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妹に婚約者を取られたので独り身を謳歌していたら、年下の教え子に溺愛されて困っています  作者: 雨野 雫


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幕間3ー1.オリヴァーの怒り


 その日、ヴィオラから連絡を受けたオリヴァーは激怒した。


 なにしろ、彼女が提出した論文用の資料が盗まれたという。あまりにも悪質な嫌がらせだ。

 急いで事務局員のハリー・レッドメインに連絡し話を聞いたところ、それだけでなく「ヴィオラが論文のデータを改ざんした」というクソみたいなデマを流した人物がいるということがわかった。


 ハリーから一連の説明を聞いたオリヴァーは、怒りに打ち震えた。


「ハリー。俺は即刻そいつを殺しに行きたいんだが?」


 不機嫌を全く隠さない低い声でそう唸ると、通信機越しから疲労を帯びた声が返って来る。彼も彼で対応に追われているようだ。


「殿下のお怒りはもっともですが、こちらもかなり混乱しておりまして。犯人を特定し次第、早急に処罰いたします。このようなことになって大変申し訳ありません」

「今回の件はあまりにも悪質だ。もし犯人が研究員であれば、研究業界の秩序が揺らぐ。こちらもすぐに調査に乗り出す」


 教育機関を取り仕切る者として、この一件を見過ごすことはできない。ヴィオラが巻き込まれているとあらばなおさらだ。


「大丈夫なのですか? 今は学会のご準備で相当お忙しいのでは……」


 実際、この時のオリヴァーは多忙を極めていた。毎日のように自宅に仕事を持ち帰り、夜遅くまで作業をしているくらいだ。しかし、忙しいから何だと言うのだろう。ヴィオラの名誉を傷つけた輩を野放しにしておくなど到底できない。それに、また二週間も彼女に会えなくなるのは耐えられなかった。


「そんなこと言っている場合か。即刻犯人を見つけ出し、処断する」

「お手数をおかけします。こちらも全力で調査に乗り出しますので」


 通信を切った後、オリヴァーは怒りと共に深い溜息を吐き出した。側近のエドワードも険しい表情だ。


「また随分とタチの悪い嫌がらせですね」

「全くだ」

「離れることをお許しいただけるなら、直接調べてまいりますが」


 エドワードは非常に優秀な側近だ。執務の補佐はもちろんのこと、諜報から護衛に至るまで何でもこなす。彼が調査に加われば、そう遠くないうちに解決できるだろう。


「そうしてくれるか。俺も今の仕事を片付けたらひとまず大学に向かう」

「御意」


 その後、オリヴァーが業務を終わらせた頃には、日が暮れて随分と経ってしまっていた。それから急いでグリッジ大学へと赴き、先に調査を進めていたエドワードと合流する。


「殿下、お疲れ様です」

「何かわかったか?」

「色々と聞いて回ったのですが、状況的に判断して外部犯の可能性は極めて低そうです。そして、こちらが大学内でヴィオラ様に不満や妬みを抱いている研究者の一覧です。内部犯だとしたら、犯人の動機は怨恨と考えるのが自然かと思いまして」

 

 リストには若手研究員の名前ばかりが記されていた。今回の事件は、大方スピード出世したヴィオラへの嫉妬による犯行だとオリヴァーも踏んでいた。嫌がらせの内容が、ヴィオラの研究者としての信頼を傷つけるものばかりだったからだ。


「手間ですが、一人ひとり当たっていくしかなさそうですね。今日はもう遅いので、明日から各個人への聞き込みを開始します。一週間もあれば犯人にたどり着けるかと」

「仕事が早くて助かる。明日から俺も調査に参加する」


 そう言うと、エドワードが心底嫌そうな顔をした。

 彼はオリヴァーが幼い頃から仕えていて互いに気心も知れているため、主君に対しても割とあけすけな態度を取る事が多い。オリヴァーもその方が楽なのでそれを良しとしていた。


「ご自分で動きたい気持ちはよくわかりますが……働き過ぎで倒れますよ?」

「これくらいで倒れるか」


 オリヴァーもオリヴァーで眉根を寄せて言い返す。一日でも早く解決しないと、ヴィオラの研究者としての信頼回復に差し障る。ここは譲れなかった。


 すると、主君の意思がテコでも動かないことを悟ったのか、エドワードは諦めたように溜息をついた。


「わかりました。では、手分けしてさっさと終わらせてしまいましょう」


 その後、ハリーとも合流し現状を共有した結果、調査はオリヴァーとエドワードの二人で行うこととなった。大学の事務局員が聞き込みをすると犯人も調査の手に焦り、証拠であるヴィオラの資料を処分してしまうかもしれない。既に捨てられている可能性ももちろんあるが、慎重に接触するに越したことはないだろう。


 聞き込みには、相手を警戒させない演技力と、相手の反応を見逃さない洞察力が必要だ。その能力を有するオリヴァーとエドワードは調査において適任だった。

 二人は王立研究所の関係者として若手研究者のスカウトに来た、という(てい)で潜入することにした。人間というのは、おだてられて良い気分になっている時ほど、口が滑りやすい。


 方針が決まったところで、オリヴァーはハリーに指示を出した。


「今日中に解決するのは難しそうだ。なるべく早くヴィオラの資料を見つけ出すから、彼女には帰って体を休めるよう伝えれてくれ。彼女のことだ。実験のために毎日徹夜しかねん」


 予想外の命令だったのか、ハリーは意外そうに目を丸くした。


「ご自分で伝えられては……? 会っていかれないのですか?」


 確かにヴィオラは目と鼻の先にいる。きっと今も研究室で実験を進めているのだろう。しかし、このタイミングで彼女に会いに行く気にはなれなかった。


「せめて事件が解決するまでは、俺が動いていることを知られたくない」

「なぜ?」

「彼女に気を使わせたくない。上手いこと言っておいてくれ」


 自分が調査に乗り出していることを知れば、彼女は「そんなに尽くしてくれなくていい」と言うに決まっている。迷惑をかけていると感じ、調査から手を引くよう言われるかもしれない。勘の良い彼女のことだからいずれバレるだろうが、今は隠しておいたほうが良いと判断した。


 ヴィオラのことをハリーに託し、その日、オリヴァーは残りの仕事を片付ける為に一旦王城の執務室へと戻るのだった。


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