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22話 あー、もう、めんどくせー!!

 フランから連絡が来たのは、萌美が部屋でロマン武器を作っているときだった。


『我が君、武装した集団が下水道へ侵入しようとしております。いかが致しましょう?』

『え、まだチンピラ残ってたの? んー、奥まで誘い込んで殺しちゃうか~』

『いえ、侵入者はいわゆる冒険者と呼ばれるならず者集団です。我が君に下卑(げび)た視線を送るクズどもですな』

『まあそれは否定しないけども』


 萌美のことが大好きな3人の眷族たちは、人間に対する拒絶反応が凄まじい。

 隙あらば殺してやろうという気概(きがい)が感じられる。

 しかし萌美に、悪人以外の命を奪ってはいけないと命令されているため、表面上は友好的に見せている。

 マリーはフルシカト(友好的)をし、フランは(あざけ)り(友好的)、エイシェトは虫けらを見ような目で見る(友好的)のだ。

 おかげで人間との争いは発生していない。


『フランのさ、あの能力で侵入者を入れないようにってできないの?』

『可能です。街の外へ転移させてやりましょう。地上2メートルほどの位置に転移先を設定し、下には岩があるとなおよろしいかと』

『嫌いなんだね~。まあそれで人が死ななきゃなんでもいいよ。任せた』

『はっ!』


 このやり取りのせいで、足の骨を折る冒険者や衛兵が続出し、街の薬師が儲けたそうな。

 風が吹けば桶屋が儲かるという話であった。




 それから7日ほどが経過し萌美がコスプレをして遊んでいるときに、『我が君、申し訳ありません』と泣きそうな声でフランが連絡をしてきた。


『おお、どうしたの? なにごとよ』

『連日、侵入者の数が多すぎたせいで、魔力が底をついてしまい転移が間に合いませんでした』

『あー、数の暴力で来た感じかぁ。まあでも仕方ないっしょ。どんまいどんまい』

『不徳の致すところであります……』


 意気消沈といった様子のフランに『失敗は成功の元ってね!』と励ます萌美。

 怒り狂い叱りつけ怒鳴り散らかさないだけの分別はあったようだ。


『死体や痕跡を全て吸収してしまいましょうか』

『いや、そのまんまで良いんじゃない? 下水道に危険生物がいると思わせて、討伐とかしにきた人を常にいさせてマナをゲットってね』

『はっ。仰せのままに』


 侵入者は街の衛兵や冒険者の他に、高級そうな装備を身につけた者も複数居た。

 それは王都から派遣されてきた兵士や魔法使いであったが、萌美には判別ができない。


 やがて侵入者の一団は、腐臭を放つ肉片の山を発見する。

 虫やネズミが集まっているそれは、よく見れば人の顔や手足があるものだった。

 下水道の奥までひたすら続くそれは、いったい何人の人間の死体でできているのか想像もできない。

 ダンジョンの吸収である程度は腐臭も減っているが、それでも嘔吐する者が後を絶たなかった。


 萌美がこの肉片の中に立って笑っていたなど誰が信じるだろうか。

 まともな人間のすることではない。

 つまり萌美はまともではなかったが、それは最初からわかりきっていることであった。


 街の衛兵が『スラムの』や『ゴロツキが』などのワードを話していることを聞き取り、萌美がそちらへ感知のアンテナを向ける。


『いなくなった者全てだというのか……? この死体の山が?』

『恐らくは……。ここにはとんでもない化物が潜んでいるのかもしれません』

『しかしこの者たちはなぜこの中にいたのだ?』

『ゴロツキの仲間から、いきなり目の前から消えたという証言はあがっておりましたが』

