幸せな音
「夜の授業やっと終わった。毎日夜九時半までとかほんとにごみ。早く家帰ろう。あの二人に捕まえる前に…」
心の高校から家まで20分の距離だが、歩いているとやはり疲れる。
バタン
「あぁ、、ただいま」
「お帰り。晩ご飯は出前呼んで、好きなもの食べてね。前にあげたお金、まだ残っているでしょ?あれ使って。ママは今から友達とご飯に行くから。何かあったら電話するね。夜は早く寝てね」
そういうと、お母さんはいそいそと出かけた。いつもように綺麗な格好をして。擦れ違いの時にはいい匂いもした。
「またお出かけか…最近多いな。でも確かに家にいるよりはいいな。さて、なに食べようかな」
心は出前アプリを見ながら自分の部屋に戻った。
「OK、選んだ。一番好きなドーナツとミルクティーにしよう。食べたら幸せになれるー!さて、その間に宿題をするか。後で彼氏と通話するの楽しみー!」
そう言いながら宿題をやっていると、いつのま間にか15分が経っていた。
「あー 、ドーナツ食べたいー 。 出前まだかな…」
心が呟くと、タイミングよく扉を叩く音が聞こえてきた。
コンコンコンコン。
「おー、噂すれば来た。はーい」
笑顔で走ってドアを開けた。
ガチャン。
開けた瞬間、笑顔が固まった。テンションが下がる。なぜなら、目の前には出前の人ではではなく、お父さんが立っていたからだ。
「家で走るな。なんだその表情は。何があった?お母さんは?」
「何もないよ。ママは見てない。晩ご飯もないから、自分でどうにかして」
相手の顔も見ずに、自分の部屋に戻りながら喋った。
「またいないのか。なら、晩飯は自分で作るか。炒飯食べる?」
「食べない…」
バタン
ガチャ
心は部屋に戻って鍵を締めた。
「まぁ…宿題続けようか」
再開して10分が経過した頃だった。
コンコン
「出前着いたよ。またこんなもの食べるのか?ドア開けて」
「そのまま置いといて。後で取るから」
「ダメだ。早く開けろ!」
ドンドン ドンドン
心はどんどん怖くなって、恐怖のあまりにドア開けてしまった。
「なんで鍵をかけるんだ?」
お父さんが無遠慮に部屋に入ってきて、ドーナツをテーブルに置いた。
「最近勉強どうだ?テストあったろ?成績は?パパに見せなさい」
「勉強は頑張ってるよ。テストはしてない。まだ宿題あるから、出てってよ。邪魔だから」
「冷たいこと言うな~久しぶりにハグしよ~」
お父さんはジリジリと近づいて、手を触れた。
過去の恐怖がフラッシュバックしてくる。
「やめてください!ママに話すよ!触りたいのならあなたの妻を触って!」
「あいつ全然俺に構ってくれないから。しかも毎日家にいない。だからちょっとだけ触わらせろ!」
「やだやだやだ出てけ!クソ野郎」
泣きながら叫んでお父さんを突き飛ばした。が、その時。
パーン……
「なんだその態度は!今まで誰がお前を育てたのか、よく考えろ!二度とドアに鍵をかけるな!」
バタン
ドアを閉めた心は手を顔に添えながら、声もなく泣いた。
「ママ…助けて…ママ…」
お母さんに電話かけた。
「泣いてどうしたの?」
「あの人が…あの人…また…」
「あのクズが!でもママまだ用事があるから、ドアには鍵をかけてね、開けたらダメよ!今あの人に電話するわ!」
母との電話が切れた。
「ううう…ドーナツ食べようか…それとも彼氏に電話しようか…」
起き上がって彼氏に電話した…。
…30秒が過ぎて、心が電話を切る直前で繋がった。
「(ざわざわ)………心ちゃん?どうしたの?」
「家でちょっとしたことがあって、英雄と話したい…」
「ごめんね、今夜はちょっと用事があるから、また明日の夜でいい?………(ねー誰?…しー)じゃ電話切るね!」
「英雄……待っ…て…」
また脱力して床に仰向けになり、天井を見上げた。
そして、そのまま30分過ぎた。
「まず宿題しよ…ドーナツも食べよ…」
どのくらいの時間が経ったのだろうか。リビングからは、両親喧嘩の声聞こえ始めていた。しかし、このことに心はもう冷めていた。
ドーンドーン
「ドアを開けろー!」
「開けたらダメ!」
「お前はどけ!」
「あぁー痛い!イカれてるよあんた!」
何が起きたのかわからないけど、多分開けないと、お母さんがまた怪我をする。
ガチャン
「えっ?!何をするの?」
ドア開けたら、道具を持ってるお父さんが仁王立ちしていた。
父「どけ!」
ドン!
