表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/18

キラキラおめめ


 だいきの傷は深いのだろうか。いつまでも自分の手を見つめたまま動かない。

 あんなに体格も大きくて、体力もあるんだ。どうにかなるだろう。

 僕はだんだん力んでいるのも疲れてきた。それにちょっと寒い。

 低くしていた体勢を崩して、ぺたりと床に座る。フンっと鼻でため息をついた。

 本当はふとんに戻って眠りたいかもしれない。

 ソファに移ろうかとも思ったが、だいきに近づきたくない。

 このままふて寝してしまおうと伏せったが、寝顔を見られるのも嫌だ。

 前足にあごをのせ、あくびを一つした。だいきを視野に入れつつ、そっぽを向いた。


 窓の向こうに見える月を眺めながら、だいきが寝てしまうのを待っていたが、僕のほうがさきにうとうとしてしまったようだ。

 気づくとだいきがベッドからおりて近くまで来ていた。

 しまった!と思い、体を起こしかけたが、手が届かないくらいの距離を残してだいきが立ち止まり、座り込んだのを見て、再びふて寝のポーズをとる。

 ちらっとだいきの手を確認したが、どこに傷があるのかよく分からなかった。大したことなかったみたいだ。ちょっとほっとして、申し訳なさが吹き飛んだ。思いっきりそっぽを向いて、あくびをする。

「しゅん、いきなり悪かった」

 だいきがやっと口を開いた。謝罪からはじめたことは褒めてもいいい。

「あそこを立たせるのは、ハイエナの挨拶みたいなもんで。……でも、そんなこと言ったら、来なかっただろ。おふくろも顔を合わせるだけで、許してくれる可能性も全くないわけじゃないし……」

 真面目に説明してきた内容に、びっくりして、ビクッと体が動いてしまった。気まずすぎて、モゾモゾと体を動かして、気持ちを落ち着かせる。反応したら負けだ!

 そんな常識、説明もなしに、他の種族を巻き込むなんて。信じられない!

「なあ、機嫌なおせよ……」

 だいきの声が小さくなった。そしてまた沈黙に包まれた。

 それだけかよ。もっと他に何か言うことないのか。僕は何を言って欲しいんだろ。

 何を言われても腹が立つ気がするけど、こんな短い説明だけじゃ気が収まらない。

 ぐるぐると考えていた間も、だいきからは動く気配が全く感じられなかったので、気になって前足からあごを離してうかがい見ると、だいきは深くうなだれていた。耳も重力に完全降伏し、だらりと垂れ下がっている。座り込んでいるのでわかりずらいが、しっぽもすっかり元気をなくして地面に張り付いているようだ。

 とたんに胸が苦しくなった。

 僕が動いたことに気づいただいきが上目使いでこちらを見た。

 あんなに大きな図体でそんな目つきをしたら、ただただにらみを利かしていることになると思うのだが、それだけ背中を丸めているということだろうか。

 僕も犬になっていて視線は低いのに、なぜか見上げられていると思った。

 ハイエナこわいイメージも強いが、目がたれ目の分、傷ついた顔が得意なのだと思う。つぶらな双眸がキラキラと輝き、良心に訴えかけてくる。こうして落ち込まれると、かなわない。自分が悪いことをしたような気分になってくる。

 いや、駄目だ駄目だ。そうやって騙して上手い事やるのがハイエナじゃないか。

 完全に向こうが悪いのだ。毎回毎回同じ手にのるもんか。

 僕はだいきから目をそらして、ふて寝に戻る。

 ぎゅっと体を丸めて完全拒否モードに突入しようとした。

 だけどたぶん、僕は顔に出してしまっていたんだと思う。気持ちが揺らいでいるのがだいきにばれたのだ。

 すぐにピーとかキャーとかという音がして、うっかり少し振り返ると、だいきがハイエナの姿になっていた。

 ぎょっとした。

 普段なら少し怖いと思ってしまうところだが、なんと香箱座りをしているではないか。

 ハイエナになったことで、髪の毛がなくなり、より耳が垂れているのがよくわかる。

 口も閉じて牙も見えず、足先も折りたたんで爪も見えない。

 ああ、目にどうしても視線がいく。

 そんな顔で見るなよお。

 思わずつられて耳を下げてしまった。

 追い打ちをかけるようにだいきがあごを地面につけた。

 もうまるでつちのこだ。目も涙目になったように見える。

 完璧な上目使いを見せつけられて、がっくりとうなだれた。ずるい。

 こわもてと呼ばれるだいきがこんな顔をするなんて、思わないじゃないか。なんでかわい子ぶるのが、必殺技みたいになってるんだよ。僕がそれに弱いから合わせているのだろうか。他の人相手には、怖い顔して押し切るのかな。

 ためいきをついて顔をあげると、しっぽを振って、だいきがそろそろと近づいてきた。

 逃げずにそのままでいると、ドサリと乗りかかってきた。

 うわっ。支えきれずに倒れ込む。そんな僕に構わず、だいきはごしごしと頭を押し付けてくる。

 僕がどうにか起き上がろうともがいていると、今度は首に噛み付いてきた。

 この野郎っ。あんまり調子に乗るなよっ。

 ガゥッ

 軽く威嚇するが、ハイエナになってもだいきは重い。そして落ち着きがない。

 ゴワゴワした毛むくじゃらに、もみくちゃにされる。

 結局、僕はされるがまま、諦めて寝そべるのだった。

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