魔王の力
「我を呼び戻した理由はなんだ宰相。」
前に出ている魔物、宰相ワルド・ビドに呼び掛ける。
「潜入作戦の邪魔をしてしまい申し訳ございません。魔王様。」
「あちらは夜だ問題は無い。」
「では、魔王様、四天王の皆様こちらをご覧ください。」
魔法によって何かが空間に映し出される。
「これは……」
「成る程、猿どもの拠点ですかな?」
「これは魔王城の付近に作られた拠点でございます。」
「ふむ、これまで判明していなかったと考えると結界でも張られていたか。」
「月に一度の宰相の検査にかかったようだな。」
「はい、そのとおりでございます。戦力的には人類防衛線と同じくらいの戦力を配置しているようです。」
「勇者はまだ人類の領域にいたはずだ。目的は分かるか。」
「斥候を送り調査をしたところ、勇者の足掛かりを作る為のようです。」
「ふむ。」
「宰相殿が慎重に検査を重ねるタイプでなければ順調に出来ていたでしょうし猿どもにしては良い考えです。」
「それでどうしましょう魔王様。」
少し考える様子を見せた魔王はニヤリと笑った。
「久々に力を振るうとしよう。そこで見ているが良い。」
「了解しました。ご武運を。」
宰相が一礼をすると魔王の姿は消えた。
その場に残っていた四天王達も姿を消していた。結末なんて分かりきっているとでも言わんばかりに。
「人間達よ我等が主の力を改めて味わうと良い、クックックック!」
誰もいなくなった魔王の間には宰相の笑い声だけが響くのだった。
結界が暴かれていることに気付かずに人間達はあくせく働く。鍛冶場を建築し、休める宿屋を作成、薬の材料となる薬草を育て、必要な物を、ありとあらゆる物を集める。
「良き働きだ。勇者への期待が見て取れる。だがそれと同時に敵としては潰せねばならん。」
天空に現れた魔王は天に手を掲げる。そして言葉を紡ぐ。自らの力を顕現させるその魔法を。
「『天より豊穣の光をもたらす炎よ、我が力を受け、死を与える闇を放て!』」
天を埋め尽くす魔法陣に人間達が気付いた時にはもう遅かった。逃げ出すことも絶望することも出来ない、圧倒的な力。それを目にする事しか出来なかった。
「『ザ・ダーク・サン』」
黒き太陽が落ちてくる。それが人々が見た最後の光景だった。焼け、焦げ、押し潰され、死骸すら燃え尽きる。太陽を落とされた者の末路などそんなものだ。抗うことすら出来ない。しばらく残ったその太陽が消え去った場所には何も無かった。ここに何かあったかと聞かれてもなんの証拠も出せないほどに存在が抹消されていた。あれ程までに充実したその場所は意味の無いただの荒野へと戻ったのだった。
「哀れ、いらぬ企みを働く者はその代償を払うこととなる、世界の理だ。」
そう言葉を残すと宿屋へ戻るのだった。
宿屋に戻り、結界魔術を解除したその時宿屋の扉が叩かれた。
「……?少し待ってくれ!」
魔法で勇者の鎧に身を包んだ魔王は扉を開ける。
そこには肩で息をする少女が焦った表情でそこにいた。何処か魔法使いの様な格好のツインテールの少女は涙目で魔王の腕を掴み叫ぶ。
「お願い!私の、私の故郷を助けて!」