真面目というより
生い茂った緑。
色とりどりの花々に果実。
室温、湿度も適度に管理された快適な空間。
僕:「…………ここは……」
連れてこられたのはガラス張りの温室。
屋根は半円状で、支柱の数はそれほど多くない。
白がベースのシンプルでオシャレなデザイン。
ゆったりと施設の中央まで歩いていき、着いたところで彼は僕の方に振り向いた。
???:「では始めましょうか。」
僕:「……え、ここで?」
こんなまったりとした空間で修行するの?
てっきり道場みたいな場所に行くものだと思ってたんだけど…………
あと、準備って言ってなかった?
???:「自己紹介がまだでしたね。私はセトと申します。」
僕:「あ、はい、よろしくお願いします(?)」
淡々としてるなぁ。
セトさんか…………この人、ほんっとうっすいなぁ…………
顔が全然見えねぇ………
僕:「あの、ずっと気になってたんですけど、それ何ですか?」
セト:「それ、というのは私の顔のことでしょうか?」
僕:「そうです…………なんていうか、全然見えません。やっぱりそれも魔術ですか?」
透明化、光学迷彩的なものかな?
何にしろ日常生活でそれは怖すぎる。
全体的に薄いけど、顔が特に薄くてもうよくわからない……
いや、薄くはないのか……?
けどよく見えないというか…………???
セト:「人に見られるのが怖いのです。」
へ?
どうしたんですか急にそんな、お悩みを吐露されましても………
見られるのが怖いって………えぇ……
僕:「えっっと…………そうなんですか……あ、だから顔を隠していらっしゃるんですか?」
セト:「そう、ですね。概ねその通りです。ただ私は、意識的にこの魔術を使っているわけではありません。」
無意識で隠しちゃうってこと?それは中々大変そう……
魔術ってそういうのもあるんだ。
まあ僕も感覚的に使ってたし、初めて使った時も偶発的にだったし、おかしくはないか。
セト:「…………思考は現実を歪め、思想には形が与えられる。”戦乱の魔女“アトラーネ・フラーケイルが、魔術の基礎を説く上で伝えた言葉です。」
…………誰なの?アトラーネ・フラーケイルって。
歴史的偉人とかかな?
にしても二つ名が”戦乱の魔女“って、厨二心には刺さるけどちょっと…………
セト:「つまり、この魔術は私の心そのものを表しているのです。」
…………なるほど。
セト:「疑問は解消されましたか?」
僕:「……はい、教えてくださって有り難うございます。それと……その…………」
無神経な質問をして申し訳ありませんでした!
もっと、気をつけて聞けばよかったですね。
って、言ったほうがいいかな?
いや、かえって気まずい雰囲気になってしまうのでは………
う〜ん…………
セト:「では早く始めましょう。」
僕:「あ、はい…………」
何とも思ってない、のかな?
まあ、何も言ってこないならわざわざ掘り返さなくていいか。
……何となく、カルネさんとはまた違った社畜臭がする。
もっとゆっくりやってくれてもいいんですよ、セトさん?
セト:「お話したとおり、私には魔術師としての才覚はありません。己の思考に呑まれ、碌に制御ができないのです。したがって、私が貴方に教えられるのは至って原始的な戦闘方法です。」
ほうほう、何ですかその構えは?
相撲でもとるんですか?
手袋を嵌め身を屈めて、拳を握り込むセトさん。
こんな真っ昼間の美しい温室の中央で物騒な構えをするセトさん。
はよ構えろと言わんばかりの眼差しで睨んでくるセトさん。
セト:「最初は肉体で、次に飛び道具、最後は剣です。初歩的なものに過ぎませんが、戦いの土俵に立つ上で不可欠なものでもあります。」
僕:「…………え、と、ボクハ、ドウスレバイイノデショウカ。」
棒読みカタコトにもなるよ。
修行ってやっぱりガチの修行なんだね。
僕が?ぐうたら大好き暴力反対の僕が…………組み手?
…………どうしても、どうしてもやらないとダメなのこれは?
セト:「…………戦うのはお嫌いですか?」
僕:「え、はい、嫌いです。」
痛いの嫌だし。
血は怖いし。
あ、やばい、昨夜のトラウマが蘇る……
セト:「そうですか。しかし、選択肢は与えられていないというのはわかっているでしょう?」
………………
セト:「此処から逃げ出しても貴方は直ぐに連れ戻される。何もせずただ此処にいるというのなら、貴方は物として扱われることになる。国籍を持たず、名前も明かせず、出自、親族も不明の貴方は事実、この帝国での人権そのものを持たないのですから。」
………………うっわ、嫌なこと言いますね。
実際そうなんでしょうから何とも言えないですけど…………
セト:「正直、貴方より優秀な侍従はいくらでも用意できます。貴方が侍従に任命されたのは旦那様の戯れのようなものです。しかし、これが貴方が唯一自由に過ごすことが出来る手段でもある。」
僕:「だから大人しく…………ってことですか?」
セト:「ええ…………アルシエラ様も、貴方のことを大層気に入っていらっしゃいます。」
………………
多分今めっちゃ眉間に皺がよってる。
アルシエラくんが気に入ってくれてるのはいい。
けどこの不当な扱い!
人権が、ないぃい?
あの公爵は絶対許さん。
けど…………
此処から出ていっても荒野を身一つで乗り越えるようなもんだし、行く宛もない。
公爵は僕を此処に留めておきたいみたいだし、逃げてもきっと捕まる。
セトさんの言うとおり、侍従として働くしか道はないんだよね。
僕:「はぁぁ〜〜…………侍従じゃなくて給仕とかじゃダメなんですか?」
セト:「私から旦那様への進言は期待しないでください。さぁ、構えて………」
堅物キャラかよ…………




