表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

25/26

25話 なんで他の女とヤってんだヴォケがぁ!!

 フラナングの案を実行に移すべく地下へとやってきた萌美は、部屋の中央でたたずむ残り火を見て「お、元気になったかよ」と話しかけた。

 残り火から頷きで返事をされ、萌美も頷き返す。

 肩を叩いて労おうとした萌美だが、焼けて赤熱した鎧を素手で触ったら皮膚が持っていかれると思い、サムズアップをするだけに留めた。

 それに対して深く丁寧な一礼を返す騎士。


「むっ。生きていたか」

「ああ、もう大丈夫っぽい。って残り火ッ!? ステイステイ!」


 フラナングの姿を確認した残り火が突然走り出し、上段から袈裟切りにフラナングの肩から腹までを切り裂いた。


「ぐっ、む……」

「ちょ、おい、マジで!? やめろってば!」


 萌美の言うことが聞こえないのか、残り火は左手でフラナングの顔を掴むとゆっくりと持ち上げていく。

 残り火が左手に全身の火を集めると、小規模の爆発がフラナングの顔で起きる。

 顔を離されたフラナングは床にどさりと落ち、力なく横たわった。


「おい! やめろっつってんだよ! あたしの言うことが聞けねーってのかよ、てめえコラ!」


 ヤンキーである。

 残り火はフラナングと萌美を交互に見て何かを訴えているが、萌美には通じない。


「こいつは仲間になったんだよ! 知ってんだろうが!」


 地下で意識を失っていた残り火に知る由はない。

 ただ主を守ろうとしただけだというのに、萌美の怒りは理不尽の極みであった。


 敵はとりあえず殺す、というのが強硬派の眷族の思考回路だ。

 萌美の短慮さを集約した部下たちなので、こういった事態になったのも全て大元の萌美が悪いのだ。

 注意力散漫、視野狭窄(しやきょうさく)、短気、先入観、偏見、そういった要素が眷族たちには含まれているので仕方がないのである。


「ぐ、攻撃するな……」

「大丈夫かよ、また服が脱げてるぞ。全裸よかマシだけど」

「下が隠れていればいい……」


 起き上がったフラナングのシャツは焼け落ち上半身が露出され、ズボンは血まみれであった。


「……まあいい。これくらいになっていれば作戦の信頼性が増すだろう」


 焼け爛れた顔も、切り裂かれて溢れた臓物も元に戻ったフラナングが平然とした顔で説明を始めた。

 痛みは慣れたとのことだ。再生魔法の弊害だろう。


 萌美が「言うこと聞けや」と残り火の尻を蹴り上げる。

 巨漢の騎士が意気消沈した様子で肩を落とし、うな垂れている。

 心なしか内で燃える火の勢いも弱まっていた。

 かわいそうである。


「作戦の(かなめ)となるそいつにも説明をするぞ。言葉は理解できそうか?」

「大丈夫だよな、残り火。言ってる意味わかるよな?」


 萌美の問いに首肯(しゅこう)で残り火が答える。

 それを確認したフラナングが「よし、では説明するぞ」と口を開いた。


「作戦はこうだ。まずはバル村のダンジョンが暴走したという(てい)で危険度の高いものにする。冒険者たちをギリギリ殺さない程度に痛めつけるよう魔物へと命令してくれ」

「本気で殺しにかからせるからお前が助けろよ。そっちのが信憑性高いだろ。最悪ひとりかふたり殺しちゃえばよくね?」

「むっ……そうか、そうだな。暴走した魔物から救出しつつ、ダンジョンマスターをとり逃がしたので氾濫する可能性が高いとでも言ってまわるか」

「だな。で、残り火にはそこのボスをやって、フラナングに殺されてもらうから」


 その言葉に驚いたように萌美を見る残り火だが、ゆっくりと首を縦に振り了承の意を表す。


「大丈夫だ、ちゃんと生き返れる。ソウルキャッチャーってので死んだお前の魂を捕まえて、生成した肉体に入れなおせば元通りだから」


 ソウルキャッチャーはマナで入手可能の装置で、お値段驚きの1億マナである。

 萌美が無駄に貯め込んできたマナが生かされた。


 もちろん守銭奴の萌美だ、フラナングに提案されたときにはだいぶ渋った。

