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猛獣の化け方ガイド  作者: 水蛍
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退屈が終わる夢

真っ暗だった。

体がとても重く感じた。

それに何だか少し寒い。


あれ、夜?…………何してたっけ?

僕は…………えっと……


ガラガラ、ドシャ…………

パチパチ、パチパチ…………


何かが崩れる音がする。

火の音もする。


どうして動けないんだろう。

僕は何をしているんだろう。

…………暗い…………


---------------------------------------------


夢を見た。

懐かしい夢だ。


僕:「………………………………」


アイスを片手に、アニメを見ていた。

学校が終わると、僕は直ぐに家に帰る。

特段仲のいい友達もいないし、寄りたいところもないし、部活にも入っていないからだ。

家には大抵一人きりだ。

お父さんとお母さんは仕事。

家にはあまりいない。

一度聞いてみたことがあるけど、馬鹿みたいにデッカイ会社で忙しいらしい。

ブラック企業、労働基準法は何処へやら……


僕:「………………………………」


アニメを見るのに疲れると、直ぐに眠った。

暫くすると、また起きた。

お腹が空いたらコンビニへご飯を買いに行く。

好きなもの買って好きなアニメ見て好きな様に過ごす。

まさにニート。


僕:「………………………………」


勉強もまあ、やってはいた。

けど、別にサボったって誰に怒られるわけでもないので、あまり真剣には取り組んでいなかった。

成績が良かろうと悪かろうと、別にどっちだっていい。

そんな感じだった。


僕:「………………………………」


毎日繰り返した。

学校行って、家に帰って、アニメ見て、寝て、起きて、ご飯買いに行って、食べて、お風呂入って、寝て…………


気分転換で運動もたまにした。

適当に走ったり、サッカーしたり…………


それでも何かが変わったとは思えなくて、また繰り返した。

学校行って、家に帰って、アニメ見て、寝て、起きて、ご飯買いに行って、食べて、お風呂入って、寝て…………

何度も何度も、何度も、繰り返した。

繰り返して、繰り返して、吐きそうになるくらい繰り返して、そして…………


僕:「………………………………」


このままだと、ダメだ。死ぬ…………


それから何だか虚しくなって、色々散財したりしてお金がなくなった。


僕はお小遣い稼ぎのために、平日の夜中と土日にアルバイトをするようになった。

高校生は基本的にバイトは禁止らしいけど、クラスの人の中にやっている人もいたし……


軽い気持ちで、簡単な面接受けたら意外にもあっさり採用。

人気アルバイトの一つなのに。

でもまあ、正規ではなくバイトだしね。お店も小さいし。

そんなこんなで始めたのだが、初めの頃は結構大変で。

入ってきた新刊並べたり、新しい順に位置を変えたり、あと何故かイラスト描いたり、紹介文書いたりもした。

掃除とか、入り口で看板持ったりとか、店長さんにはこき使われたもんだ。

だけど、その苦労が少し身に染みて。

初めてお給金を貰った時なんかは飛び跳ねそうになった。



それから暫くして、後輩ちゃんができた。


メイ:「よろしくお願いします、先輩。」


名前はメイ君。

歳は十七。

真っ白な髪。

それとは真逆の日本人の黒い瞳。

2.5次元を生きる美青年。


出会った当初は、ロシア人の血を持つ白髪のイケメン?なんて下手な設定なんだろう。

とか思っていた。


彼は休日しか来ないのだけど、その休日はお店がよく混んだ。

主に女性客が押し寄せてきて、見てるとイラッとした。

がしかし、悔しくも彼がいると本当にお店の中が潤った。


お客殺到、本の整理も捗ったし、掃除も迅速。

絵は下手だったけど。


メイ:「先輩、この後暇だったらカラオケ行きませんか?」


突然の申し出。

あまり愛想良くしてあげた覚えがないが、さらっと誘える辺り、陽キャはすごい。

こういう人懐っこいワンコキャラが、女性の心を鷲掴みにしているのかも。


かくしてプライベートでもかなり仲良くなり、僕の唯一の友達と言える存在になった。

最初は外見だけでカッコイイ系のイケメンだと決めつけていたが、実はあざとい系のイケメンだったりもして、まんまと手中に嵌められた。


メイ:「三鳥(みとり)先輩って、下の名前なんで隠すんですか?」


僕:「世の中には知らない方がいいこともあるのだよ。」


懐かしいやりとり。

何度も聞かれて焦ったなぁ。


…………退屈が、少しだけ退屈じゃなくなった。

そう自覚した。



ある日のことだった。

お母さんが本屋にやってきた。

めっちゃ気まずかった。

うちに帰ってくる時間もないくせに、なんで本屋(ここ)に。

そんな疑問を抱えながらそっと目を逸らした。


お母さん:「…………きゆ君。その、久しぶり。」


僕:「…………久しぶり……」


お母さん:「どうしてバイトしてるの?」


僕:「暇だったから。」


お母さん:「そっか…………………………ごめんね。今日はお父さんも帰ってきてるの。皆んなでご飯食べない?」


僕:「…………食べる。」


淡白に返答しちゃって余計気まずかったなぁ。

あの後店長さんが気遣ってくれて、早めにあがったっけ。


お母さんはバイトについては特に何も聞かなかった。

いや、聞きたそうではあったけど。

でも何も言わずに、申し訳なさそうな顔だけしてた。

お父さんも同じ。

ご飯の時も皆んな気まずそうで、本当に家族の食卓なのかと心の中で思ってた。

でも気まずそうにするあたり、僕のことを気にかけてくれているんだと知れて、ちょっと嬉しかったりもした。


お父さんとお母さんは、僕に嫌われているとでも思っていたのかもしれない。

けれどバイトをし始めて、仕事の苦労を少し知ったから、仕事に熱心な二人のことを嫌いだとは思っていなかった。

僕のことを気にかけてくれているとも知れたし。

その日から少し、二人との距離が縮まった。

月に一、二回だけど会う機会も増えた。


また一つ、退屈が減った。


ちょうどいいぐらいの退屈と忙しさが混じり合って、まさに順風満帆だった。

あの本屋は僕の思い出の場所。

僕の幸せが始まった場所。

僕は明日もあの場所へ…………


あれ…………?

※『稀有』と書いて『きゆう』と読む。




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