たとえ火の中瓦礫の中
ジリジリと迫りよってくる異常者。
くっ、まさかこの僕が恩を仇で返される日がこようとは。
まあ、この異常者さんは僕のことなんて知らないだろうけど。
いや今はそんなことどうでもいい。
この状況、どう切り抜けるかが問題だ。
僕:「ハッ……ハッ……」
血ィ吐いてるけど、喉の奥凄い苦しいけど、動けはする。
問題なのは……
後ろは壁、周りは火の海。
さっきのでわかったけど、体格差的にほぼ敵わない。
考えてみれば僕、(多分)生まれてまだ一年と経ってないし、人間の相手とか無理です。
逃げるにしてもこの炎の中を突っ切るのは厳しいし、下手に動いたら爪でブッ刺されるかもしれない。
逃げ道がない…………あるとすれば、炎を突っ切るか…………
どうするの僕〜!?
ああどうしようどうしようっ!僕この人に殺される?
火消してもらわないと、消火栓ないの?どうしよう誰かいないの!?
ヤバいヤバい火がどんどん広がっていく不味い!!
二酸化炭素枯渇の影響か、火事現場での対処なんて避難訓練でしか想定してこなかったからか、僕は今、混乱状態にあった。
そんな色々ヤバい時に殺されそうになってるんだから、益々混乱する。
兎に角、今僕は何をすべきか……
とりあえず目の前の異常者を殴って気絶されるとか……いやだから無理だって!
どうするんだよ僕!ヤバいよ!
逃げるか!?いや焼け死ぬよ!!
(※混乱している)
そうこうしているうちに、異常者が僕のすぐ側まで近づいてきた。
僕の目線の位置が低いからか、暗いからかわからないけど、浮遊少年と同じで物凄く見下されてるみたいで怖い。
あかんやつやこれは!
襲いかかってきた人:「フゥゥッッ………………」
息遣いがまさに獣!
ちょっとぉ!こんなのを何で放置してるんですか使用人の人たちぃ!
いや、まさかまだ誰も気づいてないとか?
くどいけど、このお屋敷って何キロあるんですかってぐらい広いし。
ああどうしよう!
に、にげ、にげ………ッッ!
火は既に周囲を取り囲んでいる。
此処から抜け出すにはやっぱり炎の中を突っ切るしかない。
この、灼熱の炎の中を、こんな小さな体で……
殺す気か!?いやまあ此処に来てからほぼ毎日命の危機には直面してるけどっ!
主にあの幼児と浮遊少年のせいだけどっ!
今回のこれはちょっと手厳しすぎじゃあありませんかねぇ!?
下手したら骨も残らず燃え尽きるのでは…………
その時、再び僕の眼前に腕が振り上げられた。
その後その腕が、爪が、誰に向かって襲いかかるのかはどんなに頭の悪い僕でもわかる。
ッッッッ!!??
浮遊少年ほど怖いわけではない。
けれど、怖いものは怖い。
自分では敵わないと思わせる敵ほど、恐ろしいものはない。
あんなに渋っていたのに、腕を振り上げられた瞬間、僕は迷いなく火へ飛び込んだ。
避けるために、逃げるために、反射的に……
十分自覚しているつもりでいたけど、浮遊少年に半殺しにされて、殺されそうになって、僕は自分が思っていた以上に、メンタル的にかなり過敏になっていたようだ。
迷いなく火の中に飛び込むなんて普通はしないでしょう?
だって……
僕:「ヴワアアアアアアアアアアアア!!!!」
こうなるのだから。
僕:「アアアアアア!グア、ハッ!……ッハ!ハー…ハー…」
僕は炎の壁を突っ切って、火が回っていない所まで出た。
そして、鎮火するためにのたうち回った。
僕:「アガ、アガアアアガアアアッッ!!」
いやアアアアア!熱い熱い燃える毛が燃える!ただでさえ燃えやすい体なのにいやぁああああ!!
今の自分を客観的に見るのなら、陸に上げられた魚だろう。
苦しくて踠く魚。
はっきり言葉にするのなら、見るに耐えない。
僕:「ハッ!ハッ!ハッ!ハ、ハ、ハァ…………」
吐血、打撲による骨折、全身は炎に焼かれ、まさに、見るに耐えない姿だった。
それでも立っていられるのは、きっと浮遊少年に散々追い詰められたせいだ。
いや、おかげと言うべきなのか、まだ動ける。
…………ッッ……痛ッ……
しかし動けるとは言っても、怪我が治るわけではない。
特に口、腹部からの内部出血は致命傷。
この体は小さいから、浮遊少年も近くにいない以上、おそらく長くは持たない。
そのことは自分でも何となくわかっていた。
一昨日の夜に、沢山の血を垂れ流して、死に近づいていく感覚がまだ残っていた。
…………これ、浮遊少年の時にも増して、ヤバいな……
僕は後ろを見た。
炎の先で人影が揺らいでいる。
さっきの異常者だ。
…………あの人大丈夫なのかな。
あそこにいたら確実に焼け死ぬと思うけど。
刺し殺そうとしてきたとはいえ、流石に焼死っていうのはちょっと……
いやでも、ちっぽけな僕には何も出来ない。体もボロボロだし。
僕に出来るのは大声出して人を呼ぶことぐらい。
うん、今できる最善を尽くさねば。
というわけで、僕が人を引き連れて来るまで死ぬんじゃないぞ異常者君!
寛大で慈悲深い僕に感謝してくれたまえ!
ではッ…!
と、その時だった。
ミシィィィイイ!!
僕:「ん?」
辺りによからぬ音が響き、数秒としないうちに天井が崩れた。
そして僕はその下敷きになった。




