」
思い出した。コイツは俺が中学の頃何故か一方的に絡まれてたオタクだ。
「そうですよ、お互い修学旅行で余り物だった仲でしょ?忘れるなんてひどいでござるよ!」
「それってそこまでいい仲か…?」
中学時代は普通に中学生してたからこいつとも絡みがあったが、今の金髪に筋肉を付けた俺を見て萎縮しないって、コイツなかなか大物だな。
「時に大和田氏、これはかの異世界転移ってやつではないですか??」
いせ…あ、異世界転移。散々コイツに読まされた漫画のジャンルか。
「そうかもな」
「軽ッ、軽いですな大和田氏。これって相当珍しい状況っていうか…ほぼありえない状況ってやつですぞ」
もしかして俺達は魔王とかと戦わされたりすんのか?
「おい」
「な、なんですか大和田氏?」
「ここでは何をするのが正解だ?」
「ふむ…僕が思うに、静観だと思いますぞ」
静観…一旦様子を見るのか。
「あっそ」
「どんな世界なんでしょうね、魔法が使えたらテンション爆上がりじゃないですか! 」
「そうかもな」
輪田の話を聞いている内に、辺りが静まり返った。
「よくぞ我らの国へ来てくれた。余はこのグレンダール王国の王、ゴーシュ=グレンダールである。これよりそなた達に我らの指示を聞いてもらおう」
それを聞いたクラスメイトの一人が王に話しかけた。
「えっと…指示って、そもそも何のために呼び出されたんですか?」
俺もそれは気になってたところだ。にしても勇気あるな。
「輪田、あいつ誰だ?」
「彼は金宮颯と言ってうちのクラスの中心人物ですよ。所謂陽キャ、ってやつですな」
陽キャ…?全く学校に来てなかったからわかんねぇな。
「へえ、あいつ頼りになるじゃねーか」
「まあ王様に対して話しかけていいのかは気になりますけどね」
すると、王の横にいた偉そうなおっさんが話し始めた。
「我々が貴方がたを呼び出した理由は一つ。他国との戦争の為だ。」
魔王でも邪神でもなく、戦争。クラスがざわついた。
「今我々の国は複数の国家から狙われている。他国からの脅威に耐えるためやむを得なかった。本当にすまない。しかし強要はしない。異世界人は国にいるだけで富をもたらすと言われているからな。是非この国に住み、この国を豊かにしてくれ」
すると、金宮の隣にいた少し背の低い男がいきり立った。
「ふざけんな、俺達を家に帰せよ!」
「今のところ元の場所に人を帰す魔法は未発見なんだ…しかしこの世界の何処かにはそれが可能な遺物があると聞いたことがある。我々に協力してくれれば、そちらの遺物探索にも協力しよう。」
いきなり異世界にきて、いきなり戦争への協力を求められて、意味がわからない。するともう一人女の人がおっさんに質問をした。
「でも私達ただの学生ですよ。戦争に協力したとして役に立てるとは思えないんですが…?」
それは俺も気になってたとこだ。職業軍人相手にただの一般人が勝てるわけがない。
「いや、決してそんなことはない。異世界人はここに来る上で特別な能力を手に入れているはずだ。これからそれを調べようじゃないか。」
おっさん…もといこの国の宰相はステータスボードについて教えてくれた。これには自分の実力や状態が表示されるそうだ。
ステータスと唱えてみると、目の前に宙に浮くホログラムみたいに文字が出てきた。
「うおっ、なんだこれ…!」
「うひょー、異世界って感じがして興奮しますな」
色々書いてあるが、正直よくわからんな。
わかるのはレベルが1ってとこくらいか。
「輪田、俺のも見ろ。俺には何が何だかわからん」
「いいんですか?一応個人情報ですぞ?」
意外と律儀だな。
「自分でもわかんねぇなら意味がねえし、恥ずかしい言葉は見つからなかったからいいんだよ」
「そうですか。じゃあ拝見致しますぞ」
輪田は俺のステータスボードを見始めた。
「どうだ?なんか気になるもんは見つかったか?」
「ステータスが高いですね…ほとんどのステータスは僕の数倍ですぞ。やはり元の世界でも喧嘩していただけありますな、大和田氏」
元の世界で鍛えた力も表示されるのか。
「ふ〜ん。で、お前に劣ってるステータスはどれなんだ?」
「ステータスを参照すると、僕は器用さが大和田氏に勝っていますぞ。まあ僕はフィギュアの自作もお手の物ですからな、それと僕のステータスボードには錬金術師という職業が表示されていることも考えると、その職業の特性で上がったのかもしれませんな。う〜ん、錬金術師とは気分が上がりますな、どんなチート能力が僕には使えるのか…」
なんか独り言が始まったな…
「俺のボードにはなかったのか、職業は?」
「あ、伝えるのを忘れてましたな。大和田氏の職業は義賊と書いてありましたぞ。」
義賊、義賊…
「俺が悪さしてる不良共を潰して回ってたからか…?」
「言い得て妙ですな。暴力を持って悪を制す。 確かに大和田氏の特徴におおむね一致していますぞ」
そんな話をしている内に、宰相のおっさんは俺達をそれぞれの寮へと案内した。二人一部屋で、まあまあ快適な部屋だ。
「まさか相部屋とは。プライバシーもクソもありませんぞ、大和田氏」
コイツがいなきゃな。
こうして、元ヤン高校生大和田勝海は異世界に転移した。
こんにちは、一介と申します。
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