『例の爆発音といいこの死体といい、いったい何が起きてるというのだ……』


 爆発音は萌美の撃った銃の音であるし、この死体は萌美が殺したものである。

 つまりこの衛兵に迷惑を掛けているのは全て萌美なのである。


『隊長、魔法使い殿が探査の魔法を使うべきと言ってきておりますが』

『そうだな。やってもらうように言え』

『はっ』


 萌美が『探査の魔法ってなんぞや?』とのんきに考えていると、フランが焦ったような声で『我が君、魔法使いを転移いたしましょうか?』と言ってきた。

 しかし萌美はそれを断り、魔法使いのマナの動きを知りたい、と見守ることにした。

 冒険者たちは魔法が使えないものしかいなかったので、これが初めてちゃんと魔法を見る機会だったのだ。


 英雄も魔法を使っていたが、一瞬のことすぎて理解できなかったので萌美は諦めていた。

 萌美曰く『クソチート僕イケメン勘違い勇者』とのことだ。嫌いらしい。


「ん? なんだ? なんかめっちゃ騒いでる。あっ」


 魔法使いの使った探査の魔法で、下水道に繋がっていた無数の地下通路の存在がばれてしまった。

 このままではここまで辿り着いてしまうと慌てた萌美は、マナを使ってダンジョンを作り変えていく。


 ダンジョンコアと繋がっていないと、ダンジョンンとしての機能が失われ支配領域も解除されてしまうため、安易に壁を作り塞ぐことはできない。

 それだけは支配領域を広げるの説明欄に書かれていたので覚えていたようだ。


「クソ、しくった。えっと、とりあえず通路を深く掘り下げて、で、湖の方と連結させて水没させて……」


 地響きと共にダンジョンが通路の形を変えるが、それが決定打となったのか『ここは、ダンジョン化しているのか?』と偉そうな兵士に気付かれてしまった。

 どうやら慌てたダンジョンマスターが形を作り変えるのは共通のようで、以前にもダンジョン内で地響きを聞いたようだった。


「ぐわー! なんで気付くんだ、クソ! なんなんだこいつら! あー、もう、めんどくせー!!」


 やる事が全て裏目に出てしまった萌美は、頭を抱えて床を転げまわっていた。

 感情の発散の仕方が幼児と一緒である。

 萌美がふてくされて寝ていると、頭の中にフランの声が響いた。


『我が君、いかがいたしましょう。皆殺しにしますか?』

『いや、悪人以外を殺したらそれこそ取り返しつかなそうだからやめとこう。水没させた通路は長いからこっちまで来れんでしょ』

『はっ。承知いたしました。ご命令があればなんなりとお申し付けください』

『はいよー』


 何もかもが面倒くさくなってしまった萌美は、ぶすっとした顔で侵入者の様子を見ていた。

 魔法使いの何人かが水を操る魔法で、水没した通路の水を抜こうとしている。


「わははは! バカめ! 湖の水がどれだけあると思っている! 無駄無駄ァ!!」


 途端に元気になった萌美が嬉しそうにはしゃいでいた。

 楽しそうで何よりである。


「ほらほら、抜いたそばからあたしが生成してやるぞ~? お手上げかね? 他愛ないのう、ザコめ。ザコ、ザァ~コ」


 全裸女が虚空に向かって嘲笑を浮かべながらメスガキの真似をしている地獄の光景がそこにあった。


 ひとしきりメスガキムーブを楽しんだ萌美はもう飽きたらしく、服を着て酒場に行ってしまった。

 水没した通路は水を抜かれる心配もないし、泳いで通ろうとしても長い距離と水生魔物が守ってくれるので安心なのだ。

 触手タイプや鮫タイプのなどの魔物は萌美の『人を殺さない』という命令を忠実に守っているので、活かさず殺さずひたすら溺れさせるという戦法をとる悪辣な魔物となっている。

