転生に変身、世界って不思議だなぁ〜
転移に成功し、窮地から逃れはしたものの、今度は転落死に陥ろうとしたところを浮遊少年に助けられた。
足を鷲掴みにされて。
足、そう、足だ。
動物らしい毛むくじゃらの短足ではなく、人間の素足。
………………
僕:「変身しとる…………」
浮遊少年:[何だ、化けて出たわけじゃないのか。]
いや〜生きてんだよねぇ、足あるし。
って、ん?
その言い回し、コイツ僕が誰だかわかっている!?
浮遊少年:[お前ほど頭の中が騒がしい奴はそういないからな。]
…………もう少しオブラートに包んでくれてもいいんじゃないの?
遠回しに、僕の気に留まらない程度の言い方でさぁ。
ほんっと可愛くない。
浮遊少年:[東棟にあった気配が急に消えたと思ったらまさか真上から来るとはな。転移か……………………で、その姿は一体なんだ?]
僕:「あぁああ〜〜〜」
浮遊少年の問いかけなんて気にも止められないほど、一気に気が抜けた。
暫くは会いたくないと思っていたけれど、もうそんなことはどうでも良くなるぐらい、今僕は安堵に包まれている。
周りは火に囲まれ、瓦礫で生き埋めにされ、いつ死んでもおかしくないような状況を生き延びた。
今はとにかく、この安堵感に浸っていたかった。
浮遊少年:[おい、聞いているのか……?その姿は何だ?魔術か?]
僕:「ッッ知りませ〜ん!!」
そんなこと今どうでもいいでしょ!!
嗚呼!!僕生きてるぅぅう!!
イギデルゥウウウ!!
ウワァアアアアアアアアア!!
浮遊少年:[煩い。]
僕:「イタッ!」
浮遊少年は僕を逆さまに持った状態で僕を蹴った。
前よりも軽めの蹴りではあったが、それでも痛いし不快なことに代わりはない。
あと、ずっと逆さまだから頭に血が登ってきた。
そろそろ下ろしてほしい。
浮遊少年:[ん。]
僕:「………………ふぇ!?」
いきなり足から手を離され、僕はポイっと放り落とされた。
その直後、地面に直撃。
僕:「わわわわ!!ッとッと!!」
ではなく、手足を使って何とか顔を避けて着地した。
高いところから着地したため手足がジンジンして痛かった。
僕:「……………………………」
立てなかった。それ以前に四足歩行さえままならないぐらいだった。
手足が折れたわけではない。
体の感覚がおかしかった。
…………どうなってんの?
浮遊少年にも聞かれたけど、手足何?
浮遊少年:[何だ、またわからないのか。]
呆れたようにくどそうな口調で言われた。
しかしそんなふうに言われても分からないものは分からない。
浮遊少年:[付加系統魔術や錬金系統魔術に形態変化に関連するものがあるが、生物に、それもここまでの変化を及ぼすようなものはない筈だ。というか、現実的に考えてあり得ない。]
そりゃそうだ。
本物の鳶が本当に鷹を産むわけがないのと同じで、狼が昼間は人間の姿をしているんだとか、満月を見ると狼になってしまうだとか、そんなことは現実的に考えてあり得ない。
人が狼に、狼が人になんて、ないない。
…………なら僕は何?
浮遊少年:[……ゲテモノ、気色悪い。]
辛辣ゥウ!!
そこまで言わなくてもいいでしょう!!
僕自身は別に悪くはないし!!
浮遊少年:[………変身系統魔術の類も考えられなくはないが………今の魔術の水準がどの程度なのか……]
あ〜、僕には何も分からなさそうだ。
ていうか足痛い、手痛い。
痙攣してるんですけどどうしましょう。
………………あ、ヤバい。
安心し切ってすっかり忘れていた。
屋敷にはまだ人がいるかもしれない可能性。
さっきの人もどうなったか確認してない。
僕:[……あの〜………………]
浮遊少年:[……ん?何だ?]
僕:[屋敷にいる人って皆んな外に避難出来てますか?]
出来てるよね?大丈夫だよね?
これで誰かが逃げ遅れたりしてたら物凄く嫌なんだけど。
浮遊少年:[ああ…………屋内を駆け巡っている奴らがいるが、鎮火をしているみたいだな。使用人は大体外に逃げれたようだ。]
ほっと一安心。
いやーよかった。
こんなところでもメイドさん達にはたくさんお世話になったからね。
よかったよかった。
浮遊少年:[ん?ガキが一人東棟にいるな。丁度お前がいた場所の近くに。]
へ!?が、ガキ!?
ガキって、あの幼児!?
うん、この屋敷でガキって言ったら目の前にいる浮遊少年と幼児しかいないよね。
あ、そういえば部屋に置いてきぼりにしたままだったね!マズイね!
メイドさん!執事さん!その他諸々何やってんの!?
片付けに必死すぎて見失ってるじゃんッッ!!
え、どうしよう助けに行ったほうがいい?
いやまず助けをよ………ぶのは無理か、言葉話せないし。
もう〜ッッ子供は目を離しちゃダメなんだってぇ〜
僕はフラフラながらもグッと手足に力を入れて立ち上がった。
立ち上がった…………二足歩行なんていつぶりだろう。
何だか感動ッ!……してる場合じゃなかったね。
足取りは絶対おぼつかない。けど、頑張れば走れはする……と思う。
…………期待はしていないけれどチラッと浮遊少年に目線を受けた。
浮遊少年:[…………あ“?]
え、威嚇された。
こりゃダメだ。お話にならない。
僕は既に学んだのだ。
浮遊少年に考えなしに頼み事をしたら殺されると。
この間倒れていた人を助けたのはただの気まぐれだったんだろう。
うん、コイツには頼れない。
間髪入れずに浮遊少年が近づいて来た。どうやら読まれていたらしい…………
僕:「…………スー…………さらば!!」
そう言って僕は全力疾走で図書館から逃げていったのだった。




