まだ馬車の中
定期報告:特になし。
…………むさ苦しい。
隣にいるのはチビっこい狼二匹、周りにいるのは酒臭そうな男ども。
「ハァァ〜」
華がないなぁ。
と、まあくだらないことは置いときましょう。
え?ずいぶん落ち着いてるな?
いやいや、そんなことないよ?
さっきまで必死に逃げ出す方法を考えていたし……
でも、なんだか疲れちゃって……
鍵を持っている奴は見えるけど、檻の中、しかもこの手足では絶対に届かない。
掴めないし……
となると鍵を開けてもらえる時を待つしかないのだけれど……
その時はおそらく首輪をつけられるとき。
だからつけられる前に逃げないといけない。
全力ダッシュでね。
もちろん他にも考えた。
こっそり持ち前の牙で檻を壊せないかとか、体当たりで檻を壊せないかとか……
鍵を使うという選択肢は僕にはない。
理由は先ほど述べたとおりである(涙)
それでまあ、壊すにしても夜の方がいいのでこうして大人しくしているのである。
以上。
では、僕はまた死んだふりして無になるので、バイバイ。
(それからしばらく)
「ファァァ」←あくび
(さらにしばらく)
…………………………………………………………………………………………………←寝た
(夕方)
「ううん、あれ?」←起きた
えっと?ああ、おはよう。
なんかうるさいな。
くるっと後ろを振り返ると、酒。
「########‼︎###⁉︎」
「############………」
「######」
あ〜、ちょっとなに言ってるか分からない。
というか酒臭そうって思ってたらほんとに酒飲みだした。
夕方から飲むなよ。
僕がじとっとした目で見ていることには気づいていないようだ。
僕のお仲間たちは………え?
僕のお仲間たちは倒れていた。
吠えず動かずただ倒れていた。
そこまでならいつも洞窟で見ている光景だ。
しかし、矢だ。
そう、矢が体に突き刺さっているのだ。
突き刺さったまま倒れているのだ。
…………………………人は残酷だ。
でもまあ、微かにいびきが聞こえるし心配ないか。
多分、刺さってるのは麻酔矢かな。
ということは売られる可能性が高い?かな。
マジか〜、ペットか〜。
……………実を言うと僕は売られることに関してはその、妥協した。
もちろん飼われるのは嫌だ。
けど、あの洞窟よりもマシな環境を求めるのなら……悪くはないと思ってしまった。
それに…………
檻からこっそり覗き込む。
暗くて見えづらいが、馬車の中には夥しい数の山菜や肉、さらには動物の毛皮まで置いてあった。
そう、削がれるよりはマシなのだ。
では何故逃げ出そうとしてるのか?
売られてもいいというのはあくまで最悪の場合。
逃げ出せるのなら逃げますよ。
…………………………さて、そんなこんなで時間が経ち、いよいよ脱出決行の夜である。




