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02 病気の少女

 アヤカは額に広がった汗を拭うと立ち上がり、ようやく完成したトラックを眺める。

 トラックのデザインは昭和の日本でよく見られた、ボンネット型トラックを参考に作ってある。

 このタイプはボンネット下にエンジンが入っていて、簡単に整備が出来るので初めて作った不安定なエンジンを載せるには都合が良かった。

 さっそくアヤカはトラックの運転席に乗り込むが、乗り込んで間もなくして自分がある致命的な設計ミスをしていたことに気が付いた。


「あれ?」


 足元のペダルにアヤカの足が届かないのだ。高校でも背が低いほうだったアヤカは、自分の背の低さにショックを受けつつ、スパナで運転席の位置を調節する。


「まだ、成長途中だもん……グスン」


 自分以外誰もいない空間にそうボソッと半泣きで呟きながら調節をさっと終えたアヤカは、再度運転席に戻りエンジンの作動チェックのため、アクセルを踏んでエンジンに魔力を送る。

 アヤカが自作した魔力式エンジンは、エンジンに送られた魔力が内部で圧縮された空気を小爆発させることにより、点火することができ、走行中の速度はアクセルから送る魔力量を変化させることで調節できる。

 数秒後、エンジンからブルンという音がしてトラックが小刻みに振動し始めた。しっかりと設計図通りに作れていたようだ。


「やった‼」


 ようやくの思いで完成した喜びの余り運転席で思いっきりガッツポーズをすると、アヤカを乗せたトラックはそのまま倉庫を出た。

 アヤカがドアについているハンドルを回して窓を開けて顔を出すと、涼しい風がアヤカの頬を撫でる。


「サイコー‼」


 心地よい風に当たって気分が良くなったアヤカは、そのまま町までトラックを運転して町にいる知り合いにお披露目することにした。

 町に到着すると、アヤカはさっそく知り合いの肉屋の店主を見つけた。肉屋の店主とは、アヤカが以前作ったある特殊な包丁を売った相手で、よく売れ残りをアヤカに渡してくれる親切な老婆だ。


「こんにちは!おばあさん‼」

「その声は、アヤカちゃんか……」


 肉屋のおばちゃんは、アヤカの声に気づいて振り向くと、トラックを見た瞬間、数秒間口をポカーと開けたまま動かなくなった。そこまで驚くのも無理はない。この世界での移動手段といえば馬車くらいしかなく、自走するタイプの乗り物など初めて見るはずだ。


「それ、アヤカちゃんが作ったのかい⁉」

「うん!魔法で動くんだ」

「あら、魔法で!また凄いものを……」


 アヤカが肉屋の店主と会話をしていると突然、顔面蒼白状態の見知らぬ男性が慌てた様子で近づいてきた。

 男性は40代後半ほどだろうか。この小さな街の住民たちと比べるとかなり綺麗な服を着ているが、顔から汗が噴き出すように出ている。


「君!それは馬車か!隣町までどれくらいかかる?」

「え?隣町なら二時間くらいで着くけど……おじさん、どうかしたの?」

「娘が高熱を出してしまって急いで隣町の医者に診せなければいけないんだ!連れて行ってはもらえないだろうか?」


 男性の焦り様から彼の娘の容態はかなり良くないのだろう。事態の深刻さを悟ったアヤカは直ぐ首を縦に振った。


「分かった!」


 アヤカが即答すると、男性は「ありがとう!すぐ戻る」とだけ言うと娘を連れに家に戻って行った。

 一部始終を見ていた肉屋の店主は、肉屋に戻ると小さな木製の箱を抱えて戻ってきて、それをアヤカに手渡した。


「人助けかい、偉いねぇ。これ、持っていくといいさ」


 アヤカは箱を受け取ると、中には肉の串焼きが何本か入っていた。


「ありがとう‼おばあさん‼」

「ただの売れ残りさ。隣町までは遠いから気を付けて行くんだよ」


 そこに丁度、男性が娘らしき少女を背負って戻ってきた。少女の顔からは血の気が引き、まるで亡霊のように肌が白かった。容態はかなり悪そうだ。

 男性と少女が荷台に乗ったのを確認して、アヤカがアクセルを踏み、トラックがゆっくりと動き出す。

 アヤカはミラー越しに手を振っている肉屋の店主を見て、窓から腕を出してサムズアップをしながら街を出た。



 街を出ておよそ二時間、アヤカ達は隣町「アルフレッド」に到着した。

 アルフレッドは、港湾都市で漁や海路を使った貿易が盛んで、毎日多くの人が都市の内外を往来している大都市だ。

 アヤカがトラックを馬車置き場に止めると、周りの商人達がトラックを見てざわつき始める。


「おい、なんだあれ!」

「見たことない馬車だな」


 アヤカの運んできた男性は、娘を抱えて「本当にありがとう!お礼は町に戻ったら、必ずする!」とだけ言い、町の診療所へと走って行った。


「さて、折角来たんだし、観光して行くか~」


 少女と男性を見送り、アヤカはそうボソッと呟くと、夕焼けに照らされ、オレンジ色に染まっているアルフレッドの中心街へと歩き出した。

改稿履歴

・一部単語/地の文を置き換えました。(2021/09/12)

・大幅改稿しました。(2021/09/23)

・一部改稿しました。(2021/10/04)

・句読点の位置修正、内容の一部修正。(2021/12/20)

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