04 エルフの少女・エンジニアの少女
ミカ達と別れた後、アヤカは倉庫で新しい武器の開発をしていた。
アヤカがこの開発を思いついたのは、トラックのタイヤの原料、デンゴンムシの討伐依頼を出した時だ。
いくらアヤカが虫嫌いだと言っても、魔物の素材を採る際に毎回ギルドに依頼していては、費用が馬鹿にならない。
そこで、魔物を離れた位置から仕留められる飛び道具、つまり銃の開発を決めていた。
銃の構造は至ってシンプルで、銃弾の火薬が詰まっている薬莢に穴を開け、火薬が発生させるガスの勢いで、銃弾の頭にある弾丸が発射されて、火薬が詰まっていた空薬莢が残る、という仕組みだ。
だが、アヤカの知る限り、火薬は市場には出回ってない。この火薬をどう調達するかが銃作りの最大の難所だった。
「そういえば、土魔法を使って性質を強く思い浮かべれば、その性質を持った土が作れるんだっけ?」
以前、ギルドに討伐依頼を出しに行った際にどこかの冒険者がボソッとそんなことを言っていたのを思い出し、試してみる事にしたアヤカ。
適当に近くの地面から採ってきた土に、土魔法を使って誘爆性のある軽くて乾いた土を強くイメージする。
すると、土の色が変わり、サラサラとした粉末になった。試しにアヤカが、ほんの少しだけ摘まんで、火を近づけてみると、バンっと小さく爆発した。
「よし。成功!」
アヤカは小さくガッツポーズを取ると、予め作っておいた薬莢に火薬を詰め、弾丸を先端部にはめ込むと弾丸が完成した。
続いて、銃本体の作製に取り掛かる。
遠距離から狙撃する狙撃銃タイプにするか、近距離で連射出来る拳銃タイプにするか悩んだ結果、持ち運びが楽という点から、アヤカは拳銃を選んだ。
土魔法で小さな部品ごと整形して、炎魔法で一気に熱する、という工程を何度か踏み、それらを組み立てることでリボルバー式拳銃の完成だ。
実際には反動が大きすぎるので同時には撃てないが、西部劇っぽくてロマンがあるので、二丁目も作った。
アヤカは、リボルバーの実用テストと素材集めも兼ねて、デンゴンムシ狩りに出かけた。
デンゴンムシは、森の奥を生息地としていて、単体で徘徊している場合がほとんどだ。
「ウゲッ!いた!」
森の奥で、アヤカはデンゴンムシを一体見つけたが、やっぱり遠目から見ても気色が悪い。
1mほどの体長の巨大なダンゴムシがモゾモゾと動く様子はアヤカの背筋を凍らせる。
アヤカがデンゴンムシに狙いを定めて、引き金を引く。
バンッ!
銃口から大きな爆発音と共に、鉄の弾が発射される。
弾は見事にデンゴンムシに命中……せずに、デンゴンムシの隣に立っている木に命中した。
「ん?あれ?」
アヤカがもう一度引き金を引くが、やはりデンゴンムシには当たらない。
リボルバー内に残っている弾が無くなるまで撃った所で、アヤカは自分の致命的なまでの射撃精度の低さに気づいた。
そこに、銃の発砲音を聞きつけたデンゴンムシが大量に集まってきて、アヤカに向かってくる。
その絵面は、虫嫌い兼集合体恐怖症のアヤカにとって、この世の終わりともとれる光景だった。
「ぎゃぁああああ!気持ち悪い!無理無理無理!」
デンゴンムシの大群を背に、全速力で森を駆け抜ける。
アヤカの体力が限界近くになった時、目の前を一人の自分と同い年くらいの金髪の少女が歩いているのが見え、涙目で助けを求める。
「た、助けてぇええ!」
少女はアヤカの方を振り向くと、大量のデンゴンムシがこちらに向かっているのを見て顔を青ざめる。
「えぇえええ‼こっちに来ないでーー‼」
叫びながら逃げる金髪の少女を全速で追いかけながら、なんとかデンゴンムシの群れを撒いたアヤカは、地面に倒れ込む。
