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心を入れ替えた勇者の正体は

賑やかな街の中、一人を呼ぶ声があちらこちらから聞こえる。

「勇者様、悪いけどこっち手伝ってくれないかい?」

「勇者様!そっち終わったらこっち手伝ってくれ!」

「ちょっとちょっとこっちが先よ!勇者様手伝って〜」


「順番に行くから待っていてくれ!」

その声に明るく反応を返したのは白い鎧に全身を包み顔まで隠した青年だ。

彼は勇者だ。

魔王を倒す為に旅立ち、今はあちらこちらを周り自らの力を磨きながら魔物退治をしている。だが最近まで素行に圧倒的に問題があった。子供が泣いていても欠伸をしながら通り過ぎ、男性が怪我をしていても唾を吐きかけ、女性が困っていたらにこやかに助けお礼と言わんばかりにセクハラを働くといった細かく並べればきりが無い程だ。彼が人類最強でなければ今頃牢屋を通り越して処刑されて海の底だろう。なんなら暗殺しようとして失敗したという経緯まである。

それが今、これだ。

皆の呼び声に明るく反応し手を貸し、泣いている声が聞こえれば躊躇いなく助け、女性に対しても紳士的な態度を貫く。

女性の中にはちょっとだけほんのちょっとだけ物足りないという声もあるが基本的には絶賛の声が響いている。

最初こそ何か狙っているのではと勘繰られていたが今となっては裏は無く本当に心を入れ替えたのだと受け入れられ今までの蛮行の贖罪とでも言わんばかりに働いている。


あくせく働いたその夜、拠点としている宿屋へと戻り、借りている部屋に戻ってきた。

扉に鍵をかけ防音の魔法を施し、覗き見防止の魔法を窓に施してから兜を外した。

黒い髪に赤い切れ長な目、むしろ隠しているのが勿体無い程の美貌だ。この状態で道を歩けば女性の方から声をかけてくるだろう。ならば何故兜を外さないのかそれは簡単だ。

勇者の知られている顔は金髪碧眼のその蛮行に見合わない程の美貌だ。

まるで正反対の見た目であることから分かる通り善行を勇者の格好をして行っているこの男、偽物なのだ。勇者の関係者ですらない。

この男の正体それは……


「ふぅ……さて。」

鎧を外した男は全身に魔力を纏わせる。

すると魔力によって先程まで来ていた鎧とは真逆の漆黒の鎧が生成された。

そして指を鳴らすとその男の姿が部屋の中から消える。男の姿が次に現れたのは膝をつく五体の魔物が集う玉座のある場所だった。

まるで当然の事のようにその玉座に躊躇いなく男は腰掛ける。

「面をあげよ、我が僕達よ!」

五体の魔物達が顔を上げる。その顔には畏怖と尊敬が見える。横に並んだ魔物達の中でも一歩前に出た魔物が口を開き男の事を呼んだ。

「お帰りなさいませ我等が主たる、魔王様。」

誰一人として驚かない。当然の事として受け入れている。そう、この男、勇者の偽物の正体それは、人間の絶対なる敵、魔物達の王、魔王その人だ。

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