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猛獣の化け方ガイド  作者: 水蛍
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アウェイ・アウェイ・アウェイ・ヒット・アンド・アウェイ

チラリと後ろ見ると、長すぎて廊下の奥行きが点に見えた。

さっきこの棟に案内された時はこんなんじゃなかったのに…………


誰かが僕を閉じ込めてる…………?

いや違うな。

閉じ込められているのは僕だけじゃない。


僕:「…………ッッ」


ヴィーレ: 「……………………」


この誘拐犯、ヴィーレもここから出られないでいる。

…………この屋敷の使用人にしか出口はわからないとか?


逃げられないのは致命的だ。

このままいけばいずれナイフが体なり頭なりにブッ刺さる。

どうする!?殴る!?


…………いや、素手はないな。刃物持ってるし…………


気がかりな点はいくつもある。

負傷者とアルシエラくんの安否、誘拐犯の数、出口のない迷路…………誘拐犯の動機。

不安要素ばかりあるけれど、今それを考える余裕は僕にはない!!


僕:「ッッッ!!」


ヴィーレ:「惜しい!」


頬に掠った!


しなやかに急所ばかり狙ってくるナイフ捌き、だけど避けに慣れたところで動きが変わる。

大胆に見えて複雑な大振りに、端から端への急激な曲射、死角からの飛び道具。

ナイフ術なんて殺し屋系の漫画でしか見たことないけど、それでもわかる。

ガチの暗殺者(プロ)だ!!だって動きが人間じゃないもん!!


一方で僕の方はというと、目で追って避けてるだけ。

倒れないようにギリギリでバランスとりながら無理やり体を捻って避ける。

しんどい!!


めちゃくちゃしんどい!!頬と足と腕から血が垂れてるし!!

あと今言った箇所から痺れが…………毒?

神経毒か遅効性の致死毒か…………ああもう!!わかんない!

解毒なんてできないし!死なないって信じよう!!


それより血だよ!このままだと出血多量で意識が…………あ、なんかボーッとして……


止血しないとまずい。

でもそんな暇はない。

え、どうするの?…………死ぬの、これ?


夕日は沈み、あたりは暗くなった。

闇夜の中でナイフを避けながら逃げ惑う。

疲労と不安が僕の脳を満たしつつあった。

絶望感ばかりが膨れ上がっていく。


めっちゃ鼻水出てる。


僕:「ズズ〜〜ッッ!」


ヴィーレ:「あら、大丈夫?」


心配するならテェ止めろや!!

ああどうしよ!!もう何も思いつかない…………こともない。


状況分析の結果はもう絶望しかないけど、希望がないわけではない。


打開策と言えるかわからないけど、可能性はある。

その証拠に、僕はまだ生きている。

僕は前世でも今世でも戦闘経験なんてゼロだよ?

戦闘の知識は漫画とアニメしかない。

その僕がこんなに長時間踏ん張れてる理由、それはズバリ『付加系統魔術』の力。

目視してから避けるなんて普通出来ないから。

今僕が生きているのは魔術のおかげだ。


魔術を上手く使えば一発逆転できるかもしれない!!


え?魔術の使い方わかるのって?

ふっふっふ、実はこの短時間の間に、少し、すこ〜しだけど掴めてきてる気がするんだよね。

またまた火事場の馬鹿力的な?


全身を覆う感覚。

体を押し固めて、衝撃を弾くような薄膜。

あくまで感覚だけだけど、力の大流を把握できたのは大きい。


…………転移ができれば一番楽なんだけど……

出来るならとっくにやってるんだよね〜…………


僕:「……………………ッ」


素手で刃物に挑むつもりなんて毛頭ないけど、魔術で強化された拳なら通用するかも。

ただ…………


決め手にはならないね。

いくら強化したところで僕のパンチなんてたかが知れてる。

それに…………多分弄ばれてると思うんだよね。

僕が生きていることの理由の半分は魔術、もう半分は手加減されてるから。

戦闘開始してから直ぐにとんでもない刺突されたもん。

窮地に陥って脳が覚醒してるけど、それでも本気で来られたら勝てないと思う。


…………いや、勝つ必要はないんだよ。

逃げる隙さえできればそれでいい。


僕:「フンッッ!!」


ヴィーレ:「!」


僕は拳を思いっきり地面に叩きつけた。

すると…………地面がバキバキっと割れて半壊した。


ヴィーレ:「あっ、っとと……」


よし!体勢を崩した!

今のうちに逃げる!


背後を警戒しつつ全力で走った。

…………拳の骨が逝った。

もう動かない。

途中までは完璧だったんだけど、まさかたった一発で!

アニメのキャラは全然平気そうだったのに…………


ヴィーレ:「待ってぇ〜?まだ行かないで?」


当然であるが、背を見せた敵を相手は追う。

そう!当然追ってくる!!


そこから急に振り返ってのパンチ!!!


ヴィーレ:「甘い。」


その言葉の通りだったようで、ヴィーレはカウンターを難なく躱した。

そして再び僕の間合いにナイフを飛びかわせようとした。

しかし…………


ヴィーレ:「!?」


その瞬間、僕はヴィーレの前から消えた。

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