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04話 あたしがダンジョンで……?

 ようやく本来の目的を思い出した萌美は、金鉱脈へ向けて掘削を開始した。

 しかしものの数分で飽きてしまい、ドリルをダンジョンに吸収分解させてマスタールームである部屋へと戻っていってしまった。

 所詮この程度の人間なのだ。


「あーめんどくさい。掘るだけの何が楽しいんだっての」


 全裸になり酒を飲むダメ人間がいた。

 このダンジョンに来てから酒に酔うことが難しくなってしまったのは、種族がドワーフになったからだろうと萌美は思っている。

 口内にスピリタスを生成しゴクゴク飲んで、ようやくほろ酔い程度にはなれる。

 肝臓が悲鳴をあげかねない行為だがドワーフの強靭な肝臓なら平気だろう、というのが萌美の感想だ。

 しかしこの世界のドワーフが同じことをしたら普通に肝臓がぶっ壊れる。


「えーと、眷族召喚して掘らせられるんだ。うわ、たっけ。無理無理、マナが足りませーん」


 ダンジョンコアであるパソコンで調べると、眷族召喚は1体で100万マナ必要だった。

 今のムシケラな萌美の状況じゃ眷族召喚など夢のまた夢だろう。

 マナ備蓄量たったの10、ゴミめ。とされること間違いなしだ。


「あーじゃああれかな。たぶんドワーフだからできるっしょ。よし、やってみよ」


 いろいろな機械や金属を生成し、はんだ付けやアーク溶接をしていく。

 DIYの範疇を超えているが、元彼の影響力の凄さというものを思い知らされる。


「あっつ、あちっ、あっつい」


 全裸で火花を出していれば当然そうなる。

 大事なところを火傷しても良いというのだろうか。

 女を捨てた行動というか、ただのアホな行動をするのが萌美らしさといえばそうなのだろう。


「よっしゃ、でけた」


 完成したのは4輪駆動の油圧アーム式ドリルである。

 コンピューター制御で自動で掘削し、自動で充電をしに帰ってくる凄いやつなのだ。

 ドワーフだからプログラミングもできるし、ドワーフだから何もかもを作れて当然なのだ、萌美の中では。


「よーし、自動掘削マシーン1号、発進!」


 リビングで発進ボタンを押すと、上部に付いたカメラでキョロキョロと辺りを見回し玄関へと走り出す。

 人工知能が搭載されているような動きだが、萌美はそんなこと気にしない。

 全裸のまま機械の後ろをついて行く萌美。もはや裸族と化してしまったようだ。


 自動掘削マシーン1号が通路の行き止まりで停車し、カメラを萌美に向けていた。


「おー、そうそう、そこそこ。そこ掘るんだよ」


 カメラを上下に動かし頷いて見せた自動掘削マシーン1号、もはや生命が宿っていると言われても信じられる動きであった。

 もちろん萌美は気にしない。ドワーフが創り出したものなんだからそれくらいできるっしょとしか思わないのだ。


「うんうん、良い感じじゃん。じゃあ吸収!」


 せっかく頑張っていたのに無残にも吸収されてしまう自動掘削マシーン1号。

 なぜ萌美がそんな暴挙に出たのか。


「よし、出て来い1号、2号、3号」


 地面からせり上がるようにして出て来たのは自動掘削マシーン3台。

 ダンジョンに1度吸収させた物は、完全にコピーできる。

 なので1度吸収する必要があったのだ。


「あとで電池お届けマシーンも作るから、とりあえず頑張って掘っててね」


 3台の自動掘削マシーンがカメラを上下に動かして頷く。

 萌美は、こちらの言うことを理解して反応を返してくれる3台の自動掘削マシーンに愛着が湧き始めた。


「よし、じゃあ君はイッチ、君はニーちゃん、君はサンペイ。わかったね?」


 真ん中のニーちゃん以外が首を横に振っていた。

 生意気な機械め。スカイネットか? と萌美は思った。


「まあいいや、ほら掘って。はいはい、始め」


 渋々といった様子で壁を掘り始める自動掘削マシーンを尻目に、萌美は部屋へと帰っていく。

 大量に電池を搭載した充電マシーンを作り、部屋まで掘削マシーンたちが帰ってくるという無駄を無くそうと考えたのだ。

 家電を分解吸収し備蓄してある萌美のダンジョンに、それらを作るのは朝飯前であった。


「これ完成品をさ、こう組み合わせたり創ったりして出せないのかな」


 ダンジョンに吸収された場所、亜空間ストレージと呼ばれるような場所で、全ての作業を終わらせたいとダンジョンマスターである萌美が考えてしまった。

 ダンジョンはダンジョンマスターの手足である。

 そのためダンジョンマスターの望みは、叶えられるものは叶えてしまうのだ。


「ん? あ、目を閉じると頭の中になんか出てきた。うんうん、じゃあこれをこうして、こうじゃ」


 萌美の目の前に生成される4輪駆動の充電マシーン。

 2本のロボットアームを器用に使い、充電コードをコンセントに挿している。


「おお、まずはフル充電?」


 萌美の問いにロボットアームを縦に振ることで答える。

 その背には掘削マシーンと同規格の大型バッテリーが6個差し込まれており、3台を1度に交換が可能のようだ。


