もう1人の王女
「川島」
「なんだ田中か」
やってきたのは田中隆吉。関東軍の中佐で芳子の上官だ。
「なんだとは何だ。つれないな。ところで今の娘は一ノ瀬社長の娘か?」
「それがどうした?」
「随分とお前になついているようだな?」
「そうだな。」
田中は何が言いたいのか?
「田中、言いたい事があるならはっきり言え。」
「あの娘、いいパイプになりそうだ。」
利用価値のあるやつは誰であろうと徹底的に利用する。それが軍のやり方だ。芳子自身もそのうちの1人だ。
「芳子、あの娘は徹底的にお前の手の内に入れて服従させろ。それがお前の任務だ。そしてあのホテルごと軍の支配下に置いてしまえ。」
「分かりました。」
芳子は自分を慕ってくれる美佐子を軍のために利用するのは心苦しかった。しかし王朝復活の夢には今は日本軍の力が必要。嫌とは言えなかった。
「じゃあ僕はこれで。」
芳子は煙草の火を消してその場を去ろうとする。
「待て。」
田中に肩を抱かれ引き留められる。
「何ですか?」
「近くにホテルをとってある。寄ってかないか。」
「悪いが明日も早いんでね。またの機会に。」
肩に置かれた手を振り払うと宮殿を後にした。
芳子は玄関口に待たせておいた車へと乗り込む。
「出してくれ。」
芳子は着ていた軍服のジャケットを車内に脱ぎ捨てる。
「触られるだけでも気持ち悪い。これだから男は嫌いだ。」
建国の祝賀会1週間経過した4月。美佐子は北京の女学校に編入した。白いチャイナ服に黒いプリーツスカートを身に纏い。これが女学校の制服だ。中国人少女の姿で登校。
美佐子は教室に入ると先生から級の少女達に紹介される。
「一ノ瀬美佐子と申します。宜しくお願い致します。」
美佐子は空いてる席を勧められる。
休み時間同じ級の娘達が友人同士で集まってる中美佐子は1人自分の席に座っていた。その時
「美佐子さん。」
1人の少女が話しかけてきた。
「はい?」
「貴女満州国建国の祝賀会にいらしてたでしょ?お兄様と一緒に踊っていたわよね。」
「お兄様?」
「川島芳子よ。貴女のこと相当気に入っていたみたいだわ。二人で宮殿の中庭に消えていくし、何話してらしたの?」
彼女の名前は愛新覚羅憐羅。芳子の妹だと言う。今は芳子と一緒に暮らしているという。
「羨ましいわ。芳子様といつも一緒だなんて。ご自宅でも芳子様は男装を?」
「ええ、あの方は生涯を男として生きていくと誓った方ですから。」
「ねえ、少し頼まれてもいいかしら?」
「何を?」
「お手紙を書きたいの。芳子様に。」
芳子様の上官である田中さんは今流行りの「百合の間に割り込む男」設定です。