行先
次の日の朝、出発をする前にマーリンに呼び出され応接室に来るとそこにはマーリンとカレンがいた。
カレンの仇を見るような目とそれを動かせない所を見るにどうやら一晩である程度解呪出来たらしい。
「どうしたんだ?そろそろ出発しようと思っていたんだが。」
「一人でか?」
「もちろん、カレンと共にだが。」
「ん!」
「そうかそれはよかった。」
「んん!」
二人の会話にツッコミを入れたいのだろうカレンが口を開こうとしているが解呪仕切れていない為に言葉が紡げず音しか出せていない。
「それにしても凄いなカレン、一晩で意志を自分のものに戻せるとは思っていなかったぞ。」
「あ、当たり前じゃない!術者のあんたが悪魔だからってこの程度ならあと一日あれば自由になれるに決まってるじゃない!」
「いや?他の者が受けていれば一生意識すらも戻ってこないこともあるぞ。」
「そ、そんなもの人間に向けていいと思ってるの!?」
「実力を買っていたと思ってくれ。」
「こ、この……!」
「はっはっはっ!」
「お、お父様?」
二人が罵り合いをしていると快活にマーリンが笑い始めた。
「これ以上弄ってやるなクロ。」
「む?我は本気だったが?」
「お前の態度は時折人を弄っているように聞こえるのだよ。」
「前にも言われたな、貴様に。」
「そこも変わっていなくて安心した。」
ひとしきり笑い終わった後隣のカレンの下腹部に目を向ける。
「ふむ……これはいるのか?」
「必要だろう?悪魔に自ら従っているのでは無く、従わされているということにしておけば最悪バレた場合のリスクも取れる。」
「成る程合理的だ。」
「ちょ、ちょっと待って!」
「なんだ、カレン。」
「え、あのお父様?まさかこいつの正体を……」
「ああ、知っているぞ。」
「嘘!?ならなんで退治しないの!」
「こいつに喧嘩売ると私以外死ぬからだが?」
「な……そりゃ……強いとは思ってたけど……」
「悪魔を甘く見るなよ小娘。」
「ぐっ……」
「まあ、良いだろう二人共落ち着いて座り給え。」
机にどこからともなく飲み物が用意された為、そろそろ本題に入りたいという意志が伝わってきた為ザスタは特に何も思わず、カレンはどこか不服そうに座った。
「ふむ、仲間というより主と従者という感じだな。さて、本題だがな。」
魔法を小さく唱えると棚にあった地図が自ら飛んできて開いた。
「もし、この後明確に目的地が決まっていないなら2人に頼みたい事がある。」
「それってなによお父様?」
「先日襲ってきた魔物達覚えているかい?」
「ゴブリン共か。」
「ああ、魔法で彼等の足跡を調べてみた所どうやらある町の方向まで続いていたんだ。」
羽根ペンを地図の上に放るするとサラサラと勝手に地図の上を羽根ペンが勝手に書き加えていく。
すると村から南西の方に向かっていく。
「この方向……交易街よね?」
「そうだ。」
「なんだそれは。」
「ふふん、悪魔はどうやら人間の事なんて全然知らないようね?仕方ないから私が教えて上げるわ。」
「ふむ、なら頼む。」
「もっと悔しがりなさいよ……」
「知らぬのは我の調査不足だからな。怒っても仕方あるまい。」
「ぐぬぬぬぬぬ……はぁ、仕方無い、教えて上げるわ。」
カレンは腰からアクセサリーを取り出す。
「これは人間領の最北端の国のアクセサリー工が作った作品なの。」
「ふむ。」
「私はまだ南の方向にしか行った事ないんだけどこれを持っているの。なぜだと思う?」
「なるほど、集まる場所、ということか。」
「そういう事、ここは色んな商人が集まって商売をしあう場所なの。」
「それでいろんな物が集まる、と。そこの町から伸びているということは。」
「ああ、商品ではなく悪意を交換しているらしい。」
「じゃあ……」
「そう、その悪意を向けてきた愚か者、それに制裁を、それが私の依頼だ。」