「じゃあ充電マシーンももう1台生成して、よし、ばんばん頼むよ、君たち」


 2台の充電マシーンがロボットアームをエイエイオーと掲げているのを見て、萌美は穏やかに笑った。




 通路を掘るのは掘削マシーンに任せて、萌美はひたすら部屋でゴロゴロしていた。

 眠くなったら寝て、ただただ酒を飲み飯を食らうだけのクソの詰まった肉袋と化している。

 昔から余分な脂肪がつきにくいことだけが救いだろう。


 掘削マシーンたちが頑張ってくれているおかげで通路は5キロほど掘れている。

 時折、小さい鉱脈に当たるようで、金属や素材の備蓄は増えていく一方だ。

 なので新たに掘削マシーンを6号まで、充電マシーンも5号まで増産した。

 増やせば増やすだけ効率が良くなり備蓄も増えていく。

 まさに萌美のやりたかった左団扇(ひだりうちわ)の生活といえよう。


「しかし石の成分に酸素が含まれてるってのが納得いかない。あと魔素ってなによ?」


 魔素とは魔力の粒子のことである。

 生物がこれを多量に取り込むと魔物や魔人に変異するか、魔法を使えるようになる。

 その説明をパソコンで見た萌美は、あろうことか魔素を混ぜた酒を口内に生成しガブガブと飲み込んだ。

 何も考えていないアホの行動である。


「んー? 特に変わらないな」


 内蔵魔素がとんでもないことになっているので、魔力感知をできる者からしたら化物だと判断されることだろう。


「ん、いや、なんだこれ。ダンジョン内の様子が隅々までわかる……? ダンジョンがあたしで、あたしがダンジョンで……?」


 昼間からトチ狂ったことを言っているのは酒のせいではなく、魔素や魔力によるものだった。

 この世界には空気中に微量だが魔素が存在する。

 それを感知できるようになったことと、ダンジョン内の魔素と接続されたことで、ダンジョンを手足のように扱うことができるようになったのだ。


 そんな「あたしがダンジョンだ」と叫んでいる萌美が、異常を感知する。

 掘削マシーンたちから慌てる感情が流れ込む。

 マシーンなのに感情を持ち合わせていることに驚きだが、今はそれどころでは無い。

 萌美は感覚のピントを掘削マシーンたち周辺へと合わせた。


「んん? 外と繋がっちゃったの? 穴開いてる。あ、広がる……溢れる……」


 ダンジョンの感覚が穴の外へと広がっていく。

 パソコンをいじりすぐさま説明を読む。

 そこには『開口部の大きさにより、地上の支配領域の広さが決まる』と書かれていた。

 直径1メートルの穴だが、それでも地上の支配領域は、穴から半径10メートルの半球の形をしていた。


「ここはちょうど森の中か。地上のマナ美味しいです」


 ムシケラ並の萌美のマナがじわじわと増えていくのを感じる。

 数値を確認すれば10秒で1ずつ増えていた。

 今までの数分で1増えていたのと比べれば雲泥の差である。


 オロオロしている掘削マシーンたちに、緩やかに勾配をつけて下に掘り進めるよう指示を出す。

 もはや念じれば従う機械とはなんなのかと問いたくなる。

 しかし萌美は便利だから何も気にしない。

 自分が楽できれば他のことは全て些事(さじ)である。


「しかし、地上の支配領域かー。これは利用せざるを得ないな」


 萌美はここが街直下型ダンジョンだということを久しく忘れていた。

 自分で選んだ場所だというのに、怠けることに忙しく記憶の彼方に追いやってしまったのだ。


 しかし楽にマナが得られる方法を知ってしまった。

 例えるなら人参を眼前にぶら下げられた馬だ。

 萌美のピンク色の脳細胞が急速で働き始めた。


「街中に小さい穴開けまくればマナ貯まり放題じゃん。勝った!」


 言うが早いか全裸から作業着に着替え、めっちゃ削れるドリル2号を生成する。

 ベランダの手すりを吸収で無くし、そこからドリルで掘削していく。

 横1メートル、縦3メートル、奥行き1メートル。

 これを螺旋状にクルクルと上へ向かって掘っていく。

 階段は生成で後付しながら、ゆっくりと着実に地上へ向かって掘り進めていく。


 すると壁を突きぬけ、広い空間へとドリルが差し込まれてしまった。

 よく見れば棚があり樽や壷が置かれた石造りの部屋だった。


「あ……。やっちゃった。どこかの地下室に繋がっちゃった……。あたし、死ぬのか?」


 本来の目的はほんの小さい穴を数箇所開けるだけのつもりだった。

 萌美の頬に冷や汗が流れる。

 人の住む領域とダンジョンコアのあるマスタールームが直通してしまったのだ。

 誰だってそうなるだろう。


「あー、どうしよ。でも絶対マナ美味いよなー」


 命と金を天秤に掛け、萌美は金を選択した。

 そういう人間なのだ。


「よし! とりあえずここがどこだか確認だけしよ。ダメそうなら崩落させて逃げればいいし」


 楽観的な萌美は何も気にせず地下室へと足を踏み入れた。

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