01 平原に住む少女
広大な緑色の平原にポツンと、何かの倉庫のような建物が一棟だけ建っている。
その薄暗い倉庫の中では、明るい茶色の髪をした少女が一人、服を汚しながら集中して何かの作業をしていた。
「ここを……こうして……こうっ!」
少女の名前は大羽綾香。日本にある高校に通う女子高生だったが、不運にも通学途中に交通事故に遭い、目が覚めた時には、この平原で寝ていた。
前世では物作りが趣味だったこともあり、こうして何もない平原に小さな倉庫を建てて、色々な物を開発・発明し、近くの町で売ったりして、のんびりと生活している。
ちなみにこちらの世界では漢字の文化が無いらしく、アヤカと名乗っている。
そして、アヤカは「魔法」という新たに出会ったファンタジー要素に大きな可能性を感じていた。この世界において魔法は体中を巡っている「魔力」を消費して発動することが出来る。そして、無くなった魔力は時間が経過すれば回復する。
つまり、前の世界では車などを動かすのに石油燃料などの枯渇性のエネルギーを使っていたが、この世界ではそれらの代わりに魔法という再生可能なエネルギーを使うことが出来るということだ。しかも、この世界に生を受けたものは例外無く魔力を有しているため、魔力は身の回りの草木などの植物にも溢れているため、使いたい放題だ。
そして、たった今アヤカが完成させたのが、魔力を消費して動かすことが出来る、魔力式エンジンだ。
しかし、エンジン単体だけでは特になにも回せないので、アヤカにはこのエンジンを使って自動車を作るという大きな計画があった。
もともと、アヤカは発明品を最寄りの町「シグナス」まで持っていき、そこで売っているのだが、シグナスまでは徒歩で三十分ほど掛かるため、何らかの移動手段は欲しかった。
アヤカはどんなタイプの自動車にするか散々悩んでいたが最終的に、ものを一度に多く運べる、荷台付きのトラックを作ることにした。
トラック開発において、エンジンの開発の次に難関だったのが、ゴム製タイヤの開発だ。
この世界で、ゴムの原料は見つからず、代わりに「デンゴンムシ」という魔物からゴム質の素材が採取できるのだが、アヤカは、大の虫嫌いであり、巨大なダンゴムシのような形をしているデンゴンムシなど、到底アヤカには討伐出来ない。
そこで、アヤカが利用したのが、冒険者ギルドだ。
冒険者ギルドでは、手数料と報酬を支払うことで、冒険者たちに討伐依頼を出すことができる。
そして、ギルドに討伐依頼をしてから数日後、ギルドに依頼していたデンゴンムシの素材が届いた。デンゴンムシの死体すら見たくなかったアヤカは追加料金を支払って、解体も依頼していたのだ。
デンゴンムシの皮膚は、噂通りの弾力性のあるゴム質で、強度も十分ある。タイヤにはもってこいの素材だった。事前に鉄工所に特注して作ってもらっておいたホイールに、デンゴンムシの素材を巻き付け、空気を内部に密閉する。これで異世界式ゴム(デンゴンムシ)製タイヤの完成だ。
最後にタイヤを車体に取り付け、減速用のブレーキ等を搭載して、アヤカのトラックは遂に完成した。
新連載のスローライフ系ファンタジーです。よろしくお願いします。不定期更新です。
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改稿履歴
・大幅改稿しました。 (2021/09/23)
・一部内容の削除および2話への移行をしました。 (2021/12/20)