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春のお題【春休み】

『なみだあめに散る』のセルフ二次創作芸能界パロの世界線。

スリーピースバンド【tricolore】の始まりの日。

一秋…ギター&ボーカル

宏樹…ベース

凛…ドラム

春の花の蕾がポツポツと開いてきた時期。コートを脱ぎ、マフラーもクローゼットに仕舞われる。ほんのり暖かい風と陽射しは眠気を誘う。さらに、風通しも日当たりもバッチリなベランダ。そこには室内用ハンモックや『人をダメにするクッション』、簡易ベッドなどが置かれ、正しく昼寝に相応しいロケーションだった。

極め付けに、高校生活が終わり、一般生徒より早めの春休みに入った3人組。古谷一秋、潮崎宏樹、西井凛は暇を持て余していた。

「俺達の青い春が終わるなあ……」

「モラトリアムはこれからだっつの」

「好き勝手はできなくなるわね」

ダラダラとしながら話す内容は中身なんか無い。何となく集まり、何となく時間を潰す。ついでに言えば、彼らがここまで緩いのは訳があった。

「大学まで一緒だと別れ感ないからなあ」

一秋が言う。大学進学は決めていたものの、大学自体に特にこだわりのなかった3人は、くじ引きで決めたのだ。学科が多くあり、なるべくルールの優しく、自由度が高い大学。

「俺、音楽総合学部だけど、お前らなんだっけ?」

「俺は教育学部」

「私、心理学部」

「全員バラバラかあ」

「そこまで一緒はキショいでしょ」

ポンポンと交わされる会話のテンポは早い。そんな緩い空気に割り込むように、ノックの音が響いた。

「若いモンが春先にダラダラと……何してるんですか……」

「かずにい、ひろくん、りんちゃん!おかしだよ!」

「ほら、オヤツですよ。ミニテーブル出してください」

部屋に入るなり、テキパキと指示を出す山内の手の皿には、色とりどりの和菓子が乗っていた。反対の手には急須と湯呑み。さすがの山内でも、その両手で扉を開けることは危険視したのだろう。一秋の弟である千春を伴っていた。

「おー山内サンキュ、俺和菓子好き」

「ありがとうございます」

「私お茶入れますよ。ハル、跳ねると危ないから、顔寄せないの」

「はあい」

ミニテーブルの上でカチャカチャと開かれるお茶会。山内は座り込みながら、和菓子を一つずつ指していく。

「春ですからね。桜餅に柏餅、ひなあられも用意しました。凛さんが入れてくれたお茶は桜茶といって、桜の花弁を塩漬けしたようなものです」

「ピンクいろでかわいいねえ」

凛の持つ急須から出る水は、綺麗な桜色。その様子をうっとりと見つめる千春は、子供らしくその色を楽しんでいた。

「ピンクの飲み物って酒くらいしか見たことねえ」

「確かに。カクテルとかロゼワインとかだよな」

「千春坊ちゃんの前で慎め未成年」

一秋に同調した宏樹は、ひと睨み効かせる山内に苦笑いを返した。その心は『アンタも同じようなもんだったでしょ』だろう。

「で?ダラダラしてるんだったらバイトでもしたらどうです?普通の大学生なんてバイトしてなんぼなんでしょ」

「バイトなあ……乗り気じゃねえな……」

「一秋さんは協調性あんまないですからね」

一秋は率先して何かを企画したり、活動してきたタイプである。それゆえに、みんなと合わせることや、同じ事をすることが苦手であった。

「ヒロと凛さんは違うでしょう。それなりに上手に生きてけますよ」

「カズよりは自信あるな」

「私も」

そんな一秋に引っ張られることが多かった2人は、むしろ人に合わせるのが上手い。全体を見て、まとめることができた。

「みんな、がっこうお休みなの?」

一秋の膝の上で桜餅を頬張ってた千春が、ふと顔を上げる。春休みという概念があまりない未就学児だ。あまり良く分かってないのだろう。ただ、休みは大好きな兄姉達が遊んでくれると思っているため、どこか嬉しそうだった。

「じゃあね、ちはる、みんなでまた音楽やりたい!」

桜餅の餅をベタベタとつけた手のひらを、上に向かって高々と挙手をする。その発言に、一秋は閃いた。

「……音楽だ」

「はあ?」

「あーまたなんか思いついたわよ、このキテレツ……」

パッと立ち上がると、千春を両手で持ち上げる。高い高いに無邪気に千春は喜ぶが、ライオンキングの有名なシーンが山内はよぎった。

「文化祭のバンド演奏!楽しかったよな!」

「いや、まあ楽しかったけど……」

「あのね、金稼ぐどころか金使う遊びじゃない、それ」

スタジオ代に、楽器の維持費、ライブなんかもするなら金がいる。現実的な凛の発言に、宏樹は深く頷く。

「馬ぁ鹿、何のための親だよ。滅多に帰ってこねえんだから、その辺のコネくらい使わせてもらおうぜ」

一秋と千春の両親は、世界を股にかける音楽家だ。知り合いにスタジオ持ってる人いるだろうし、楽器も古いのくれる人いるだろ、と言う一秋。既にスマホ片手に何処かへ連絡を取り始めてる。

「駄目だ、生き生きし始めた……こうなったら誰もアイツを止められねえ……」

「ま、私は飽きるまで付き合いますか」

やれやれ、と言いながら、慣れた状況に身を任せるのは得意だった。それに、一秋に乗っかって後悔したことはあまりない。多少はあるが。楽しかったことが多かったのも事実だ。

「俺、先輩に軽音サークル入ってる人いるからライブ混ぜてもらえないか聞いとくわ」

「じゃあ私はオトモダチに声掛けとくかな。男でも女でも連れてデートに来いって」

やんわりとした春の陽気に当てられてた部屋は、もう変わろうとしていた。近い将来、ワールドツアーが『当たり前』になるほどのグループ。春休みの朗らかな空気から発進するとは、誰も予想できないことだっただろう。


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