答えもなく、お父さんに押し出された。あっけにとられている間に、お父さんは道具を使って鍵を破壊した。
「これでいい…」
お父さんがやることを心は無表情で見つめた。お父さんの行為にもとっくに慣れた。空洞の目つきでドアを閉じようとしたら、お母さんが部屋に入り込んできて、心を抱きしめた。
お母さんは泣きながら震えた声で
「大丈夫だよ!ママが家にいる。絶対夜中にあいつを心の部屋に入れないから。安心して寝なさい!」
と言いい、部屋を出ていった。
「うん…」
また一人になり、気分が重い。
「そうだ…こんな時はバイオリンを弾こう!」
心はベッドの下から隠していた鋭く冷たいバイオリンを取り出した。出してはいけないあのバイオリン。
イヤホンをつけて、好きな音楽をかけ、無音の"演奏"を始めた。
"演奏"が始まると音楽に溶け込んで、何の不安もない美しい花園の中にいるような気がした。
"演奏"が続くにつれて、足元にはポタポタの美しい赤いバラが咲き乱れていった。
それと同時に段々と目眩がしてきた。
「ちょっと"演奏"し過ぎたかな。リラックスできるけど、"演奏"は後片付けが面倒だな。片付けたら寝よう。」
心は"演奏"の痕跡を拭き、バイオリンを隠し直して寝た。
朝が来て、太陽の光が目に刺さった。
心はいつものように着替えて洗顔して、誰もいないリビングを通って玄関のドアに手をかけた。
「出かけよう…」
自転車に乗ったが、まだ手に力が入らないために、ゆっくりと進むしかなかった。
「気をつけてねー」
「はいー」
親子の声が聞こえてくる。
女子高生の会話も聞こえてきた。
「おはよう!ねねー今日のお弁当はハンバーグだよ!ママはわざわざ早起きして作ったの!」
「いいね!私は焼き魚!あとデザートはパパが私のために買ってくれた高いイチゴのケーキだよ!」
「もしかしてあのお店の!? あとで一緒に食べていい?」
「いいよ!」
そんな道端のささいな声が、心ちゃんの大好きな朝の鳥の鳴き声を覆った。
でも心はそれで怒ることはなかった。だって嫌いな人を避けることに慣れているから。
「今日も無事に教室に着いた。眠いし、少し寝ようかな」
今は少し寝たいだけ。心は机に腹ばいになって仮眠した。
すると、心を囲うように騒がしい声がし始めた。
「見て見て~寝ている心ちゃんは本当にかわいい!」
「本当だ!かわいい!」
「見て、また眠り姫のふりをして、いつもかわいい顔を頼りに男を誘惑して、気持ち悪い~」
「本当~でも実際ブスじゃない?」
「あんたもそう思う?あのね、聞いた?心のお母さんが他の男とデートしているのを見た人がいるって!」
「浮気!?そう言えば、心には彼氏がいるでしょ?でも、最近二人が一緒にいるのを見てないけど、時々彼女が下校してるとき、他の男と一緒にいるのを見たよ!しかも二人も!!」
「本当?!やっぱり親が親なら子も子ね!」
心は夢の世界に浸って、授業中も居眠りした。お昼ご飯時間まで。
むくりと起きると、いつものようにパンを買いに行って彼氏を待っていた。
でも彼氏は待ってもなかなか来なかった。心は探しに行くことにすると近くで彼氏を見かけた。
でも…
「あ~ん、、おいしいー」
「おいしいでしょう~ 雲わざわざ英雄のために早起きて作ったのよー!」
「本当?!嬉しいーありがとうー 雲ちゃん大好き!あの人とはまったく違……あ!心ちゃん、何でここに…」
「なんでって…?私はずっと待ってい…」
「ごめん!俺たち別れよ。僕はもっと似合うの人に出会ったから」
「でも英雄は今後もずっと私のこと好きで言って…」
「ごめん…これからも会わないでほしい。…じゃあ」
「そう…ですか…お邪魔しました…」
「邪魔過ぎだよ!べー」
気を失った心は普段隠れていた場所に行った。
屋上には誰もいない。不快な時はここに隠れるのだ。遠くの景色を見たら、すべてを忘れられる。
青空が好きで、雲も好きで、鳥の声が好きで、目の前に舞台が現れたようで、階段を踏んで、舞台に登って、目を閉じて、バイオリンを"演奏"して、音符のように軽くて、翼が生えて、空の中に自由に飛び回って、まるで世界が逆さまになったように束縛がなくて、楽しくて、幸せ。
「ねぇ!空を見て!天使がいる…!」
バタン
「あぁ、、ただいま!!」