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猛獣の化け方ガイド  作者: 水蛍
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◇無慈悲

目の前にいる焼け爛れた子供。


ゼオ:「…………………………」


依然として地下牢の空気は澱んでいるが腐敗臭はしない。

それは牢にかけられている結界の効果によるもの。

その他にも結界には治癒効果や精神を安定させる効果が付与されていた。


ゼオは感心していた。

幼い外見に情緒の安定しない彼ではあるが、魔術師としては誰よりも秀でている。

だからこそ本館、別館、地下牢、それらを含めた公爵邸全体に張り巡らされている精密かつ軽薄な大結界は機能もさることながら芸術的に感じた。

公爵邸は元々砦に近い設計だが、この結界術によって難攻不落の要塞と化している。


それ故に、ここ最近の出来事は看過できなかった。

ゼオは読心術による感知能力に加えて、公爵邸に張り巡らされた結界に便乗する形で邸内の状況を概ね把握できる。

にもかかわらず想定外の侵入者が4人。

うち二人は公爵の手引きによるものだが、残りの二人は公爵も予想外の珍客。


ゼオ:「一人は厨房で発見した瀕死の餓鬼、一人は屋敷に火を放った餓鬼。」


前者の一人は延命措置を試みるも間も無くして死亡。

死因は体力の過剰消耗による衰弱死。


ゼオ:「どちらも直前まで感知出来なかった。初めは精神に作用するものかと考えたが、お前の従僕の妙術を思い出した。」


公爵家に使える従僕セトは、他者の認識をかき乱す魔術を扱う。


ゼオ:「セト(あれ)の効果対象は他者の精神、だがコイツらに植え付けられていた魔術の対象は自分自身だった。存在自体を捻じ曲げていた訳だ。」


ゼオは今にも息を無くしそうなその子供を見下ろした。

名前も素性も、素顔すら最早分からないが、屋敷に火を放った以上投獄を免れることは出来ない。

たとえ全身が焼け腐ろうとも、死を待つしかない。


ゼオ:「…………どちらも、頭部と脊髄に媒介となった物質が埋め込まれていた。媒介を中心に生命力で魔術の運用を自動的に行わせていたんだ。」


ゼオは淡々と語る。


ゼオ:「生命力を魔力の代わりとして使用するのは錬金系統魔術、大昔に儀式で用いられていた生贄と概要は同じだ。重要なのは媒介の方、媒介に記憶を付加して魔術の発現条件を満たしていた。」


ゼオは公爵に再び目を向けた。


ゼオ:「条件とは、“想像と再現”。お前なら何が言いたいかわかるだろう?」


アルベド:「………………」


公爵は返答しなかった。

ゼオはその拍子の悪さに苛立ちを覚え殴り飛ばしたくなったが、ここ最近は辛抱強さも身についてきていた為なんとか堪えた。


ゼオ:「人体改造、感知妨害の魔術も問題だがなにより」


そして公爵に望んでいた返答を述べた。


ゼオ:「“他者の精神を汚染できる魔術師”がいる。」


精神汚染。

二人の子供が魔術を扱えたのは媒介を通して魔術の情報を獲得していたからだとゼオは考えた。

魔術を扱うのに必要な知識、努力、経験、これらの情報を二人の子供に付加していた。

もしこの推測が正しいとすれば並大抵の魔術師ではない。

人体改造に精神汚染、人の在り方そのものを捻じ曲げているのだから。


アルベド:「…………あぁ、そういう。」


ゼオ:「なんだ?何か知っているのか?」


ゼオは公爵に問いかけながらも返答には期待していなかった。

読心術で思考を読んでしまえばいい、チグハグでも拾えるものは拾えるだろうと。

しかし公爵の頭の中には望んだ答えはなかった。

訳のわからない記憶が同時に、何重にも再生されているだけだった。


ゼオ:「ッ、なんなんだお前は!」


アルベド:「どうかされたのですか?」


抑えていた怒りは遂に沸点にまで上り、はらわたが煮えくり返る程の怒りに呑まれ公爵を襲った。

公爵の首元から足先に至るまで、無数の剣が突如出現。


アルベド:「おや。」


出現と同時に剣は公爵(目標)を切り刻む筈だった。

だが…………


ゼオ:「………………ッチ、相変わらずよく動く。」


生成された剣は瞬きする間もなく塵と化した。

粉塵が舞う中公爵が剣を抜いていたことだけは確認できたが、いつ抜刀したかは不明。

ゼオが剣を生成し終えるまでに約0.5、少なくともそれまでに剣を構えていたことは間違いない。


アルベド:「お褒めに預かり光栄です。」


ゼオは心底不快な表情で公爵を一瞥し、また牢の中に視線を戻した。

不快だがこの男を殺すのは面倒だ、そう自分に言い聞かせて心を落ち着ける。


アルベド:「おぉ〜〜」


激しい苛立ちに見舞われながらも何とか堪えようとするその姿に、元凶である公爵は呑気に感心していた。


片や傲岸と殺意の塊、片や絶対的な強さを持つ狂人。

二人の相性は最悪である。


ゼオ:「………………」


アルベド:「あ、逝ってしまいましたね。」


逝ったというのは当然、牢の中の罪人の話である。

ディオルネス公爵邸別館に火を放った者、身元不明動悸不明、一切の素性が知れぬその子供は誰に慈しまれることもなくたった今、牢獄で静かに息を引き取った。


ゼオ:「………………」


アルベド:「………………」


一瞬、僅かな間だが、地下牢には静寂が流れた。

そして…………


ゼオ:「解剖して徹底的に調べろ。」


アルベド:「無論です。」

メレアこと三鳥は双子の存在自体を殆ど忘れつつある。

発見時は体力が底をつきかけそれに比例して効力も弱まっていた為認識できた。

一時的に回復させた為魔術が再発動し記憶に靄がかけられている。

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