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猛獣の化け方ガイド  作者: 水蛍
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昨夜の出来事について

カルネさんと言い争っている中、扉が開き、アルシエラくんがひょこっと出てきた。


な〜んだ、起きているではありませんか!

てっきり朝起きれないタイプでどうしても直接叩き起こさないといけないのかと……


カルネ:「坊っちゃま……え?ど、どうして、起き、て……?」


…………ええ??

めっちゃ挙動不審になってる。

カルネさんに対しての、仕事の出来る女なイメージが崩れていく!

というか、なるほど。

どうやらこれは普通ではない……いや、かなり異常なことのようだね。

でもまあ、まずは…………


僕:「おはようございます!」


カルネ:「あ、…………っおはよう御座います。」


アルシエラ:「おはよう!!」


ジー…………


カルネさんを横目で見た。


ふむ、どうやらカルネさんは冷静沈着というわけではないらしい。

ちょ〜っと無愛想というか仏頂面だけど、でもちゃんと動揺が表に出る。

本人に言ったら怒声が返ってきそうだけど、よかった〜これなら最悪何かミスしても気まずくなることもないだろう。


カルネ:「なんですかそのにやけた表情は、ぶちのめしますよ?」


僕:「え、こわ。しかも口悪ッ!」


メイドさんがそんなこと言っちゃいけません!

もっとこう、「もうっ!笑わないでくださいよ!」とか、「恥ずかしいから見ないでください!」とか!

こういうのでしょう!

いや待て、無愛想で仕事人、だけどたまにポンコツが出て焦ってしまう。

もしやカルネさんは、ギャップ萌えメイドか!!


そんなことを考えている間にカルネさんから拳骨を一発落とされた。


僕:「あだっ!?」


カルネ:「ぼっちゃま、今日はどうして、こんなに早くに起床されたのでしょうか?」


無言でパンチされた。

しかもそのまま何事もなかったかのように会話するの?

なんて図太い。


アルシエラ:「わ…………メイ?が来るって言ってたから。」


ん?メイ?メイくん?

僕の生前の大親友だった(と思いたい)、あのメイくん?


いや違うな。

多分僕だ、僕の偽名のことだ。

今更だけど、適当に決めすぎたな……


僕:「あの、メイじゃなくて、レアって呼んでいただけませんか?」


アルシエラ:「なんで?」


僕:「どちらかと言えばレアなので……」


三鳥()()、だからね。

稀有、珍しいってレア以外には何て訳せるんだろう?

スペシャルとか?


アルシエラ:「わかった!じゃあレアって呼ぶね!」


僕:「はい。えっと、坊っちゃま、上手くやっていけるかどうかわかりませんが、これからよろしくお願いします!」


アルシエラ:「うん!よろしくね!!」


マブシッ!!

このぐらいの年の子供って、幼くて可愛い〜!が普通なのに、アルシエラくんはマブシッ!!

可愛さに美しさが加算されて発光して見えるぜ!

こんな美少年のお世話ができるなんてラッキーー、っと思いたいところなんだけど…………


…………アルシエラくんはいい子だと思う。

子供だからって根拠なく信じるのは迂闊だってわかってるけど、信じていいと思ってる。


僕:「…………坊っちゃま、昨日の夜に何か変わったことはありませんでしたか?」」


アルシエラ:「え?何もなかったと思うけど…………」


…………カルネさんにさっき廊下で聞いた時は、はぐらかされたのかとも思ったけど…………


チラリとカルネさんの方を見る。


怪訝な顔をしているが、別に狼狽えている様子はない。

きっとカルネさんも何か隠し事をしているわけじゃない。

カルネさんはただ、僕の質問に心当たりがなかったから答えなかっただけだ。

それはそれで酷いけど…………


知らされていないんだ。


昨日の夜、この屋敷に誘拐犯が忍び込んでいたことを当事者たちには知らせていない。

子供だから?ううん、違うと思う。

だってカルネさんにも知らされていないみたいだし。


…………状況はまだよくわからないけれど、どうやら公爵様は何事もなかったかのように進めたいみたいだ。

何事もなかったわけはないのにね〜〜、だって僕の頭にこんなにふっくらとした()()()()が出来てるんだから。


いや〜〜〜びっくりしたよ、なんか頭痛いなぁ〜〜と思ってたら、歩いてる途中で漸く気がついてねぇ。

はぁあ〜〜〜、誰だ〜〜〜?昨日僕を不意打ちで気絶させた野郎は??

後ろ頭にデカいたんこぶ!記憶の混濁ぅ〜〜〜!!


どうせあの公爵様の仕業だろうけどぉ!

むっかつくなぁ色々!慰謝料請求してやろうか!


僕:「………………はぁ。」


心の中では怒りをぶちまけているものの、正直昨夜の件で公爵に逆らう気力が失せた。


まず、アルシエラくんが無事であり、侵入者のことは知らないふりを決め込んでいる。

つまりもう対処されてる可能性が高いと思う。

まだこの屋敷内にいるなら、いくらなんでも当事者である二人に伝えないわけないもん。


あの女の人は恐ろしく強くて狂気じみてた、それはハッキリ覚えてる。

そんな怪人が大事な子供を攫いに来たっていうのに、翌朝には皆が皆、何事もなかったかのように支度に取り掛かっている。


廊下にとんでもない魔術がかけられてることだって覚えてる。

また囚われたら出れるかどうかはきっと公爵の気分次第。


公爵だけに気をつけていたけれど、この屋敷そのものが異常なんだ。


アルシエラ:「?……大丈夫?」


僕:「あ、はい!全然…………大丈夫です!!」

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