交換条件
浮遊少年:[明確な思い出が俺に伝わってきた。あれは間違いなく人としてのものだ。]
………………え?まだ信じてなかったの?
そっか………………そんなに信用ないのか。
浮遊少年:[ない。]
ぬあああああ!
僕:[いちいち心を読むのやめてもらってもいいですか!?]
浮遊少年:[断る。]
はぁ!?何でェ!?
浮遊少年:[信用してないからだ。]
ぐはッ…!に、二度も…!
こ、心が痛い……
浮遊少年:[人の心は複雑だ。いくら俺でも全てを覗き込むことは出来ない。全貌を見ることは出来ない。]
え………ん?
へぇー、そうなんだー?
浮遊少年:[お前のような頭の中で馬鹿騒ぎしてる奴は特にな。]
酷い!…………さっき、ちょっと感動したのに!
はぁ…………まあ、人間そう簡単に変わるわけないか。
蹴ってこないだけ有難いと思おう。
浮遊少年:[お前のような奴はある程度の心情があれば本音を簡単に隠せてしまう。だから信用するのは難しかった。]
え…………
浮遊少年:[それが本当に人の魂なのか、はたまた偽りのものなのか……………]
……………心配性が過ぎる気がする!
浮遊少年:[生憎、前例があるんでな。]
え、前例って………………いやまあ確かにこういう疑り深い人は詐欺にあったことがあるような人って決まってるけど………それにしたってぇ、ねぇ?
浮遊少年:[話を元に戻すぞ。]
僕:[あ、はい…………]
…………うわー、今絶対誤魔化そうとした。
やっぱり詐欺られたのか。
浮遊少年:[……………………はぁ、お前とこうして感覚を伝え合っていると疲れる。]
え、感覚って…………ああ!この声に出さなくても話すことが出来る魔術のことね!
言葉がわからなくても通じ合えるし便利だよねぇ〜。
で、それが疲れると。
そっかそっか。
僕は気にしない。
全く気にしない。
自分のせいだなんて全く思わない。
だって、全部僕の頭の中のことだもん!
悪口も愚痴も奇声もボケやツッコミも、(聞こえてはいるけど)口にしてないからいいのだよ!
浮遊少年:[そろそろ話を進めたいのだが…………?]
やばい苛立ってきてる。
ちょっとふざけすぎたかな。
うん、ここはおとなしくしておこう。
浮遊少年:[…………お前に一ついい提案をしてやろう。]
……………………いい提案?
浮遊少年:[お前は“ 魔術 “について知りたい。俺はお前、ひいてはお前のいた世界に興味がある。]
ほうほう…………
浮遊少年:[なら話は簡単だ。互いに情報を提示し合えばいい、違うか?]
え…………なるほ、ど?
ジョーホーキョーユー…………?
なんか、内容だけ聞けば僕が損することは何もなさそうだけど…………
こう、うまいこと丸め込まれようとしているような…………
浮遊少年:[は?別に嫌ならそれでもいいが?]
僕:[え!?い、いやじゃないですとも!そう!是非教えていただきたいですあの、マジュツ!]
浮遊少年:[………………………………………………]
や、やばい。
流石に調子に乗りすぎたかな?
…………………………………………
浮遊少年:[…………………………………蹴るんじゃなかったな。もう朝だ。]
僕:「へ!?」[へ!?]
僕は上の方にある窓を見た。
すると確かに空が明るくなってきていた。
ま、まずい……!!
僕が抜け出したことがバレる!
浮遊少年:[騒がしくなる前に戻れ。昨日もそうだが、アレは声だけでいえばお前といい勝負だからな。]
あ、はい勿論言われなくても……!
…………………………?アレって……
その時、尋常でない叫び声が聞こえてきた。
幼児:「####ーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
うわあああァァあああ!!?
ななな、何事!?うるっさ!
それは、思わず耳を塞ぎたくなるほどに甲高い、アレだった。
浮遊少年:[わかったら戻れ。]
おお、ちゃんと耳塞いでる。
慣れてるねー。
浮遊少年:[………………………]
無言で睨まれた。早く帰れってことか。
………………………………………
僕:[あの、さっきのお話は置いておくとして…………とりあえずその人のことお任せしてもいいですか?]
僕はチラッと上を見た。
浮遊少年:[…………そもそもお前にはどうしようもないだろう?]
それはそうだけど………………
浮遊少年:[…………これはひとまずは俺が手元に置いて調べておく。どうするかは俺が決める。]
……………………
僕:[………………殺すとかは………………なしで…………]
疑うようで悪…………いと思うけど、人ってすぐには変わらないと思うんだよ。
だから一応確認を…………
浮遊少年:[…………やはりお前は、人らしいといえば人らしいな。]
…………は?
浮遊少年:[人としての倫理観、罪悪感、正しさ……………………懐かしい…………考え方だ。]
…………なつ、かしい?
それからふよふよ浮かんだ少年は、少年らしくもない台詞を吐いては部屋の外へ出て行った。
倒れ込んでいた瀕死の人も一緒に運び出された。
そしてあっという間に部屋に取り残された僕。
………………………………やば、戻らないと!!