 人に対して効率的に嫌がらせを行える魔物たちは、萌美の影響をとても強く受けているようだ。


 現時刻は朝の9時半、娼館の客たちが朝食を食べ終えていなくなったちょうどいい時間である。

 朝から娼婦と客がお互いに「あーん」をして食べさせあっている空間になどいたくないのだ。

 萌美の口からは砂糖ではなく反吐が出そうになるので、時間をずらすことにしたのであった。


「ヴェイグー、腹減ったからフレンチトースト作ってくれや」

「おう、いいぜ。作り方教えてくれや」


 萌美の無茶振りは、ヴェイグにとっては未知なる料理を知ることができる嬉しいできごとのようであった。

 結局、フレンチトーストのほぼ全てを自分で作った萌美は、料理のレシピ本をヴェイグにプレゼントしようと思った。

 この世界の本をダンジョンに吸収させたことで、この世界で使われている文字は生成可能になった。

 なのでヴェイグが読める文字のレシピ本ができるのだ。


 しかし料理キチのヴェイグにそんなものを渡してしまったら、昼夜を問わずのべつ幕なしに料理をし続けてしまうだろう。

 ブレーキ役のヴィルマがいなければ、中年男性の過労死体がひとつできあがるところであった。


「やっぱ朝はフレンチトーストだよなぁ」

「おめえ、ウインナーとベーコンとか言ってたじゃねえかよ」

「そんなもん毎日食べてたら飽きるに決まってんだろ? なに言ってんだよ」

「おめえがな」

「いいや、お前がな」


 呆れた顔をしたヴェイグが萌美の前にホットコーヒーを置く。

 萌美が「サンキュー」と言いながら、それに口をつける。

 甘い味付けのフレンチトーストに、ホットのブラックコーヒーの組み合わせは最高であった。


「あ、そうだヴェイグ。孤児院の地下に部屋たくさんとしばらく暮らせるだけの物資用意してあるから、いざとなったら皆でそこ逃げてね」

「おいおい、なんだよそりゃ。何が起きたか教えてくれや」

「なんか下水道にいっぱい兵士とか来た。偉そうなやつとか魔法使うやつもいた」

「ついに突破されちまったか……」

「ん? なんでヴェイグが知ってる?」

「そりゃおめえ、ウチに来る冒険者どもが「下水道入ろうとすると飛ばされる」だの「進展なしでも大銀貨4枚は美味い仕事だ」だの話してたからな」

「ここの客だったかよ、あの冒険者たち。足の骨が折れても毎日来るから頭おかしいのかと思ってたけど金だったか~」

「生き意地汚いのは冒険者どもの特徴だろ。しぶとくて図太いしたたかな野郎どもだよ」

「ゴキブリみたいだな」

「似たようなもんだ」


 だいぶ失礼な物言いである。


「でもおめえがここにいるってことは今すぐ問題はねえんだろ?」

「んー、たぶんね。でもチンピラどもの死体は見つかったから、あたしがダンマスってバレたら殺されんじゃね? 大量殺戮をしたダンジョンマスターだし」

「スラムのゴロツキどもには酷い目にあわされたやつも殺されたやつもいんだ。おめえのやったこと全部が間違ってるとは思わんよ」

「ま、とりあえずあたしが捕まってもヴェイグたちは無関係だってことにするから、ちゃんと話し合わせてくれよ。人質取られて脅されてたとかさ」

「女子供を守るためには仕方ねえのか……? でも忘れるなよ。俺たちはお前の味方だってことはよ」

「ん、サンキュー」


 ヴェイグからの信頼がむずがゆいらしく、萌美は誤魔化すように大口を開けてフレンチトーストを頬張った。

 リスみたいに頬を膨らませて咀嚼する萌美を、呆れたように笑いながらヴェイグが見ていた。


 そんなときだった。

 萌美の脳内に『ご主人様!!ヤバいです!!』とレオナの声が響いたのは。


 その大きな声量に痛そうに頭を押さえた萌美が『うるせーな、おい』と文句を言う。


『そんなことよりもヤバいんですって! 英雄のやつがこっちのダンジョンから下水道の方に行っちゃいました!』

『はあ? 繋がってる通路は絶対にバレない幻影の壁で隠したって言ってただろ。手抜き工事かお前』

