迫り来るのは
公爵とのやり取りを終えた後、扉の前にいた使用人の人についていったらこの部屋に案内された。
ベッドあり、机あり、トイレ…………ありぃ!?
しかもちゃんと個室!
お風呂は…………流石にシャワーだけか。
僕:「ちぇ……」
あの性悪公爵の話によると、今日からここが僕の住処になるらしい。
悪くはない、悪くはないんだけど…………
1LDK、アパートか!!いやそれよりちょっと大きいのだけど……
アパート以上マンション未満、うんいいんだよ?いいんだけど……
アルシエラくんの部屋を見ているからかな、めっちゃこじんまりとしているように感じる!!
この邸宅の部屋や外装が規格外すぎて感覚がバグっている!
一人暮らしには十分なスペース、なのに何故、何故こんなにっ……隅に追いやられている感じがするんだろう!?
えっ、違うよね?
半強制的にとはいえ、一応僕はここの使用人の一人になったわけだけど。
使用人の部屋ってこれで十分だよね!?
十分広いし…………でももし他の使用人がもっと広い部屋をもらっていたら……
いや駄目だよ。
部屋はね?大きさではないんだよ。
どれだけ住み良いかが一番大事。
そう、仮にもし新手の新人いびりだったとしても、これだけ広い部屋があるんだから問題ない!
…………やっぱり、この豪邸の大きさに反して、僕の部屋って小さいよね……
僕:「ムムム………」
そんなどうでもいいことに思考を費やす僕。
そう、今はそんなことどうでもいい。
いや多少気になるけど、そうじゃない。
今一番の問題は…………
僕:「僕、晩御飯食ってない。」
なんでやねん!って思うでしょ?
もっと他に、公爵のこととか、ゼオくんのこととか、色々気にしないといけないことがある。
わかってる、わかっているんだけど、腹が減っては戦は出来んのだよ。
それに今考えたところで全部憶測に過ぎないものとして終わる。
気になるけど答えは今は得られない。
なら今するべきことをする。
そう、腹ごしらえだ!
というわけで早速使用人の方々のお力を借りようと部屋の外に出た。
僕:「……………………」
うん、誰もいない。
ていうかくらっ……
もう夕方か。
ついさっきまで明るかったのに、時間が経つのってあっという間だ。
…………で、どっちに行けばいいんだろう。
僕:「お腹減った……誰か〜…………」
左はこの部屋に来る時に通ったので、右に行くことにした。
無駄に長い廊下。
けど、昼間通ったところよりは質素かな。
ここはやっぱり、使用人の人が寝泊まりする専用の寮棟なのかな。
…………真っ暗だからちょっと怖くなってきちゃった。
怖いのは苦手である。
僕:「はぁ〜、一旦戻るか……」
と、廊下の曲がり角の前で踵を返そうとした時だった。
コツコツ………
足音がした。
僕:「ん?……もしかして!」
人がいると思って曲がり角の先に出た。
すると……
僕:「すみません、僕まだご飯」
???:「ん?ダァ〜れ?」
僕:「あ、えっと僕は………………」
長身の女性がいた。
ラインが強調された黒い服を着ている。
薄暗い中、窓から僅かに差し込める淡い夕焼けに照らされた、真っ赤な…………まっか……
え?
僕:「あの……その、髪と手についてる液体、なんですか?」
???:「コレ?血よ、毒も混ざってるけど。」
あっけらかんとした口調で告げられたのは、到底聞き流せないような返答だった。
僕:「え?…………魚とか動物のですか?」
???:「いいえ、人間よ?」
…………………………
飄々としている。
まるで当然のように………
え、これやべぇところに出会したんじゃないの?
???:「ねぇアナタ、シャワーを貸してくださらない?」
僕:「…………っいえ!結構です!」
会話になってない。
訳のわからない返事をしながら僕はその場から逃げようとした。
しかし…………
???:「ツレないわね。」
後ろを向きかけた瞬間、針のようなものが飛んできた…………気がした。
僕:「ッッ!!?」
反射的に体が飛び跳ね斜め後ろに下がった。
???:「あら?」
次の瞬間、元いた位置の壁に針が数本刺さっていた。
数本、位置からして首、それと頭。
???:「アナタ意外に素早いのね。」
僕:「……ッッ」
やばい、やばいやばい……今殺されかけたよね?
服装から見ても間違いなく使用人の人じゃないし!
となるとこの人は…………!
???:「シャワーのついでにもう一つ、公爵家子息アルシエラ・ジル・ディオルネスのお部屋をご存知?」
…………や、ややや、やっぱりそういう物騒な、あのっ、殺し屋!?
アルシエラくんの部屋って、まさか……
お偉いところのお坊ちゃん、想像は容易い……!




