夢心地
自分でも不思議ではあった。
浮遊少年ほど薄情なつもりではないけど、僕はこんなにお人好しだったかなと。
だって普通人に任せるでしょう?
レスキューを待つのが正しい筈だよ。
それなのに、さっきまで危うい状況だったのに、また同じところに戻ろうとしてる。
浮遊少年(回想):(ガキが一人東棟にいるな。丁度お前がいた場所の近くに。]
………………あの子ねぇ、なんか放ってはいられないんだよねぇ。
行きたくはないけど、行かないと。
倒れてる人見つけた時もそうだったけど、僕って何だかんだ優しいよね。
………………
足取りがフワフワする。
いや、フラフラかな。ま、どっちでもいいか。
こうやって二足歩行するのは久しぶりだよ。
なんていうか、違和感がすごい。
何で僕、二本足で立ってるんだろう。
これ人間の足だよね。
走って、振っている手も、人間のものだ。
僕:「ハッ……ハッ……」
声も、人間の声だ。
不思議だ。
どうして人間の体で走っているのか。
いや、これが元々普通だったんだけどね?
でも、突然…………そういえば顔はどうなってるんだろう?
もしかして元に戻ってたりするのかな。
……鏡がないから分からないな。
僕:「……………………あ。」
右側から声が聞こえた。
幼児の声だ。
あのうるっさい奇声は間違いなく幼児のだ。
僕は声のする方へ走って行った。
廊下は燃えていて見る影もないって感じ、だけど、僕は走った。
熱くは、なかった。
いや、熱かったのかな?
分からないけど、なんか平気だった。
呼吸もそんなに苦しくない。
幼児:「………#########〜〜!!!!〜〜〜」
僕:「あっ、いた。」
おぉう、めっちゃ泣いてるね。
綺麗な顔がぐっちゃぐちゃだ。
よし、とりあえず担いでいこうか。
幼児の周りは瓦礫と炎に囲まれていた。
僕が今正気だったら間違いなく行くのを躊躇っただろう。
しかし、今の僕は気分がイカれてるから難なく通り去った。
幼児の側まで行って話しかけてみた。
僕:「ほっ、っとと、大丈夫そう?」
幼児:「……##?」
誰?とでも言っているんだろう。
うん、僕も今自分が誰なのかよく分からない!
まあそこら辺はあまり気にしないでくれたまえ。
とそこで、後ろでまた瓦礫がガラガラと崩れる音がした。
幼児:「##ッ!?」
それに驚いて幼児が僕の足にしがみついてきた。
うんうん、怖いね!
早く逃げましょうね!
足にしがみついていた幼児を無理やり引き剥がして、抱っこした。
幼児:「##ッッ!?」
僕:「は〜い御坊ちゃま暫しの我慢ですよ〜ッ!」
喋れるのって気持ちィイ!!
滑舌万歳!!
これで誰かが反応してくれたらもっといいんだけど……
幼児:「…………#、#?」
……うん、わかんないよね。
何言ってんだろうコイツって感じだろうね。
気にしなくていいよ。
幼児に向かってニッコリ笑いかけた。
炎に囲われながらニッコリ笑うなんて、どう考えてもヤバいやつだけど…………うん、やっちまったな。
幼児:「…………#、###?」
あ〜ほら〜、怯えてるじゃん。
お目々ウルウルさせて…………うっわ、本当に水分たっぷりな綺麗なお目々…………
顔面もぷるっぷるだし、流石幼児。
ああ、おっと、こんな見惚れている場合じゃなかった。
いつも乱暴にされてこんなにまじまじ顔を見たことってなかったからつい。
よし、じゃあ行こうか。
僕は幼児を抱っこしたまま走り出した。
炎の広がりは酷いけれど、まだ道が塞がれるほどではないのは幸いだった。
元来た道を辿れば図書館までは行ける。
生憎出口は知らないからね。
…………あれ?そう言えば浮遊少年はどうするんだろう?
発火原因が何か知らないけど、このままいくと図書館の方にも燃え広がりそうだし……
平気そうにしてたけど大丈夫かな。
…………いや、大丈夫か。
子供だけど、魔法使いだもんね。
僕を軽〜く吹っ飛ばしちゃうもんね!
あれ怖かったな〜……
…………
僕:「ハッ……ハッ……ハッ、ハッ……」
息が切れそうになっていた。
でも辛くはなかった。
体は動かせた。
どうしてだろう……?
走って走って、た〜くさん走った。
視界がぼんやりと溶けていくまで走った。
そして、いつしか僕は深い深い眠りについていた。