「ぜぇ......ぜぇ......死ぬかと思った......」
「ちょっと!あなたが死ぬのは勝手だけど、私まで巻き込まないで!」
アヤカの巻き沿いを食らった、被害者である金髪の少女が涙目で嘆く。
よく見ると、少女の耳が尖っていることに気づくアヤカ。これがよくファンタジー映画とかに出てくるエルフかぁ、と若干感動するがアヤカはすぐに立ち上がると、地面に倒れ込んでいる少女に手を差し伸べる。
「あ、ごめんね。私はアヤカ。あなたは?」
少ししか申し訳なさそうにしていないどころか、能天気に挨拶をしてくるアヤカに呆れながらも、手を握る少女。
「メアリーよ……あなた、それ何?」
メアリーが、アヤカが腰に巻いているホルスターに入っている拳銃を指し、興味を示す。
「ん?あ、これはね銃って言っていう武器。これでデンゴンムシを倒そうとしたんだけど、私が下手くそだから当たらなかったんだよね……」
アヤカが苦笑しながら、拳銃を取り出して、メアリーに渡す。
拳銃を受け取ったメアリーは、不思議そうに拳銃を眺める。
「見たことない武器ね。あなたが作ったの?」
「うん。ここの引き金を引くと、弾……鉄の塊飛び出すんだ」
「弓みたいな感じなの?」
メアリーは自分の背中に掛けていた弓を手に取り、拳銃とサイズを比較する。
明らかに拳銃の方が小さいが、ずっしりとした重みがあり、その美しい形状にメアリーは見入っていた。
その様子を見たアヤカは、何かを閃いたように、拳を手のひらにポンッと打つ。
「試してみる?」
「え?……べ、別に試したいことも無くはないけど!」
「ここだと、色々危ないから、私の作業場でやろう!」
そう言って、メアリーの手を引くアヤカ。
「ちょっと!自分で歩けるから!もう!」
笑顔で自分の手を引くアヤカに文句を言いつつ、さっきまでへの字だったメアリーの口角も少し上がっていた。
◇
アヤカの作業場に着き、アヤカが弾の入っている予備の拳銃をメアリーに渡して、銃の撃ち方を説明する。
「ここの、前についている照準器と後ろについている照準器が重なった所で狙いを定めて、引き金を引くだけだよ!」
メアリーはアヤカの説明を受け、ゴクリと唾を飲み込むと、言われた通りに照準器を使って、岩に色を付けた的に狙いを定め、引き金を引く。
爆音と共に発射された弾丸は、真っすぐ、的に飛んでいき、見事に的のど真ん中に命中した。
「……なによこれ」
メアリーは、弾速、連射性、持ち運びやすさ、全てにおいて弓矢を凌駕している、「拳銃」という武器に大きく感動していた。
「凄いよ!メアリー!ど真ん中に当たってる!」
的を確認したアヤカがぴょんぴょんと飛び跳ねている。
そんなアヤカにメアリーがアヤカの真っすぐに目を見て、真剣な表所で問いかける。
「これ、本当に凄い武器ね。あなた、武器職人なの?」
「ううん。違うよ」
「じゃぁ一体、何者なの?」
アヤカは何と言おうか非常に迷ったが、自分が小さい頃、祖父の話していたことが脳裏に蘇った。
◇
「おじいちゃんは、ホントになんでも作れるよね!おじいちゃんのお仕事って何て言うの?」
私が小さかった頃、よく自分にものづくりを教えてくれたおじいちゃん。
毎回おじいちゃんの家に遊びに行く度に色んな物を作ってくれた。
そんなおじいちゃんに憧れをもった私は好奇心からおじいちゃんの昔の仕事を聞いたことがあったっけ。
そう……たしか、おじいちゃんは―
気づいた頃にはこう、口走っていた。
「私は、エンジニア……かな」
改稿履歴
・大幅改稿しました。(2021/09/23)
・大幅改稿しました。(2021/12/26)