お喋りな女
やべぇ女さんが口にした言葉、付加系統魔術…………
…………エンチャント?
前世では異世界ものなんて飽きるほど読んできた。
だからこそその効果はなんとなくわかる。
話の内容からしても間違いないと思う。
僕:「身体強化魔術…………ですか?」
異世界ファンタジーでは定番の魔法、それがエンチャント。
魔法モノの近接戦闘シーンでは必ず登場する王道魔法だ!
…………けど、そんなもの習得した覚えないんですけど。
???:「あら、やっぱり無意識なのね?本能的に魔術を発動させるなんて、素晴らしい才能だわ!殺してしまうのが勿体無いわね。」
…………話を聞くに、どうやら僕は無意識にエンチャントを使っていたらしい、けど……殺意高いな。
僕:「…………どうしてこんなことを?」
???:「こんなことって?」
僕:「どうして人を殺すのかと聞いているんです!」
時間稼ぎというのもあるけど、気になることがある。
まず、さっき言っていた空間系統の大規模魔術とかについて……
名前からして空間に作用する大規模な魔術ってことだよね。
僕がギリ習得できそうな魔術、『転移』もその空間系統魔術の類だと思うんだけど……
ぜんっぜんわからんよ?
何回か使えたってだけで、習得できてはいない。
回想の???:(歩いても歩いても、ずぅ〜っと廊下。まるで端がないみたい。)
…………けど、なんとなくだけどイメージはつくんだよ。
この豪邸の内部が、無限に続く空間になっている可能性がある。
よくあるよね、無限に続く廊下とか階段とか。
最近この世界の常識はずれな面を知り始めたから、十分有り得ると思う。
仮にそうだとすると、冗談じゃない。
出口もわからないまま永遠と逃げ続けるなんて無理だ。
避けるので精一杯だし。
次に、この人の髪や服についている血。
返り血なのは間違いない。
切られた人がまだ近くにいるかもしれない。
…………時間を稼ぎつつ人と合流して、負傷者を探さないと…………どうやって?
???:「別に殺したくて殺してるわけじゃないのよ?ただ私も命懸けでここに来てるから。見つかればあの公爵に殺されてしまう、だから殺すの。」
……………………………やばっ。
殺されたくないなら来るなよ。
ていうかそんな理由で人殺すなよ!!
ていうかこの誘拐犯(未遂)も公爵も怖すぎ!
僕:「………………………………では、アルシエラくんを狙う理由はなんですか?」
色々文句言いたいけど、グッと堪えた。
冷静さって大事だと思う。
アルシエラくんを狙う理由……
身代金とか?それとも政権争い的な?
漫画とかでもあるし。
貴族に転生しちゃった主人公が派閥争いに巻き込まれたりとか!
あんまりグロいのは途中でやめちゃってたけど!
…………お願いだからグロいのはなしで頼みます。
???:「…………ふふっ、あなたお喋りなのね。私もお喋りだから嬉しいわ。子息を狙っているのはね、ディオルネス公爵家の後継者をなくしたいからなの。」
ハイ、グロいの確定です。
子供を殺すなんて人間のやることじゃありません。
絶対に許しません。
僕:「どうして後継者をなくしたいんですか?」
これ以上聞いても意味ない気がするけど、少しでも時間稼ぎしないと……
???:「……………………500年経っても消えない因果を断ち切るため、かしら?」
…………???
500年経っても消えない因果?
何それ、そんなのあるの?
あの公爵……というより一族そのものの闇が深そうだねこれは……
???:「さてと。もう少しお話ししたいけれど、そろそろ仕事に戻らないと……………………あっ」
再びナイフを構えようとした誘拐犯(未遂)さん。
僕は覚悟を決めて全力で逃げる用意をした。
しかし目の前の誘拐犯(未遂)は突然間の抜けた声を発して姿勢を正し始めた。
ヴィーレ:「改めまして、私は禁魔導学協会、不滅の禁術指南役、ヴィーレと申します。以後お見知りおきを。」
僕:「え…………」
自己紹介…………今!?
しかも堂々と名乗ってる。
いや偽名の可能性もあるけど…………
僕:「僕は…………メイレアです。」
馬鹿正直に名乗り返してしまった。
あと僕の方が偽名使ってるじゃん!
ヴィーレ:「まあ!教えてくれてありがとう!可愛い名前ね。」
確かに自分でもちょっとキラキラ可愛すぎる名前だとは思った。
でもいいのが思いつかなかったんだもん。
可愛くても問題ないでしょ?
ヴィーレ:「あ、ダメね、また話し込んじゃいそう。いい加減にしないと。」
そう言うなり、ヌルッと闘いに逆戻り。
彼女の持つナイフが僕の首元に急接近した。
僕:「…………ッ!?」
ちょ、そんないきなり!
体勢を崩しながらも避けて距離をとる。
…………が、直ぐに距離は縮められる。
僕:「ッッ……!」
また避けて距離をとる。
また詰められる。
その繰り返しが続く。
僕:「…………ッ、ッ、ッ…………!!!」
ちょっとは手加減してよぉ!!
なんて泣き言を心の中で叫ぶ可哀想な僕。
どうするマジで?
一つ気づいたのは、身体能力が強化されてるのは本当みたい。
目で追えてるし、ギリギリだけど何度も避けれてる。
ギリッギリだけど!!
僕:「ギィぃいいい!!」
あと彼女、ヴィーレの話とさっきの僕の推測は大分真実味が増した。
ヴィーレ:「一体どこまで逃げ続けるのかしら?」
この屋敷の廊下には端がない…………無限に続いている!!




