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陣形

「聞いたよ。何やってんの」

 小隊室に着くと、そこでは鬼灯が説教を受けてる真っ最中だった。勿論、叱っているのは我が小隊のリトルマザーこと灰原だ。

 叱ってるといっても、二人ともちゃんと椅子に向かい合って座ってるし、内容も「心配したんだから」とか「危険に飛び込まないで」とか、そういう子を心配する母親みたいなやつだった。お前いくつだよ。

「お、生きてたんか」

 とりあえず無事だったようで何よりだ。最悪肋骨逝ってるかと思ってたから、こうしてここに来れてるってことは、重症ではなかったらしいな。

「死んでたまっかよ」

 軽口を叩く元気もあるようだ。若干喋るのが辛そうだが。

「全治どんだけだ?」

「三日もすりゃあ治る」

「二週間は安静だな」

 見栄で言ってるわけではない。こいつは本気で三日で治ると思っている。自分が人間だってことわかってんのかね。

「そんな寝てれっかよ」

「安静ってだけだ。小隊訓練は出てもらう」

 医者からはそれも止められてんだろうけどな。骨まで届いてなくても、内出血はかなり酷い筈だ。時間が経てば血も引くが、無理して動けばそれだけ新たに血が滲む。最悪血を吸い出さなきゃいけなくなるだろう。

「新編成で動けるようにするためだ。時間もない。多少の無理は承知してくれ」

「はっ!だから問題ねっ……ぅっ!」

 早速痛がってんじゃん。灰原も呆れている。

 唯一後ろに突っ立っていた雨森が、心配そうな顔で見つめている。彼女もあの場にいて見ていたのだ。心配するのも無理はない。

 その後も伊藤教官の話題に盛り上がっていると、談話室の扉がガチャリと開けられた。

「こんにちは」

「おう」

 来たのは最後にして最新の女、速水静香だ。最速の女でもあるらしく、短距離ではこの小隊でもぶっちぎりの脚力を誇るらしい。データで見ただけだが、いずれはその脚力を披露してもらうことになるだろう。

「………………」

 彼女は基本、挨拶以上の声を発することはない。返事はする。が、あくまで受動的な態度は崩さない。緊張……ではないだろう。警戒かとも思ったが、それも違う。

「揃ったしもういいか?」

 気になること、話題は尽きないが、今日集まった目的はちゃんとある。時間は有限なのだから、やることはやんないと。

 全員が座ったのを確認して、最後に速水を見る。こちらを見ているようで、しかし目が合わない。まぁ、聞こえてるならいいや。

「今日集まったのは、確認だ。俺達のーー目標について」

 組織運営において最も重要なことは、成長目標を決めることだ。そしてそれに向かう方法、時間、予算等を決定していく。これが出来なければ、組織は停滞し、成長は出来ない。

 まぁ、個人レベルでも全く同じだが。

「長期的には今までと変わらず、この学校で最強を目指す」

 学期毎に行われる、小隊同士のトーナメント戦。そこで優勝を目指す。三回戦以降は他学年も混合のため、一年生である俺達が優勝するのはかなり難しい。今の時点では、万に一つも無理だろう。

「短期的には、二週間後の学内戦で三回戦出場を目指す」

 同学年相手には勝つ。必ず。じゃないと学内最強なんて夢でしかない。

「楽勝だな」

「こら、調子乗らないの」

「いや、楽勝じゃないと困る」

 ポテンシャルだけなら、この小隊は一級品だ。鬼灯を始め、高い能力を持ったメンバーが揃っている。俺が一番足を引っ張りそうなぐらいに。

「上級生相手では、やはり経験の差が大きいから仕方ない。だが同じ一年生相手なら、勢いと力で押し通せる」

 グールを相手にするわけじゃない。敵はあくまで人間だ。それに小隊という規模は、一人が担う戦力割合が大きい。

「甘く見過ぎじゃない?」

「そうかもしれん。だがそれだけ期待してるんだよ。ーー速水、お前にもな」

「ありがとうございます」

 顔色をまるで変えずに返される。あ、あれー?なんか上滑りした?小賢しい士気の上げ方は通じないってこと?

「…………まぁいいや。とにかくそんなわけで、この後すぐに外Dに集合!」

「おー」

 俺が突き上げた拳に便乗してくれたのは、意外にも雨森だけだった。おい、恥ずかしそうにするな。いいんだよそれで。


 ***


 屋外演習場D(通称:外D)に来た俺達。ここはただ柵で囲われただけの空き地だが、それだけに人気がなく、場所取りも簡単だ。

 俺達はジャージに着替え、一応持ってきた訓練武器を手に集まった。

「今日は全体での動きを確認する。俺が指示したらその通りに動いてくれ」

 俺は立場上、こういう小隊訓練や実戦においては現場指揮を担当することになる。正直めちゃくちゃ大変だ。目と頭をとにかく使う。

「段々と指示は短縮していくから、身体で覚えてくれ」

 綿密な打ち合わせをしても、体が即応出来なきゃ意味がない。やはり反復訓練しかないのだ。

「質問は?」

「ね。任せる」

 鬼灯がつまんなそうに返す。お前こういうの苦手だもんなぁ。でも必要だってのはわかってるからか、こうして参加するんだが。

「じゃ、まずは基本形になって。前と後ろはーーそう。で、その間に入って。いや、もう2メートル後ろで」

 指示をしつつ自分も動く。そうして基本形となる陣形が出来た。

 前衛二人が壁となり、中衛、後衛がその後ろから遠距離攻撃をする。奇しくも男二人が、女子を背に守る形となった。

「基本はこの複縦陣だ。ここから状況に合わせて陣形を変えていく」

 俺は幾つかの想定状況を語りながら、小隊を動かしていく。

「民間人の緊急救助!速水が先行、鬼灯はカバー!」

 この想定では、まず速度を優先して速水が急行。そこに後詰めとして鬼灯を向かわせる。俺は後衛二人を護衛しながら進み、二人は援護射撃をする。

 これが突撃陣形。単縦陣とも言う。

 一度複縦陣に戻し、次へ。

「次は前衛が負傷した場合」

 俺は負傷した程で蹲る。そのまま指示だけを飛ばす。

「速水は俺と代わって前衛に。雨森は負傷者の回収だ」

 鬼灯が俺を隠すように前に出る。速水が後衛近くから前衛に上がり、雨森は俺をレンジャーロール(負傷者の上で前転して、その勢いで一気に担ぎ上げる技術)で担ぎ上げ、しっかりした足取りで後ろに下がる。

「そのまま前衛は後退。その間、灰原は捕縛弾で牽制することになる」

 この時、射線が絞られていると牽制にならないため、前衛は正面を開け、回り道で後退する。

 これは前衛が落ちた場合に限った想定だが、矢面に立つ前衛は最も落ちやすい。この陣形は出番に恵まれるだろう。

「これが警戒陣だ。ありがとう」

 雨森に礼を言って下ろしてもらい、再び全員を集める。

「今日はまず、この陣形を覚える。特に速水はよく動くから、しっかり体で覚えてくれ」

 頷く速水。さっきも反応は良かったし、こういう訓練は信頼獲得の場にもなる。うまく生かしてくれ。

「じゃあもう一度通してやる。まずは複縦陣!」


 訓練は日暮れまで続いた。その日の夕食は、いつにも増して美味かった。

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