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猛獣の化け方ガイド  作者: 水蛍
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◇知り得ぬ所にて

ディオルネス公爵邸は主に四つの区画に分かれている。

本館、別館、兵舎、そして軍事基地。

軍事基地と兵舎が分けられている理由として、基地には軍事以外に使用される施設が多数設置されている。

書庫、宝物庫、研究棟、そして()()()


ゼオ:「…………空気が悪い。」


一人の子供が収容棟の地下へ赴く。

深く暗い地下通路は彼が言う通り空気が澱んでいる。

そんな澱みの先に待ち受ける者が一人。


アルベド:「書庫以外で貴方の姿を見るのは新鮮ですね。」


ディオルネス公爵家現当主、アルベド・ジル・ディオルネス。

金髪碧眼、美しい服飾、外観は理想的な好青年だが、雰囲気はそれよりずっと大人びていた。

薄暗い地下道だからこそ不自然さが際立っている。


ゼオ:「……………………」


アルベド:「どうかされましたか?」


魔術師ゼオは読心術を得意とする。

しかし高精度である分収集する情報量は常人の比ではない。

相手が思考する分だけ情報の処理が遅れる。


ゼオ:「…………煩い。」


アルベド:「それは失礼致しました。手短に済ませますのでご辛抱ください。」


雑多な煩悩、共感出来ない感情、統一性のない精神、これらは更に処理を遅らせる。

アルベド・ジル・ディオルネスはそれら全ての要素を含んだ歪みそのもの。

どう歪かと聞かれれば、別々の絵の欠片を繋ぎ合わせて一枚の絵に見えるよう仕立て上げたような…………

何故これほど歪んでしまったのかはゼオにもわからない。


アルベド:「こちらです。」


彼らは更に深部へ進んでいく。

誰もいない牢屋をいくつも通り過ぎ、また一つ下の階へ降りる。


ゼオ:「何故こんな地下深くに?もっと浅い階でも良かったんじゃないのか?」


アルベド:「念の為です、彼は亜人ですから。」


ゼオ:「自作自演だったならぶち殺すぞ。」


外見年齢的に考えればただのハッタリ、しかし彼はいたって本気である。

この公爵(おとこ)を心底嫌悪しているし、書庫以外に彼が躊躇う理由はない。

例の別館への放火が自作自演であったならそれは明確な宣戦布告である、少なくとも彼にとっては。


アルベド:「そんな無意味なことは致しません。」


ゼオ:「どうだかな。お前のことはよく知らんが小根の悪さはよく知っている。あり得なくはないだろう…………」


公爵の背中に突如浮遊する無数の剣が突き立てられる。

しかし公爵は動じない。

それもまたゼオが公爵を不気味に思う理由の一つ。


ゼオ:「………………はぁ……では、()()()鹿()は何だ?」


馬鹿とはつまり、メレア・アーデンと名乗っている何者か。

初めて会ったのはゼオの書庫、狼の姿でだった。

それが今では人の姿形を模して屋敷に住み着いている。

本人の話、現状の在り方、どれをとっても公爵とは違った意味で異質な存在。


ゼオ:「あれを招いたのはお前なんだろう?答えろ。」


これだけは答えさせるとゼオは決めていた。

公爵が息子の誕生日に犬(狼)を贈ったことは周知の事実。

言い逃れは出来ないと踏んでいた、しかし……


アルベド:「わかりません。」


ゼオ:「は?……そんな嘘が通るとでも?」


らしくない言い訳だとゼオは思った。

今までは自分の管轄外からの干渉が含まれていたが、今回の話の焦点、メレア・アーデン(あれ)は間違いなくこの公爵(おとこ)が招いた。


アルベド:「錬金術によって作り出された人の要素を含ませた生物の総称、それが亜人です。」


公爵は平然と歩きながら話を続けた。


アルベド:「彼が亜人であることは確かに知っていましたが、いつ何処で作り出されたのかは全く知りません。」


僕:「では何故そんな不穏なものを息子に祝いとして贈った?」


当然の疑問であるが、返ってくるのは納得のいかない答え。


アルベド:「面白い調度品だと思いまして。」


その言葉を聞き、ゼオはそれ以上の言及を断念した。

好奇心でゲテモノを拾い集めてくるなど話にならない。

そして残念なことに、この男ならあり得ると思ってしまった。

勿論それ以外の思惑もあるのだろうが、本音に近い答えだったのは間違いなかった為これ以上の追求は無意味と判断した。


<それから>


暫くの間沈黙が続いたが、公爵が一つ話題を振った。


アルベド:「そういえば、彼とは随分仲が良いのですね。」


何の話かゼオには分からなかった。


ゼオ:「は?何のことだ?」


アルベド:「貴方が先ほど口にした亜人ですよ。貴方が他者に教えを与えるなど思っても見ませんでした。」


ゼオ自身は仲は良くない、寧ろ険悪に近いと思っていた。

魔術を教えるのはそういう約束をしていたからであり、それも自分の一時の感情で有耶無耶にしてしまった。

そこに多少反省の念を感じているだけであった。

思い入れがあるかと言われれば、それほどでもないのだ。


ゼオ:「…………アレはお前の企ての一つなんだろう?みすみす踊らされるつもりはない。」


アルベド:「そうですか、楽しんでいただけているようで何よりです。」


ゼオは時々会話が成り立っているのかどうかさえ怪しく感じたが、本人はまるで気にせず進み続ける。


アルベド:「書庫から出てくるようになったのも彼の影響ですか?以前は我が家の使用人に見られることすら嫌っていたのに。」


ゼオ:「違う、最近は色々と起こりすぎた。煩わしいが多少は調べておくべきだろう?」


アルベド:「それでも貴方が外界の些事に興味を持つとは…………」


と、そこで二人の足が止まった。

通り過ぎてきた多数の空の牢と同じ構造、しかしそこには横たわっている者がいた。

全身が黒く焼け、衰弱状態にある子供。

その子供こそ、件の放火事件の重要参考人である。

三人称に近い形では初めて書いたかもしれない。

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