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猛獣の化け方ガイド  作者: 水蛍
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基礎的なはずの仕事

定期報告:不要エピソード削除の予告。

アルシエラくんを起こすという僕の初仕事は不発に終わったので、カルネさんの仕事ぶりを見学することになった。


カルネさんは気がついたらいなくなっていて、かと思えば桶とタオルと、櫛と洋服と、沢山の物を抱えて戻ってきた。

まず初めにカルネさんは桶をアルシエラくんに差し出した。

お湯が張っていて、いい匂いが微かにする。


カルネ:「どうぞ。」


アルシエラくんは無言でお湯を手で掬い、顔に二回浴びせた。

カルネさんがすかさずタオルで顔の水滴を拭き取る。


その次は着替え。

スラックスっぽいズボンを履かせていたけど、サスペンダー(?)がついてる。

ああいうのって確か、オールインワンっていうだっけ?

その後はスカーフ(?)みたいな布で袖を締めて…………なんか色々着込んでる。

服ってこんなに複雑なんだ。

Tシャツが懐かしいなぁ……


カルネ:「…………カーテン」


僕:「え?」


カルネさんが僕の方に振り返ってカーテンと言ってくる。

カーテン…………開けろってこと?


アルシエラくんとカルネさんの横をそそくさ通り抜けて窓辺に向かった。

カーテンを開くと燦々とした陽光が部屋の中に入ってきた。

…………思ったより陽が昇ってる。


カルネ:「坊っちゃまが朝食を召し上がっていらっしゃる間にシーツの取り替えと掃除をしておいてください。」


僕:「え……シーツの取り替えって、新しいのは何処に?」


カルネ:「シーツは直ぐに届きます。今のシーツを剥がして、届くまで掃除です。」


ポポイっと渡されたのは箒と雑巾、それにはたき。

掃除機は、流石にないよね。

なんか見た目は執事っぽいのに家政婦さんみたい……


カルネ:「それが済んだら隣の部屋に移ってください。」


僕:「……?隣の部屋も掃除ですか?」


カルネ:「ええそうです。」


僕:「ちなみに何部屋掃除するんですか?」


カルネ:「三十部屋です。」


僕:「一人で?」


カルネ:「敬語」


僕:「一人で、ですか?」


カルネ:「一人で。」


僕:「いつまでにですか?」


カルネ:「午後までに。」


無理じゃん。

一室何分計算?もう大分太陽昇っちゃってるよ?

一室五分でも百五十分……二時間半かかるよ!?

正午まであとどのぐらいなの!?


僕:「…………あの〜、僕一人だとちょっと厳しいと思うんですけど……」


カルネ:「さっさと始める。」


……………………ひゃい。


カルネ:「返事」


僕:「はぁあい!!」


カルネ:「唾が散るぅう!」


僕:「グハッ!!」


ビンタ!しかもハンカチ手に巻いてる!!

ひどい!傷つく!傷ついたぁあ!!


アルシエラ:「頑張って〜!」


僕:「はぁーい!」


アルシエラくんからの声援に笑顔で返事。

応援されたら頑張るしかないわ。

たとえ三十部屋であろうとも!!


カルネ:「しっかり励むように。」


それだけ言い残してカルネさんとアルシエラくんは部屋を後にした。


僕:「朝食…………あれ?僕食べてない!?ええ……?」


<それから>


使用人の一人: 「失礼します。これ、新しいシーツです。」


僕:「え!?あ…………」


部屋に入ってきたのはシーツを抱えたメイドさん。

扉の隙間から沢山のシーツが入ったカートが見えた。

なんでシーツがあんなに沢山…………何人住んでるの?

と、そんなことを一瞬思ったが…………ふと我に帰る…………


僕:「……あ〜、あはは、は〜……」


アルシエラくん(御曹司)の寝室というだけあってだだっ広い部屋。

大きな椅子、ソファ、タンス、本棚、クローゼット……

当然ベッドも大きいわけで、ベッドが大きいということはシーツも大きいわけで…………

畳みづらい。

広げて捲って引っ張って…………

なんでっ、こんなに、大きい…………ダァ!!


僕:「すいませ〜ん!ちょっと待ってください、っ直ぐに!直ぐに畳みます!」


使用人の一人:「ここに置いておきますね。」


その一言だけ言ってシーツをすぐ側の机に置き、直ぐに部屋から立ち去っていった。


……クールっすね。

…………………………


うぉおおお急がないとぉおお!!

早くシーツ変えて次の部屋に行かないとやばいぃいい!!

急げ急げ急げぇえ!!


カルネ:「まだそこなんですか!?」


僕:「あ…………」




カルネさん、随分早いお帰りですね。

朝食は?アルシエラくんは?

お腹減りましたご飯くださいシーツデカすぎます。


なんてことを考えている場合ではない。

カルネさんの顔がもう、呆れすぎて酷い顔になってる。


僕:「ぁ〜…………ごめんなさい、まだ終わってなくて……」


そう言い終わる頃にはカルネさんは僕のすぐそばまで来てシーツを掴んでいた。


カルネ:「大雑把にまとめようとするから剥がせないし畳めないんです!!もっと一つ一つを丁寧に!素早く!!」


カルネさんはものの数秒でシーツを剥がして、国旗みたいな大きさのシーツを折り畳んでみるみる小さくしていった。


カルネ:「掃除は!?」


僕:「ま、まだです…………」


カルネ:「…………掃き掃除と雑巾掛けぐらいなら出来ると思ったのですが……」


すんません、シーツ外してからやろうかと……

にしてもカルネさん凄いね。

恐ろしく早いシーツ替え、僕じゃなかったら見逃しちゃうね。


カルネ:「はぁ〜…………時間がありません。十五部屋に縮めましょう。その分、仕事はきっちりやってもらいますよ。」


僕:「はい!精一杯やらせていただきます!!」


カルネ:「やるだけではなく、覚えるように。」


僕:「はい!」


いよいよ本格的な修行が始まろうとしている。

頑張れ、僕!!

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