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03 アルフレッド

 病気の少女とその父親を隣町、アルフレッドに送ったアヤカはアルフレッドの街で観光をしていた。

 アルフレッドの中心街では、多くの屋台が並んでいて様々な食べ物の匂いが空腹だったアヤカの腹を刺激する。


「お嬢ちゃん、スンシーは如何かな?」


 アヤカがどの屋台から制覇しようか悩んでいると、小さな白い暖簾を垂らした屋台から店員らしき男性が声を掛けて来た。

 アヤカが屋台を覗くとカウンターの上には見覚えのある、白い米の塊の上に魚の生身が乗った食べ物が。


「お寿司⁉」


 異世界に来て出会った祖国の食べ物を見て、アヤカが思わず驚きの声を挙げると、屋台の店員が首を傾げる。


「オスシ?スンシーですよ」

「いや、スンシーって……(名前ダサ)」


 この世界で寿司をスンシーなどと命名した人間のネーミングセンスを疑いつつも、一つ頼んでみる事にしたアヤカ。

 ガラス張りのケースの中には色とりどりの魚の身が並んでいて一瞬迷ったが、アヤカにとって一番見覚えのある赤色のマグロに似た魚の身を注文する。


「えーと、じゃぁこの赤いのを一つ」

「はいよ!」


 注文を受けた店員がカウンターの下から氷の上で寝かしていた魚の身を取り出し、器用に包丁で薄く切り、握ったシャリに乗せる。


「お待ち!」


 店員から差し出されたスンシーを受け取り、そのまま口に運ぶアヤカ。口に広がるマグロの旨味とシャリがアヤカの唾腺を刺激する。


「美味しい‼」


 久々に食べる寿司の味にアヤカが感動の声を漏らす。


「そうでしょう‼アルフレッド名物ですから」


 その後、もう何貫か嗜んだアヤカは代金を払って、スンシーの屋台を後にした。

 特にやりたいことも見つからず、アヤカは街中をブラブラしていると、【診療所】の看板が目に入り、足を止める。


(あの子、大丈夫かな?)


 自分が今さっき運んできた少女の容態が気になり、アヤカは診療所の扉を開けて中に入る。

 待合室に入ったアヤカがチラチラと座っている人々の間を探すと、さきほどの少女の父親が疲れ切った様子で座っていた。アヤカが恐る恐る声を掛ける。


「おじさん......娘さんは?」


 アヤカの声を聞き、男性は顔を上げると、ハッと笑顔をアヤカに向ける。


「あぁ!君か!おかげで娘は無事だよ!今は病室で安静にしている。早ければ、明朝には退院できるそうだ」

「そっか!良かったね!明日に退院出来るんだったら、おじさん達、私のトラックで一緒に帰る?」

「良いのか?」


 アヤカはコクリと頷く。


「ありがとう!本当にありがとう!お礼は帰ったら、しっかりとさせてもらうよ!」

「大丈夫ですよ。今回はただの人助けだし」

「いいや!そういう訳にはいかない!恩人にそんなことをしたら、我が家の名が廃る!」


 急に声量を上げる男性にアヤカは若干引きつつも、結局男性の勢いに押し切られたアヤカはありがたく申し出を受け入れることにし、その夜はトラックの運転席で車中泊をして過ごした。


 ―翌朝。アヤカは昨日の男性と、彼の娘と再会した。

 顔色も戻り、すっかりピンピンしている様子の少女は、深々とお辞儀をすると、貴族らしい上品な口調でアヤカにお礼を言う。


「私は、ミカ=コルユス と言います。昨日は、本当にありがとうございました」

「全然気にしないで!元気になって良かったよ‼私はアヤカ‼よろしくね」


「名乗るのが遅れてしまって申し訳ない。私はミカの父親のレイ=コルユスだ。改めて、本当にありがとう」

 ミカを助手席、レイを荷台に乗せ、アヤカの運転でトラックは帰路へとつく。


「ミカは、いつもどんなことをしてるの?」

「わたくしは、普段、バイオリンの練習や、剣術の修行をしておりますわ」

「へぇー。剣術か~。面白そうだね!今度教えてよ‼」

「はい‼よろこんで。ところで、アヤカ様は―」

「ミカ……アヤカ様は止めて?少し恥ずかしい……」

「分かりましたわ。ア、アヤカは、普段どのような事をしているのですか?」


と、ミカは少し顔を赤らめながら言い直す。


「最近は、このトラック作りに専念してたかな~」


 アヤカがハンドルをポンポンと叩きながら、答える。


「これはトラックと言うのですか!?これは……魔法で動かしているのでしょうか?」

「半分正解だよ。これは機械と炎魔法で動かすことが出来るの」

「キカイ……?」


 ミカが聞いたことのない言葉に、首を傾げる。


「そう。いろんな部品を組み合わせて、物を動かすのが機械」

「なるほど。アヤカは凄いのですね!私もいつか機械を作ってみたいです!」

「そう?じゃぁ、今度私の作業場においでよ!教えてあげる!」

「本当ですか‼ありがとうございます‼」


 そんな調子で楽しく会話をしていたアヤカ達の時間はあっという間に過ぎて行き、ミカの案内でミカの家へ到着したのだが、アヤカはミカの家……もとい、豪華な装飾の施された巨大な屋敷に圧倒されていた。


「何この豪邸‼」

「少しだけここで待っていてくれ」


 レイはアヤカにそう告げると、急いで屋敷に入っていった。


「ミカのお父さんって何してるの?」


 アヤカは、家の大きさのあまり、ミカにレイの仕事を尋ねる。


「お父様は、この町の町長をしております」

「あ、なるほど……ん?町長?え?」


 アヤカが口を開けてポカ―っとしていると、レイが屋敷から速足で戻ってきた。手に何か袋のようなものを持っている。


「ハッ‼もしかして私が失礼だったから、怒ってる⁉」


 町長をおじさん呼ばわりして、腹を立てたレイが報復に武器を持ってきたのかと思ったアヤカは、慌ててトラックを降り、レイに土下座をする。


「ちょ、町長様!こ、この度はご無礼、申し訳ありませんでござる!どうか、お許しくださいでござる‼」


 アヤカの語尾が何故か侍のようになってしまっているが、レイは笑顔を見せる。


「何を謝っているのだい?今までの元気一杯なアヤカ殿はどうした?それより、これを受け取ってくれ。お礼の金貨50枚だ」


 予想もしていなかったレイの言葉を受け、アヤカは白目を向いて呆然と立ちつくす。

 この世界で金貨五十枚といえば、そこそこの家が一軒買えるほどの額だ。

 アヤカの様子を見て、レイが眉を曲げる。


「おや?不十分だったかな?では、金貨を100枚に―」

「いえいえ!大変十分すぎる報酬にビックリしていただけです!ありがたき幸せ!」


 オーバーリアクションになりつつも、レイにお礼を言うアヤカ。

 そんなアヤカのことをクスクスと笑いつつ、ミカが別れの挨拶をする。


「また今度、機械作り教えてくださいね?」

「うん。またね、ミカ」


 トラックに戻ったアヤカも窓越しで別れを言いつつ、手を振る親子二人を前にトラックをバックさせる。

 クラクションをプッと軽く鳴らして走り去ったアヤカを見て、レイがミカに優しい口調で穏やかに言う。


「ミカ、友達が出来てよかったな」


 父のその言葉に、ミカは満面の笑顔で答える。


「はい!お父様!」

改稿履歴

・大幅改稿しました。(2021/09/23)

・大幅改稿しました。(2021/12/23)

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