嵐の前
定期報告:時間ができたため投稿再開。
アルベド:「ありがとう、これからよろしく頼むよ。」
驚くほどに僕の頭が冴え渡っていた………というわけではないんだと思う。
ある瞬間からこの人は僕をあからさまに人間として扱わなくなった。
この人は対面した時からずっと優しく笑っていて、態度が軽くて……本館の雰囲気とは場違いにすら思えた。
本館の人達は笑顔なんて見せないから。
二十代半ばの気さくな男性、それが第一印象。
緊張が解けて、気が抜けた。
気が抜けてしまって、その瞬間一気に会話が詰められて、気づけば僕が答えを出すだけの状況になってた。
気さくな態度から一転して重々しく、口調は鋭利に……けれども笑顔は張りついたままで……
とても怖い。
僕:「あの、僕はもう家には帰れないのでしょうか。」
アルベド:「さあ?」
さあ、って……
ダメだ。
何も教えてもらえない。
ていうか怖い。
なんか、逆らったらいけない気がする。
アルベド:「そういえば、小人さんから君のことについて聞かれたのだけど、随分仲良くなったようだね。」
僕:「…………“ゼオくん”ですか?」
ずっと浮遊少年と呼んでいたあの男の子の名前はゼオくん。
言語習得期間中に教えてもらった。
アルベド:「ゼオ?……彼がそう呼べと?」
僕:「はい……」
あれ?違った?
もしかして本名じゃない?
アルベド:「そうか、珍しい……実は君にはもう一つお願いがあるんだ。」
え、なんだ!?何が来る!?
重労働とかは無理だよ!!
アルベド:「彼から魔術を教わりなさい。」
僕:「…………へ?」
アルベド:「彼がね、君との約束を違えてしまったことを気に病んでいるみたいなんだ。」
約、束……?
なんだっけ?なんか約束してたっけ!?
やべぇ、覚えてない。
アルベド:「君のことについて教える代わりに魔術を教える、そういう話らしいけど。」
っは!そうだ、そんな約束してた!!
でも切り殺されそうになって逃げたんだよね。
あ〜…………
え?気に病む?嘘でしょ?アレが……?
えぇ〜〜??
言語習得期間中も態度はあまり変わらなかったと思う。
強いていうなら多少人間扱いしてくれるようになったぐらい。
それでもやっぱり…………こう、なんていうか……暴君だったよ……
アルベド:「私としても、息子の侍従になる以上ある程度の力は身につけておいてほしい。」
一呼吸してから公爵が言った。
アルベド:「いずれ難局にも直面するだろうし。」
…………南極?……難局?
悪寒がするんですが……なんちゃって!
僕:「あの……難局って……何かあるですか?」
そんな僕の不安そうな問いかけに対し公爵は……
アルベド:「小人さんから魔術をある程度学んだら、今度は彼から一般常識や侍従の仕事、護身術などを学んでもらう。」
ガン無視!!
性格終わってる!
やっぱり僕のことなんてお構いなしですかそうですか!
この人でなしがぁ!!
ていうか、彼……?
僕が首を傾げると公爵が右斜め前を指差した。
僕:「ん?」
んん?んー……んん!?
人がいた。
僕から見て左斜め前、1メールもないぐらいの距離に……
執事服姿の黒髪の男性。
若い。おそらく僕と同年代。
だけど…………一体いつからそこに居た!?
僕の前に立つなぁーー!!
……な〜んて冗談言ってる場合じゃないよね。
魔術なのかな。
だってありえないもんね。
いくら目の前の公爵に集中してたって言っても、こんな視界にバッチリ入る距離で気づかないなんて……
この部屋まで僕のことを送ってくれた人たちもそうだけど、気配の消し方が…………怖い。
気づかない間に、何か……何かされそうで。
僕:「あ、あの……」
話しかけようとした。
ぼんやりとしていて、見えているはずなのに顔がよく見えない。
丸眼鏡をかけてるのはわかる。でも、顔がよくわからない。
……生きてるよね?
???:「貴方は若様の侍従になりました。その役目を全うして頂くために、後ほど指導を行います。」
僕:「え、ああ、はい、よろしくお願いします。」
……公爵とはまた違った意味で不気味だ。
アルベド:「ふむ、今日はこんなところかな。」
公爵が机の隅にあったベルを鳴らした。
すると数秒後、コンコンと扉がノックされた。
アルベド:「外にいる者について行きなさい。君専用の部屋に案内してくれる。わからないことがあれば近くにいる者に尋ねなさい。」
用事が済んだらしく、淡々と帰るように促される。
アルベド:「実に有意義な時間だったよ。また今度話そう……良い夢を。」
僕:「…………この世界にも、そういう挨拶があるんですね。」
そう言い残して、僕はこの場を後にした。
◇◇◇◇◇
<メイレア、もとい三鳥稀有が去った後>
アルベド:「どうだった?」
メイレアがいなくなった後も笑顔はずっと張り付いている。
???:「…………人間ではありませんね。彼自身は気づいていないようですが、頭頂部に小さな異物がありました。」
臆することなく、無感情に答える。
アルベド:「それで?なんだと思う?」
???:「…………亜人でしょうか?」
アルベド:「それはそうだけど、ただの亜人ではないだろう。」
公爵の眼は輝いていた。
期待か、好奇心か、ただの余興か、定かでない。
???:「……旦那様、申し付け通り放置しておりますが、本当に宜しいのですか?」
アルベド:「良い。」
食い気味だった。
主人が良いと言うのだから、それ以上の言及はしない。
いったいこれから何が起きるのか。