 適当な魔物を強化してボス役にすればいいのではないかとごねにごねた。

 しかし並みの魔物を強化たところで、フラナングに傷を負わすことすら難しい。

 なのでフラナングをして危うく死ぬところだったと言わしめた、死闘を繰り広げた残り火に白羽の矢が立ったのだ。


「俺ひとりでは討ち取れないダンジョンマスターだったということに信憑性を持たせるために、お前はカネダに強くしてもらう必要がある」

「魔素注入とマナで強化できるらしいから、この際だし最大強化しとくかね。ちゃんと強いやつがいると安心だし」


 他の眷族たちが聞いたら悔し涙を流しそうな言葉を平気で萌美は言う。

 お前らは弱いからいらないと言っているのと変わらない。

 未だに眷属たちの意識が戻らないのは不幸中の幸いであった。


「お前の討伐には俺のパーティーメンバーで当たる。俺以外の証人も必要なのでな。すでに連絡は入れてあるが、王都の討伐隊と同時くらいの到着になりそうだ」

「残り火は全力出していいからな。変に手加減したら疑われかねないし。殺しても大丈夫だから思い切りやれよ」

「ふっ、お前との再戦が今から楽しみだ」


 フラナングの言葉に、残り火が体を燃やし赤く輝いて応える。

 言葉が喋れるとしたら『うっせえ舐めてんじゃねえブチ殺すぞカスが』と言っていることだろう。

 萌美の化身なのだ、それくらい口は悪い。

 現に親指で喉を()っ切る動作をフラナングに向けてしていた。


「むっ、やる気十分ということか」

「いいね~、逆に勇者パーティーを返り討ちにして討伐隊も皆殺しにしちゃうか~?」

「王国内には俺以上の猛者がいるかもしれない。危険を冒すよりは当初の予定通りにするべきだ」

「そうならないようにお前が頑張るんだろ~。あたしの残り火に負けないようにしろよな?」

「善処しよう」


 勇者を殺し討伐隊を皆殺しにすれば、名実共に魔王の仲間入りだ。

 しかし元来、魔王というものは勇者によって打ち倒される宿命にある。

 フラナングを消したところで、第2、第3の勇者が現れ、最終的には滅ぼされてしまう。

 わざわざそんなリスクを背負う必要がないことを萌美や残り火は理解できない。

 やりたいからやる。なのでその場のテンションで皆殺しもありえてしまうのだ。

 フラナングはその可能性が高いことを感じ、絶対に負けないと心に強く誓った。


「それでは俺は戻る。仲間が到着したら1度こちらの酒場に来ようと思う」

「わかった。てかそいつらにあたしの正体はバラすの?」

「いや、やめておこう。人となりは信用しているが信頼はできない。リスクは最小限にしたほうがいい」

「お前みたいに金が好きなら買収できそうだけどな?」

「そうだな。仲間は3人いるんだが、その内のふたりは俺と同じ俗物的だが、残りのひとりは賄賂も受け取らない堅物だ」

「お前は賄賂受け取ったことあんの?」

「数回だけ仲間にバレないように受け取った。国から指名手配されていた強盗団を捕まえたときは、金を積まれたので隣の国まで護衛をしてやった。元々悪徳貴族からしか盗んでいない義賊的なやつらだったからな」

「お主も悪よの~」


 勇者、英雄ともてはやされている男の実態など、所詮こんなものである。

 実際に汚職に手を染めているのだから、金に汚いと噂されるのも仕方のないことだ。


 話が終わり、フラナングを水没した通路まで見送りに来た萌美が「あ、そうだ」と何かを思いつく。


「フラナング、今度からあたしのこと萌美って呼べよ。金田は姓だからさ。なんて言うんだ? 家族名?」

「姓でわかるぞ。モエミ・カネダがお前の名前だったか」

「そ。萌美って呼ぶ権利をやろう。親しい人にしか呼ばせないから感謝しろよ」

「ありがたく。ではモエミ、俺のフルネームも一応教えておこう。フラナング・ホッドミミル・ヴァルグリンドだ」

「ミミちゃんな。オッケー」


 とても失礼な女であるが、フラナングは大海より広い心で許してくれるらしい。

 苦笑いを浮かべたフラナングが、水没した通路へと歩を進める。

 

