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心配

 二週間という期間は存外短い。その間に出来ることはしておこうと、無い頭を振り絞った結果ーー

「おい鬼灯。マジでその怪我三日で治せよ」

「は?ったりめぇだろ」

「ヨシ」

「ヨシじゃないでしょ!!」

 背後からぶっ叩かれることになった。どして?

 叩かれた頭を撫でながら振り返ると、俺を吊り上がった目で見上げる灰原がいた。お前ちっこいのによく届いたな、と手元をふと見ると、そこには丸めたノートが。お前こんにゃろ。

「おい灰原。俺はこの筋肉ダルマと話してるんだ。暴力はいけない」

「俺のどこがダルマ?」

「不屈なとこ」

「なんか照れるな」

「あーもういいから真面目に話させて」

 頬を赤くした鬼灯というレアな光景をぶった斬って、灰原は腰に手を当てる。

「あのね。骨折してないのが不思議なぐらいの怪我だったのよ?それを三日でなんて、無理に決まってるでしょ」

「まぁそうだな」

 後に傷を見せてもらったが、かなり内出血が酷かった。雨森に聞いたら、痛め止めと湿布も一週間分出ているようだ。

「俺は大丈夫だ」

「うん、そうだね。強いねー」

 強がる鬼灯をいなしながら、俺には指を突きつける。爪ちゃんと切ってるんだな、なんてどうでもいいことを思った。

「わかってるなら、無理させるようなこと言わない。……で、何があったの?」

 つん、と腹をその指で突かれる。まじで察しがいいなお前。

 俺は手招きして廊下に出る。ついてきてくれた灰原を連れて、階段を降り、そのまま中庭に出た。

 湿り気のある風が通る。日本海沿岸部のこの地域は、年中湿度が高い。そろそろ秋も終わり、冬がやってくる。湿度の高さは、雪の多さにつながる。今から雪かきが嫌でならない。

 中庭には、もう肌寒い季節にしては人が多い。多くは男女のペアで、それが3~4組ほど。場所間違えたかもしんない。

「うわ、場違い」

「まぁ人目は少ないし」

 俺程の抵抗はないのか、そのまま隅の方に歩いていく。落ち葉が足元を鮮やかに彩っているのが、やけに目についた。

「で、なんなのよ」

 立ち止まったのは、夏は虫で鬱陶しい銀杏の木の陰だった。ここならある程度の視線は防げるとの判断らしいが、ここ未だに虫がちょろちょろしてんだよなぁ。ベンチは埋まっているし、仕方がないが。

「まぁ、あれだ。俺にできることがなんかないかなーと……」

「なにそれ」

 灰原が不審げな目で俺を見てくる。いやなにそれって……ほら俺一応さ、隊長じゃん?それに――

「二週間後とはいえ、学内戦も近いしさ」

「心配になったんだ」

 端的に内心を表され、恥ずかしさで思わず頭をガシガシと掻く。俺が分かりやすいのか、いつもこいつは俺のことを見透かしてくる。腕の断面から思考が漏れてんのかね。

「悪いか?」

「ううん。ちゃんと隊長してていいんじゃない?」

 えらいえらい、と頭をなでようと手を伸ばしてくる。変なお姉ちゃん気質がそうさせるのか、俺のことを弟だとでも思ってるのか。

 撫でられてなるものかと、その手を叩き落とし、逆に頭に手を置いて、ぐっと体重をかけてやる。なんかわからんが、とにかく仕返しがしたい気分だった。

「ぐぁ、重っ!やめんかい!」

 バシッ、と勢いよく手を払われ、警戒したのかバックステップで下がる灰原。猫のような仕草に、何故だか妙な安心感を抱いた。

 襟をキュッと正し、向き直る。目が合うが、何故かすぐに逸らしてしまった。

「でさ。――真面目な話、俺はどうしたらいいと思う?」

「ん?そうね……」

 戯れ合いもそこまでに、本題を進める。こうしてわざわざ呼び出したのも、こういう大きな声では言いたくない話をするためだ。

 隊長の情けない姿は、あまり見せたくない。見栄だけの問題じゃなく、信頼の問題として。

 灰原は顎に手を当て、小さく頷く。彼女のいつものスタイル。この時に「ロダンかよ」とか茶々を入れるとぶん殴られる。ソースは俺。

 待つこと数秒、顔を上げた彼女と目が合う。

「やっぱり、静香ちゃんと話した方がいいよ」

「速水と?」

「そ」

 あの気難しい新入りと話すのか……と、勧誘した当時のことを振り返る。

 踏切パンツ事件(幸運)の翌日、俺は件の女子生徒が気になり、教室をうろうろして調べた。ストーカーかよとか言わないでほしい。若干俺も思った。でもなんか運命的な何かを感じたのだから仕方ないじゃないか。舞い上がっていたんだよ。

 で、隣のクラスでようやく見つけた俺は、盗み聞きを駆使してどうにか名前を知ることとなる。小隊が解散したことは話の種にもなっていたこともあり、割とあっさりと知ることができた。

「新しい小隊に馴染むかどうかは、結局のところ隊長の賢一にかかってる。私じゃない」

「いやでもさ……」

「聞いたのは賢一っ!あとは自分で考える!」

 スパっと言い捨てて、彼女は踵を返す。暖色に彩られた落ち葉の絨毯を散らしながら、颯爽と歩き去る。そしてさっさと知り合いらしき女子生徒に「あっ!ごはんまだ?一緒に食べよ~」と話しかけて行ってしまった。

 取り残された俺は、ポツンと手のひらに残った助言を見つめる。

 銀杏の葉が一枚、滑り込んだ。

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