魔女の里防衛戦
ザスタ達が町を出発したのと同時刻
魔女の里
ドォーン!
「くっ……状況は!」
「戦士隊6番隊、7番隊壊滅!」
「ぐっ……手の空いた部隊は!」
「最終防衛線の1番隊のみです!」
「流石に出すわけにはいかないか……」
「族長!我々魔法部隊も出ます!」
「駄目だ!最前線にいるのは魔法の影響を限界まで薄くするミスリルゴーレムだ!あいつ等相手に君達でも勝ち目がない!」
「くそ……」
前線の見える都市よりも前にある会議室で幾人もの人間が唇を噛む。
この魔女の里はその名の通り魔法が盛んな村だ。本来、今そこで唇を噛みしめている魔法部隊がメインとなり遠くから来た敵を殲滅するのだが今回は問題があった。
今も最前線にて魔法を封じてくる相手対策の戦士隊を片腕の薙ぎ払い一発で蹴散らして行くミスリルゴーレムだ。ミスリルとは本来魔力を他の金属より簡単に付与することが出来、魔法鍛冶に置いては重要な鉱石だ。だがそれと同時に対魔法に関しては随一の防御力を誇る。一度加工されたミスリルは他の魔法を弾くようになり魔法使い対策の一つとなる。
ミスリルゴーレムはその特性を活かされミスリル100%で作られ、防御力増強等の付与をされ魔法と物理に圧倒的な耐性を付けた魔物だ。魔物の格としても上位にあり、本来魔王領域から離れたこのような場所に現れるはずのない魔物だ。
無論あのレベルの魔物を相手するにはかなり上位の戦士が必要だ。だがここは魔女の里、物理に特出した戦士はあまり育っていない。そのためミスリルゴーレム一体でも崩壊しかねないのだが今回は三体暴れまわっているのだ。むしろ一日保っているだけ凄いとも言える。
先程まで指示を出していた男、マーリン・ラクルはあまりの現状に助けを呼ぶという名目を与え逃がした自分の娘を想う。
「カレン……」
「あなた!」
「!アーリー何故ここに!」
「……それを聞くの?」
「……そうだな。」
恐らくは悟ったのだろう。最初は里の奥への避難だけを呼びかけていた魔法部隊が里からの脱出を呼びかけ始めた事からもう、この村は駄目なのだと。そして、族長たる夫は殿になるつもりなのだと。
「まさか転移魔術無効化の結界が足を引っ張るとはな……ふふ、最後まで時間を稼ぐさ。付き合ってくれるかい?」
「ええ、なにせ最強の魔法使いの母親だものあの子が帰ってきた時立派に死んだんだって思ってくれる死に方をしないと。」
「そうだな、あの子の誇りになる様な死に方をしたいな。」
お互いを強く抱き締めた後、マーリンは大きく指令を出す。
「魔法部隊!死にたい奴は私達に着いてこい!死にたくなければ里の皆を守れ!」
その指令にその場にいた皆は顔を合わせる。頷き合うとマーリン達の後ろに並び立つ。誰一人として逃げる者はいなかった。
その様子に誇らしげに笑う。だが同時にバカだとも思う。一人ぐらい家族を顧みろよ、と。
その視線の先で最後まで時間を稼いでいた最後の戦士が肉塊へと変化した。
それを見て皆の顔に覚悟が迸る。
マーリンが腕を振り上げ最後の命令を出そうとしたその時、
空に流星が瞬いた。
その流星から分かれた白い流星がゴーレム達とマーリン達の中間に落ちる。
その流星は立ち上がり自らの鎧に付いた赤いマントをはためかせる。
「あ、あれは!」
里の外の情報に詳しい者達が目を剥く。
この場所に現れるはずのない存在が現れた事に、そしてその存在が現れた理由を察して。
その白い流星、ザスタが口を開く。
「待たせたな。ここからは俺に、任せておけ。」