表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

すこしふしぎな1週間:day2 高校

day2:烏丸左京の場合

烏丸左京(45)…畠之中露草珠神社の神主。3人の息子がいる。カラスの半獣人。

「おや」

烏丸左京は手にしていた箒を柱に立て掛けた。神社は意外にも箒が活躍する。周囲に木や林が多いことはもちろんだが、石にも相性が良かった。露草様がいらっしゃる本殿への道は石畳が敷いてあり、その周囲は砂利が撒かれている。小さな石は人が歩くたびに石畳みに転がってきてしまう。それを箒で砂利の海に戻してやるのだ。

石畳を降りて、砂利の上を真っ直ぐ歩く。安全柵を越えて隣接する森に足を踏み入れた。

「こら、何を拾ってきたんですか」

そこには数羽のカラス。カラスの半獣人である烏丸は、カラスと所謂同類である。初めこそ足音に警戒した素振りを見せたが、烏丸だと気付くとカラス達は何事もなかったように、茶色の何かを突ついている。

烏丸は紫色の袴が地面に擦らないように膝元を軽く持ち上げ、足を折った。しゃがみ込み、カラス達が囲んでいるものを観察する。ボロボロとこぼれる様に細かくなりつつある塊。

「……コロッケ?」

それはどうやら、コロッケの様だった。中から出ている薄い茶色のじゃがいも生地に、粒々の挽肉。まだ温かいようで、カラス達が突いたばかりの部分は白い湯気が立つ。そこから香るジャガイモと肉と揚げ物の匂い。まごうことなき、コロッケだ。

害がありそうなものじゃなくて良かった、と思うと同時に、なんだか懐かしい気持ちになる。


それはもう何十年も前の、学生時代。寮生活だった烏丸は、朝昼晩と、食事はすべて学食に支えられていた。気付けば一緒にいた山羊の友人と、猫の友人。

彼等と選ぶメニューが被ることは滅多にない。山羊の友人は野菜やハーブが多い食事を好み、猫の友人は肉や魚を好んだ。烏丸は満遍なくなんでも食べた。肉も魚も野菜も好きだったからだ。

だが、コロッケだけは別だった。校舎から寮に戻る数分。校舎内の食堂で1つ六十円のコロッケを3人並んで食べて帰る。「行儀が悪い」と顔を顰めていた友人と、「これが堪んねえんだよなあ」と大きい口で齧り付いていた友人。特別コロッケが好きだったわけではない。あの穏やかに流れるような、緩い時間が好きだったのだ。

「懐かしいですねえ」

遥か昔の、青い春の話だ。でも、なんだかコロッケが食べたくなってしまった。カラスたちもすっかり食べ切ってしまったようで、カア!と烏丸に挨拶するように鳴いて飛び去っていく。

今日はコロッケを沢山作ろう。「近くに来たから寄っただけだ」と言いながら会いに来てくれる友人と、「軒先借りるぜえ」と軽い気持ちで遊びに来てくれる友人にもお裾分けできるくらい。

「よし」

気合を入れて立ち上がる。袖を捲り、腕時計を確認する。あと少しで今日の祈祷の時間だ。一度、社務所に戻ろうと烏丸は踵を返した。

「……ジャガイモ、足りますかね?」

そう呟きながら歩く後ろ姿を見ていたのは、忘れられた箒だけだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