まだまだ拗ねる
ザクザク、サクサク
一歩、また一歩と足を進めるたびに、小気味良い音がする。
僕たちが遠くに行っている間に、大学には雪が降ったらしい。一面に薄く降り積もった雪と、その下に隠れた霜柱に次々と足跡が付けられていく。横から差し込む強い日の光に照らされて、あちこちキラキラと光っていた。一限に出席するために集まった学生たちは、みな気だるげだ。
寒くてうまく動かない体や光輝く景色から、まだ夢の中にいるような気分になる。澄んだ空気を鼻から吸い込むと頭まですっきりする。嫌なことも何もかも空気と共に吐き出してしまいたくて、深呼吸を繰り返していた。
「しゅん。おはよう」
「おはよ」
ぽんと背中を軽くたたかれて振り返るとはやとだった。
「疲れた顔してんな。だいきの家行ったんだって。遠くて大変だった?」
「まあね。はやとは本当、何でも知ってるよね」
はやとの情報網に驚いていると、はやとが親指で後ろを指しながら言った。
「さっきだいきから聞いた」
思わず「げっ」とつぶやきそうになったのをやっとの思いで飲み込んだ。体をずらしてはやとの後ろを見ると眠そうなだいきと目が合った。
「はよ」
「おはよ」
だいきのベッドで犬の姿のまま眠りこけたあの晩、僕は明日の自分に託して思考を放棄した。けれど、次の日は二人して寝坊して慌ただしく家を飛び出したし、乗り物に乗っている間は常に片方が寝ていたからあれからほとんど会話はなかった。
小さい頃のケンカみたいに、もう何が問題なのかよく分からない。ただただ気まずい。
いや、だいきの無口な性格がちょっと嫌になっていた。自分から話しかける気分ではない。
僕ははやとに意識を向けることにした。まあ、だいきはいつも無言でついてくるだけだから、はやとにケンカしたとも思われないだろう。
「休み明け初日から一限だなんて、ついてないよね」
「ほんとだよな。明日はレポート提出だし、やんなっちゃうな」
「えっ、レポートってなんだっけ」
「ほら、必修科目の。おい、だいきも忘れてんじゃないのか」
僕が慌ててスマホで確認していると、はやとが振り返ってだいきに声をかけた。ぼんやりとした返事が聞こえる。
「しょうがないな。一限始まる前に確認するぞ。走れ」
はやとにせかされて三人で走り出す。あっという間に体温が上がって、指先や、顔面にも、やっと血が巡ってきた感じがした。今までのことは全部夢で、現実がこれからはじまる、そんな気分になった。
犬にかまれたものだと思って忘れろというのは、フィクションでよくあるセリフだ。誰に言われたわけでもないが、僕は目の前のことに集中することで、冬休み中のできごとを考えないようにすることに成功した。だいきとは話したくない、その気持ちだけをぎゅっと握りしめたまま。