『だってバレなかったんですもん! 英雄だって壁確認してたけど遠りすぎてたし! 下水道の方でなにかあったしか考えられないですよ!』

『なにかって、あっ』

『心当たりがある感じですね? あ~、私のミスじゃなくて良かった~』


 自分の責任じゃないからと安堵するレオナは、萌美に似て最悪の性格を持っているようだった。

 眷族のほとんどの優先順位のつけかたが、萌美、自分、それ以外であるが、レオナだけは萌美と自分が拮抗している可能性が高い。


 ちなみに英雄フラナングが幻影の壁を見破ったのは、下水道内で魔法使いが探査の魔法を使ったせいで下水道側の幻影の壁が解除され、血と腐臭のにおいが漏れ出たためである。

 何キロも離れた場所のにおいを嗅ぎ取るなど人間業ではない。

 犬や鮫のような嗅覚を有しているのだろうか。


『英雄のやつ、きっと金のにおいでも感じ取ったんだろうよ。クソ、意地汚いやつだ……』

『そうですかね。ご主人様みたいな人はそうそういませんよ?』

『少なくとも英雄はそうだ。あいつは絶対にあたしの財産を奪おうとしてやがる』


 じわじわと追い詰められていくせいで、萌美の思考がまともではなくなっていく。

 金が絡むと途端に被害妄想に取り憑かれたサイコパスと化す萌美である。


『このまま英雄が進めば下水道の一団と合流する』

『合流するとどうなるんです?』

『知らんのか。英雄が来る』

『ヤバくないですか?』

『ヤバいよ。お前もヤバいって連絡入れてきたんだろうが。とりあえずマスタールームに全員集合。対策練るぞ』

『わかりました!』


 同じ姿勢のまま固まり虚空を睨んで百面相をする萌美を、ヴェイグは怪訝そうな顔で見ていた。

 眷族と連絡を取り合っているときは、たまにこうなるのだ。

 動き出した萌美にヴェイグが声を掛けると「わりい、緊急、戻る」と早口の片言で返された。

 そのまま足早に階段を降りていく背中を、酒場にいる誰もが心配げに見ていた。


 マスタールームに戻った萌美がまずすることは、服を脱ぐことではなく装備をつけることであった。

 流石に全裸で英雄と相対するのはまずいと判断したようだ。


 群青色の服は官憲(かんけん)が着ているような制服然としたもので、それに腰まである短めの外套を羽織って黒い革靴を履く。

 イギリス紳士が持っているような杖を持ち、左目部分に穴の開いたブリキのバケツヘルムをかぶればコスプレ完成である。

 この衣装を選んだ理由は、万が一英雄と対峙しても顔を見られないからなのだろう。


 着替え終わり、右手に持った杖を高く掲げ、左手を右胸に当ててポーズを取った萌美に、レオナ以外の眷族が同じポーズで返した。

 緊急と言いつつも余裕はあるようだった。

 真面目な顔でポーズを取る眷族たちは、きっと何か深い意味があるのだと思っているが、ただコスプレでテンションが上がってしまった萌美の悪ふざけである。


「さて諸君、英雄が来た。解決策を出してくれ。なるはやで」


 萌美の発言を皮切りに、対応についての話し合いが始まった。

 ふわふわのラグマットで車座になり、ああじゃないこうじゃないと話す様子は、まるで女子会であった。


「ご主人様が死んだらヤバいんで、大量に魔素を摂取したらどうです? 格段に強くなるかもですよ」

「わかった」

「主様、少しの隙間を開けておけば、ダンジョンが繋がっていることになりますので埋め立ててしまいましょう」

「採用」

「我が君、いざというときのために、我らに強力な装備をいただけませんか」

「オッケー」

「あなた様、業腹(ごうはら)ですが、残りの眷族を召喚してはいかがでしょうか」

「そうだね」


 まず萌美は、液体状に圧縮した魔素を血管内や胃に、直接生成することから始めた。

 ダンジョン中の魔素を集めたので、中ボス部屋の泉や薬草が枯れ、生きるのに魔素の必要な湖の魚が次々と死んでいく。

 目や鼻、耳などありとあらゆる穴から血が噴出すが、萌美は魔素の生成をやめない。

