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05 崩壊

「エンジニア?」


 メアリーが聞き慣れない単語に首を傾げる。


「エンジニアって言うのはね、技術者って意味。工学に携わる全ての人だよ」


「それって、建築士とかのこと?」


「そうだね。それもエンジニアの一つ。他にも整備士、システムエンジニア、インフラエンジニアとか沢山あるよ!」


「……よく分からないけど、分かったわ」


 アヤカが、知らない職業を連呼し過ぎて、少し混乱するメアリー。


 メアリーが、借りていた銃を返そうとアヤカにリボルバーを差し出す。


「これ、ありがと。返すわ」


「別に返さなくていいよ。私が使っても当たらないし、メアリーにあげる」


「ホントに⁉」


 メアリーが一瞬嬉しそうに可愛い声で喜ぶが、直ぐに顔を赤くして、アヤカから顔を背ける。


 そこに、アヤカが、ミカが歩いてきているのを見つけて、大きく手を振る。


「ミカだ!遊びに来てくれたんだ!やっほー!」


「ごきげんよう。アヤカ。……‼そちらの方は、エルフ様ですか‼」


 ミカがメアリーを見て、驚いたような声を挙げる。


「え?この人は、メアリーって言って、さっき森で偶然会ったんだけど……エルフってそんなに珍しいの?」


「はい。この地域でエルフの方がお見掛けするのは、本当に珍しいです」


「まぁ、そうね。あの森には私一人しか、エルフは住んでないわね……所で、その子は?」


 メアリーがそう答えると、ミカが「あ、失礼しました‼」と言って貴族らしく、上品にお辞儀をする。


「メアリー様、私、ミカと申します。よろしくお願いします」


「じゃ、せっかくミカも遊びに来てくれたし、みんなに、私の作業場を紹介するよ」


 そう言うと、アヤカはメアリー達を作業場へ案内する。


 中に入った瞬間、色々な道具が散乱していて有り得ないほど、清潔感の無いアヤカの作業場を見てメアリーが戦慄する。


「……恐ろしいほど散らかっているわね」


 メアリーに続いて、倉庫に入ったミカも、作業場を見て、言葉にはしないものの、驚きの表情が顔に出ていた。


 その二人の様子を見て、アヤカがショックを受ける。


「え?そんなに汚い?」


 黙って頷くメアリーとミカ。


「ハァ……掃除しないとなぁ」


 元々、アヤカは高校生だった時から部屋の掃除がしっかり出来ないタイプだった。そんなアヤカを見かねた、アヤカの母親が代わりに掃除をしてくれていたのだが、別の世界で暮らしをしている今は、当然掃除をしてくれる人もいない為、このあり様だ。


 会えなくなった母を思い出したせいか、少し暗い雰囲気になっているアヤカを見て、ミカとメアリーが、顔を見合わせる。


「アヤカ、私もお手伝いしますわ」


「しょうがないわね。私も手伝ってあげるわ。銃の借りもあるし」


 ミカとメアリーが掃除の手伝いを名乗り出てくれ、アヤカの顔に笑顔が戻る。


「ホントに!?ありがとう!」


 早速、アヤカが数少ない窓を開け、倉庫内に光を入れる。


 中を舞っている大量の埃が日光に照らされ、浮かび上がる。


「じゃ、手分けしてやろう!ミカは作業場の前半分、私が後ろ半分で、メアリーが私の家の掃除担当で良い?」


「構いませんわ」


「良いけど……家ってどこよ?ここら辺には、この建物しか建ってなかったけど」


 すると、アヤカが「あれ」と、作業場の中にある、区切られた小さな三畳程のスペースを指さす。


 よく見れば、シングルサイズのベッドがポツンと置いてある。


「「え」」


 それを見て、ミカとメアリーの動きが同時に固まる。


「あ、あ、あれが家なの?」


 メアリーが顔を引き攣らせ、アヤカを見る。


「そうだよ?」


「犬小屋の間違いではありませんの?」


「いや、私の家だよ!」


 ミカが真剣な表情でアヤカの家を犬小屋と勘違いしているので、アヤカが頬を膨らませて怒る。


「もう。そんなに酷いかなぁ」


 アヤカにとって、家は寝るだけの場所という認識で、今まで不便に感じたことは無かったので、特に改築等も行わなかった。


「う~ん。まぁいいや。とりあえず掃除しよう?家をしっかり作るかは、今度、考えるよ」


「そ、それもそうですね。今はここを綺麗にしましょう」


 ミカが苦笑いして、アヤカに割り当てられた通り、ほうきを持って作業場の前方の掃除を始める。それを見て、ミカとアヤカも持ち場につき、掃除を始めた。


 掃除の進捗が半分ほど行ったところで、メアリーが何かを見つけて、アヤカに声を掛ける。


「アヤカ、これ何かしら?」


 アヤカがメアリーの差し出した物を見ると、何かのネジだった。


「ん?これ、いつ使ったんだろう?」


 アヤカが自分の記憶からネジの照合を試みるが、中々思い出せない。


「あ、思い出した」


 数秒経って、ようやく思い出したアヤカが笑顔で天井を指さす。


「それ、屋根のネジだ」


「それって無くても大丈夫なの?」


「大丈夫じゃない」


 アヤカが引き攣った笑顔で答えると同時に天井がギシギシと軋み出す。


「全員、作業場から出て!」


 アヤカが叫ぶと同時に、全員倉庫を脱出する。


 ちょうど全員が外に出た瞬間、倉庫の天井が崩落して作業場は崩れた天井の下敷きになった。


「私の作業場がぁああ!!」


 アヤカが頭を抱えて地面をゴロゴロと回るが、突然死んだ魚の様に動かなくなった。


「アヤカ?」


 ミカが声を掛けると、アヤカは息を吹き返したかのように、急に顔を上げる。


「そうだ!今こそ新しい家を作る時だよ!」

改稿履歴

・大幅改稿しました。(2021/09/23)

・一部、地の文を修正しました。(2021/12/27)

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