立場
人型になった上に言葉を覚えると、ものすごく世界が変わった気がした。
こうなんていうか、ペットとして鑑賞されるだけの存在じゃなくなったというか、人権?を手に入れたというか……
人と話せるだけで自分は人だって認識できる様になったというか……
まあそんなわけで今にいた……
カルネ:「いいですか。貴方はこの間説明した通り、部外者なのですから、坊っちゃまへの失礼な態度は見過ごせません。ましてや坊っちゃまにのしかかるなんて、極刑ものですよ?」
僕:「す、すす、すみません!!」
かか、顔怖い!失礼だけど顔怖い!
あのお爺ちゃん執事さんと同じぐらい怖い!
そんな睨まないで!!
今僕はお説教を受けている。
御曹司様の上につい出来心で乗っかってしまったからだ。
いや〜、床に正座なんていつぶりだろ〜…………懐かしい〜
アルシエラ:「僕別に気にしてないよ?カルネぇ、いじめちゃダメだよぉ〜」
まあなんて優しい!そして可愛い!
さっき背後に開いた穴から後光がさしてますます本物の天使に見える!
…………はぁ〜、あの怪力さえなければ完璧なんだけど……
まさか枕ひとつで壁をぶち壊すほどとは……躱して正解だった。
危うく骨が持っていかれるところだったよ。
カルネ:「坊っちゃま!これはいじめではありません!私には侍女として坊っちゃまの身をお守りする責任があるのです!」
さて、ここで一つ。
浮遊少年から言葉を学び、おおよそこの世界の言語の発音が掴めてきた。
それでまあ、人の名前は覚えづらいので頭の中で日本語風に直して覚える様にしてる。
というわけでまず、僕が幼児幼児って呼んでた怪力天使の名前はアルシエラくん。
外国人ぽいのかな?メイくんは日本名だったからよくわかんないや。
性格は、うん。見てきた通り。
容姿は抜群。肌は白くて滑らかで、髪はサラサラなホワイトブロンド。瞳は薄紅色。何度見ても綺麗だと思う。
次にカルネさん。アルシエラくんのメイドさんの一人。茶髪に眼鏡。とっても真面目で、さっきもアルシエラくんのことを心配していたけど、アルシエラくんの暴れっぷりはもう諦めてるらしい。
僕が上に乗っかったことは怒っても、アルシエラくんが壁に風穴を開けたことについては何も言わない。完全スルー。
アルシエラ:「それよりお昼ご飯食べよ!カルネ!持ってきたの出して!」
うん、マイペースな子だ。
僕と一緒。手間のかかるタイプだね!
小さな溜め息を吐いてから、カルネさんは昼食の準備をし始めた。
<お昼>
風通しの良くなった少し薄暗い部屋。
部屋の中には僕を含めて5人いる。
僕と、アルシエラくんと、カルネさんと、見張りの人が3人。
お風呂の時間を除けば、僕は殆どこの部屋から出ていない。
アルシエラくんがたまに外に連れ出そうとしてくれるけど、使用人の人達がいつも止める。
言葉が大分理解できる様になってきていた時、説明を受けた。
ここはディオルネス(アルシエラくんの苗字)公爵邸の本館らしい。
僕がいたのは別館。
未だに信じられない。
それじゃあ本館はどのぐらい広いんだろう、って常々思う。
僕はあの火事の後、瓦礫の中に埋もれていたのを発見されて助けてもらったらしい。
そこまでは良かったんだけどねぇ〜……どうも、放火の嫌疑をかけられているらしい。
ヤバいね。
勿論覚えたてホヤホヤの言葉で言ってやりましたよ。
「やってません!全然やってません!やる度胸もないです!!ほんと命だけはご勘弁を!!」ってね。
けどまあ、疑いは晴れていない、どころかますます怪しまれている。
どうやって公爵邸に侵入したのかとか、何故瓦礫の下に埋もれていたのかとか、色々聞かれたけど殆どはぐらかしちゃったし………
だって仕方ないでしょう?僕は元はこの屋敷で飼われてたペットなんです、なんて言っても絶対信じてもらえないし。
アルシエラ:「ねぇねぇ!これも食べて!」
僕:「有難うございます。」
そんな怪しさ満点の僕が此処に住まわせてもらえているのは、この子の影響が大きいのだと思っている。
何故かは知らないけど、アルシエラくんは僕のことをかなり気に入ってくれているらしい。
素性の知れない相手にこんな手厚い待遇、本当、馬鹿力以外は天使なんだよね。
僕:「このお肉美味しいですね!カツみたいです。」
アルシエラ:「カツ?カツってなぁに?」
とはいえ、気に入られていても僕が怪しいのに変わりはない。
だから僕は基本この部屋から出られない。
<昼食後>
アルシエラ:「それじゃあ、僕もう戻るね。」
僕:「はい、来てくれて有難うございました。」
アルシエラ:「…………ごめんね、ずっとこんなところに閉じ込めて。でも大丈夫!父様もきっとすぐわかってくれると思うから!」
…………やっぱり優しい子だ。
僕:「はい、有難うございます。」
アルシエラくんは部屋の扉まで歩いていき、最後に微笑みながら手を振ってその場を後にした。
…………カルネさんを残して。
僕:「…………カルネさん?アルシエラ様、行っちゃいましたよ?」
カルネさんは少し間を置いて、それから僕の目を見つめて言った。
カルネ:「旦那様より伝言を承っています。あなたと直接お話ししたいそうです。」




