へとへと大移動
俺の実家は遠い。片道だけで丸一日かかってしまう。
だから、冬休みが始まる日に出発するぞ。交通手段は俺が準備しておく。
しゅんはとにかく、自分の荷物だけ用意してくれればいいから。
約束を取り付けると、だいきはそう言って、さっさと帰って行った。
師走は本当に忙しいのだ。課題や、期末テストに追われ、あっという間に冬休みに入った。
当日、長時間の移動に、僕はすっかり参ってしまった。僕の実家もそれなりに遠いが、それが僕が楽に移動できる限界の距離だったのだと理解した。だいきに助けられながら、なんとか到着した。
だいきは朝からなんだか優しかった。自分も荷物を持っているのに、僕の分も持ってくれようとしたり、待ち時間があればどこからか飲み物を調達してきてくれたりした。
どうしたの?と聞くと、親の前でいきなり恋人のふりをすれば、ぼろが出る可能性があるから、今からそのつもりで過ごしているのだという。
僕も何かする必要があるかと尋ねたが、いつも通りで構わないと言われた。
何かを求められても、疲れすぎた僕は、きっと何もできなかっただろう。
乗り物酔いでふらついたときには、とっさに支えてくれて不覚にもドキっとしてしまった。
彼女相手にはこんな風に接していたのか。知らないだいきに戸惑いを隠しきれない。
最寄りの駅に到着したのは夜中だった。この地域に冬はないと聞いていたが、とても寒い。
家に向かうタクシーを待つ間、空に浮かんだ満月を眺めていると、だいきは自分の荷物をあさりだした。財布でも探しているのかと思っていたが、取り出したのはマフラーだった。
準備がいいなと思っていると、僕の首に巻いてくれる。
俺は大丈夫だ、とだいきが言うので、大人しくマフラーに鼻先をうずめ、タクシーを待った。
だいきの実家はめちゃくちゃ立派だった。
西洋風の建物はすごい大きくて、窓がたくさんある。部屋なんていくつあるんだろうか。
家の前には25m以上泳げそうなプールまであった。余計寒くなって、思わず身震いする。
暗くて全貌はよく分からないが、だいきが坊っちゃんであることは間違いないようだ。
あちこち探索したくなったが、明日の顔合わせに備えて部屋で休ませてもらうことになった。