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だらだら飲み会


「しゅんは、どうするの?帰省するのか?」

「うーん、どうしようかな」

 人族のはやとに聞かれて、年末どう過ごすかをまだ決めていないことに気づいた。


 冬休みが近づいた、ある金曜日の夜。同じ大学に通っているいつものメンバーで飲みに来ていた。

 この居酒屋は、半個室で話しやすく、肉料理が充実している上に、価格もそれほど高くない。

 それに、テーブルや、椅子、それにしきりまで木製だ。店の中は木と料理と、酒のにおいしかしないところも、とても気に入っている。最近の行きつけの店だ。

「しゅんのところは、北の方だろ。去年は大雪だったって、喜んでたじゃないか。今年も犬らしく遊んで来いよ」

 にやけ顔でからかわれて、苦笑いでごまかす。

 はやとは、残念なイケメンだ。見た目は黒髪の優等生。家庭教師のバイトもしていて、まさに優しいお兄ちゃん、という感じなのに、犬が好きすぎて、たまにポーカーフェイスが崩れる。

 犬好きの中でも、しっかりしつけて可愛がるタイプで、僕も何度か調子に乗ってしかられたことがある。見た目とのギャップが少々大きいが、犬族の僕としては、なんだかんだ言って、一緒にいると安心する。

 今日のメンバーも、はやとの犬好きのおかげで、つるむようになったようなものだ。

 孤独な大学生活を回避することができて、本当に感謝している。

「雪国の犬って言ったら、秋田犬とかハスキーとか、でっかいモフモフばっかりだろ。お前そんなガリガリで大丈夫か。ほら、もっと肉食べろ」

 はやとが僕の取り皿に、山のようにローストビーフをのせた。

 確かに僕は、中型、たれ耳、薄茶色のただの雑種だ。

 余計なお世話だが、ローストビーフは大好きなので、何も言わずに口へ運ぶ。

 人族と獣人が共に暮らすこの国では、このくらいの軽口は日常茶飯事だ。そのくらい平和だということかもしれない。

 獣人といっても、人の姿に耳としっぽがついているくらいで、人前で獣の姿になることはない。

 種族の習性などは、文化として残って、共存できるよう日々どこかで議論が交わされている。

 大学の必修の教養科目にもそんなのがいくつかあった。

 ローストビーフの山を一生懸命崩していると、生暖かい視線を感じた。

 視線だけ上げると、頬杖をつきながらこちらを見ているはやとを目が合う。

 無視して食べ進めていると、頭をなでられた。というより、耳ばかり撫でられている。

 飲み始めて一時間半くらい経っている。はやとは酔うと犬好きが加速するのだ。撫でるのが上手すぎて、僕は毎回役得だと思っている。

「田舎があるってことが、うらやましいわ。俺はずっとここらへんだからさ。しゅんは北で、こいつは南だろ」

 はやとのデレデレモードが解除され、優等生の顔に戻った。

 二人して、本日のもう一人の参加者である、南方出身のだいきを見た。

 だいきはハイエナの獣人だ。ハイエナはどちらかというと猫に近いが、だいきの耳は少し髪に隠れると、綺麗な三角形に見える。加えてガタイがいいので、はやとが珍しく犬族と間違えて仲良くなった。

 最近何か悩み事が抱えているようだったのだが、今日飲み屋で集合すると、はじめから酒ばかりを飲み、すぐにつぶれてしまった。こんなことははじめてだった。

 先ほどからずっとテーブルにつっぷしている。金髪の髪の毛に黒い耳が見え隠れしている。

 上半身がとてもがっしりしているので、隣に座っている僕は少々窮屈だ。

 だいきが通路側に座っている。はやとにはテーブルの下を通って、隣の席にくるか、と聞かれた。

 しかし、先ほどはやとにからかわれたように、僕は細身のほうだ。大丈夫だと断った。


 はやとが手を伸ばしてだいきの頭をわしゃわしゃとなでた。耳にも触れようとしたとき、だいきがうめきごえをあげながら、右腕を振り回してそれを避けた。

 僕のほうに太い腕が向かってくる。慌てて体を引いてよけた。

「おい、だいき」

 はやとがあぶないだろ、と注意するのと同時に、だいきが体を起こした。

 髪を両手でぐしゃぐしゃとかき回し、そのまま頭を抱えて肘をつく。

 復活したかと思いきや、再び顔が見えなくなった。はあと大きなため息が聞こえる。

「しんきくさいな。何かあるなら話してみろ」

 はやとがあきれたように言った。

 しかし、だいきは何も言わない。

「無視かよ」

 はやとは諦めて酒やつまみに手を伸ばし始めた。

 僕はローストビーフを食べ終えようとしていた。だいきも好きだったことを思い出す。

 まともな形のやつをはしでつまみ、そっとだいきの口元に運んでみた。

 だいきがそれに気づき、少しこちらを向いた。眠そうな目が見えた。ぱくりと食べてくれる。

 少々うつむいたまま、咀嚼する。ごくりと飲み込んで目線を上げた。

 元気を出してくれたようだった。僕はほっと一息ついて、残りのローストビーフを片付けた。

「だいきは冬休み、実家帰るのか」

 はやとが再びだいきに声をかけた。

「ああ、おふくろがうるさいからな」

 今度は返事をしてくれた。しかし悩みについては話す気はなさそうだ。

 僕もはやとも話したくないことを無理やり聞き出すようなことはしない。

 その後しばらくだらだらとして、飲み会はお開きになった。


「じゃあ、またな」

「うん、ばいばい」

 僕たちが手を振り合うなか、だいきは隣で黙ってそれを見ている。これはいつものことだ。

 駅前ではやとと別れ、僕とだいきは電車に乗り込んだ。

 金曜日の夜なので電車はそこそこに混んでいた。ドアの近くに二人で立ち、それぞれ外の景色を眺める。久しぶりにお腹いっぱい肉を食べることができて大満足だった。お酒の影響でいつもよりも外の景色がキラキラ光って見える。寒いところから温かいところに入ったので肩の力が抜け、眠くなってくる。つまり僕はかなりぼーっとしていた。

 僕の下りる駅についた。来週も会えるからとろくに顔も見ないまま、「じゃあね」と適当に手を振って電車を降りた。人ごみに流されるまま階段を上り、改札を出る。駅から家までは10分くらい歩く。

 屋根の外に出る前に、外の寒さを感じて身震いした。よし、行こうと一歩踏み出す。

「あのさ、ちょっといいか」

 ぽんと肩に何かがのせられた。びっくりして声のしたほうを見ると、だいきがいた。

 あれ、なんでいるんだ。

 全然頭が回らなくて固まっていると、だいきが反対の手を首に回して気まずそうにつづけた。

「相談があるんだけど」

「そうだん?」

 まだ僕がとまどっていると、肩に腕を回された。

 家まで送るから、ついでに話を聞いてくれと、だいきは歩き出す。僕も慌てて足を動かした。

 

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