 苦しいのも面倒なのも、この先生きのこるためなら苦ではないのだ。


「よし、なんか強くなった気がする」

「主様これをお使いください」

「サンキュー」


 エイシェトから受け取った濡れタオルで、血まみれの顔を拭く。

 赤く染まったタオルを、服の内側に付着した血と一緒にダンジョンに吸収させてため息をひとつ吐いた。


「次は武器か。適当に出しておくから好きなの使ってね。あとはダンジョンの改築か」

「あ、私たちでやっておきましたよ~。ご主人様は召喚しちゃって大丈夫ですよ」

「あんがと」


 萌美はふらつく体で立ち上がり眷族を召喚しようとしたが、壁に取り付けてあるスクリーンに英雄の姿を確認しそちらへ意識を向けた。

 下水道内で偉そうな兵士と話しているところだった。


「うわ、もう合流しちゃってんじゃん。やべえ」

「あなた様、お急ぎを」

「ここも戦うには不向きですね。広く改装いたします」

「コアに多重障壁張った。あれ壊されたら終わりだもんね」

「英雄ではなくあやつらが壊しそうであるものな」


 少しでも生存確率を上げようと、それぞれがそれぞれのやることを懸命にこなしていく。

 今までにない何か熱い一体感、というやつだ。

 

「あーと、なんだっけ。たしか『強硬派』の『物理タイプ』と『魔法タイプ』の『攻撃型』と『守備型』全員まとめて出てこいや」


 ふらつく体をマリーに支えられながら、床に描かれた魔法陣を見る。


 まず最初に出てきたのは鎖帷子の上に騎士鎧を着た巨漢であった。

 萌美が見上げるほどの身長は、280センチほどはある。


 次に出てきたのは螺旋状の巨大な剣だった。

 騎士鎧の巨漢が、それが当然であるかのような動きでその柄を掴み持ち上げる。


 その次に出てきたのは揺れる人型の炎だった。

 それが鎧の隙間に入り込むと、鉄の鎧や鎖帷子が赤熱し、赤黒い剣に炎がほとばしる。


 最後に出てきたのは雷の槍であった。

 騎士が左手で掴むと、手の中に消えていくが、帯電しているかのように電気が走っていた。


「おお、すげーの出た。名前なんてーの?」

「この者共は喋ることができません。名はシンダー、グルート、ブラーチェ、アスクァスですが、個としての意識は薄いので覚える必要はありません」

「本能のまま、我が君の敵を討ち滅ぼすだけの存在です」

「ま、戦力的には頼りになりますけどね~」


 赤熱した鎧の騎士は無言でたたずみ、萌美を見ていた。


「喋れないのはアレだけど、まあ頼りにしてるよ。ていうか4人で1人って感じなの?」


 萌美の問いに騎士が頷くと、火の粉が鎧の隙間から飛んだ。


「じゃあ4人で1つの名前つけるかぁ。騎士、鎧、うーん、ナイト?」


 騎士が首を横に振る。自己主張はしっかりとするようだ。


「えー、じゃあ炎、ファイヤー。これもダメね。てか君パチパチ言ってるけど大丈夫なの? 体燃えてるよね」


 首を縦に振り大丈夫アピールをする騎士だが、動くたびに細かい火の粉が飛んでいた。


「燃えてて平気なんかよ。体が薪かなんかでできてんのか? お? 薪? 薪がいいの? 違う、そうじゃないのね。燃えてる薪? 燃えてはいない。燃えてない薪?」


 騎士の首の動きを見ながら、何が言いたいのか萌美が探っていく。

 数分ほどそのやり取りをし、最終的に単語を萌美が言いまくる形に落ち着いた。


「炎、炭、炭火、灰、火の粉、火炎、煙、とろ火、たき火、(おき)火、残り火、お? 残り火? 残り火がいいのか。じゃあ決定ね。今からお前は残り火だ」


 長い命名の儀は、満足そうに騎士が頷いたことで幕を閉じた。


「なんか1番あたしっぽいよな。あたしの化身って感じ」


 その言葉を聞いた騎士の体が一際強く輝き、鎧の隙間からほとばしる焔が全身を這いずるように揺らめいていた。

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