「ではな、モエミ。また会おう」

「ああ、じゃあな。お互い頑張ろうぜ」

「そうだな。全てが終わった暁には盛大に飲み交わそう」

「お、それは楽しみだな~。毎日飲んで騒いで暮らせるようにしような」

「ああ、夢の生活のために」


 最後に握手を交わし、ふたりは別れた。

 動機は不純だがその結束は固そうだ。


 萌美は自室に戻るとまず全裸になり、それから対英雄用に改造した部屋を元に戻し始めた。

 無駄に広い部屋だと落ち着いて寛げないのだ。

 12畳ほどのLDKに戻した部屋に、ふわふわラグマットや人をダメにするクッションなど、寛ぎセットを生成していく。


 次はサブダンジョンの改築だ。

 残り火がボスをやる凶悪なダンジョンを作るのだ。

 現在6層まであるのを10層まで増やし、道中に殺意MAXの罠や魔物を配置していく。


 落とし穴の底に溶解液の水溜り、スイッチを踏めば全ての通路の床や天井から槍が飛び出す、などなど。

 発動や維持に高コストがかかる罠を、惜しげもなく使っていく。

 萌美の抑えられていた残虐性が溢れ出てしまったようだ。


「魔物は~、東の森に良いのいたな。ちょっと残り火転移して狩ってきてよ」


 頷いて返事をした残り火が、湾曲した空間に消えていく。


 今や萌美のダンジョンは拡張に拡張を続け、とてつもない大きさになっていた。

 東西南北に伸びた通路は総距離2000キロを突破し、各地に支配領域を作っている。


 大型の掘削マシーンがメイン通路を掘り、小型の掘削マシーンがわき道を掘って各鉱脈や魔素溜まりを吸収していく。

 魔素溜まりは通称ダンジョンの種と呼ばれるもので、魔素の流れが淀んで偏って1ヵ所に集まり、そのままある程度の年月が経過すると天然のダンジョンができあがる。

 そのため淀んではいるが豊富な魔素が集まっているので、萌美は掘削マシーンに優先して吸収するように命令を出していた。


 魔素が濃い地域にいる魔物は大型になり凶暴化する傾向がある。

 萌美は凶悪な魔物を生み出す実験として、元々濃い魔素が集まっていた東の森へ魔素を大量に放出していた。

 そして何匹かのより強く進化した魔物を発見し、残り火へと回収に行かせたのだ。


 広い地域にある魔素溜まりの魔素ほぼ全てを注がれた東の森は、今や人も寄り付けない魔境と化していた。

 全域が萌美のダンジョンの支配領域に入っているため、魔素溜まりより魔素が濃くなっていてもダンジョン化することもない。

 災厄級の魔物が大量にいるこの地へと、人が足を踏み入れることなど不可能だろう。

 萌美の思い付きが魔窟を地上へと作り出してしまったようだ。

 正しく人類の敵であった。


「ん、フラナング下水に着いたか。まだ魔法使い残ってんじゃん。健気だねえ」


 ダンジョン感知でフラナングの様子をうかがっていた萌美は、フラナングの無事に涙を流しながら神へ感謝の祈りを捧げる魔法使いの女を見て、不快な感情に襲われた。

 爽やかなイケメンスタイルの笑顔をして礼を言うフラナングもムカつくし、それに顔を赤らめる魔法使いもムカつく。

 萌美は自覚していないようだが、それはまさに嫉妬であった。

 自分と同じような人間に好意を持つという萌美の悪い癖のせいである。


「んー、なんだろう。モヤモヤするな。お酒飲んでないからかな」


 ジョッキに並々入ったウイスキーを生成し、ロックでゴクゴクと飲んでいく。

 ウイスキーの飲み方ではないが、萌美はこれくらいしても酔わないので問題ないようだ。


「ふぅ~、やはり酒、美味しい酒が正義だよ」


 ジョッキの中のウイスキーを飲み干したらウォッカを生成する。

 それもゴクゴクと一気飲みし、テキーラ、ワイン、日本酒、ブランデーと大量の酒を次々に飲み干す。

 10杯目でようやく酔いが回ってきた萌美は、何気なくフラナングの様子をダンジョン感知で盗み見る。


『あッ! 勇者様ッ、激し……!』

『まだまだいくぞ』

『んん~ッ!』


 村の宿で魔法使いの女と致している真っ最中であった。

 萌美は持っていたジョッキを壁に投げつけ「クソがよぉ!!」と叫んだ。


「なんだあいつ! あたしに気があるんじゃねえのかよ! なんで他の女とヤってんだヴォケがぁ!!」


 あたしに気があると思ってたのに。

 AKOである。

 ここに勘違いでキレ散らかす全裸の酒カス29歳独身女が爆誕してしまった。

 悲しいことである。


「百歩譲って娼婦なら良いんだよ! 仕事だしな! でもその女、良いとこのお嬢さんみてえじゃねえか! 責任取れんのか、英雄様よおぉ!! 死ねや!!」


 萌美の言っていることは正しい。

 この世界の魔法使いは貴族しかなれない。

 貴族の血筋にしか魔法を扱える者は生まれず、また専門の教育を受けなければ魔法の制御ができない。

 そのため平民との間に庶子は教育を受けられないため魔法が使えず、貴族の青い血は守られているわけだ。

 つまりフラナングが抱いている女は、正真正銘貴族の娘であった。


『ああ、勇者様ッ、どうか、中にッ……!』

『そうか。イクぞ』

「させねえからなあ!!」


 フラナングが女の中に果てるのと同時に、萌美がダンジョンに精液を吸収させる。

 フルネルソンという体位のため、萌美には結合部がとてもよく見える。

 すぐに動き出したフラナングに「まだヤんのか、チクショウ!!」と悪態をつきつつも見守るストーカー変態覗き全裸女の名前が金田萌美である。


 その後、8発目を発射して満足そうなフラナングと、ぐったりして意識を飛ばす女を見て、さすがに女がかわいそうだと思った萌美であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