父様!あの話は本当なのですか!?
あの後、なんとか姉上の拘束から逃れた俺は父上の書斎の前にやってきた。
……しかし、凄かった………抱きまくらってあんな感じなのだろうか。姉上の薔薇のような残り香を纏う事になったが、当初の予定とは違うけれど、父上に直接状況を聞いてみないことには何も出来ない。
「すーーー………」
俺は息を大きく吸い込み、意を決して父上の居るであろう書斎の戸を叩く。
コンコン。
待つ事3拍程で返事が来た!
「ん……誰かな?セルジュかい?まだ書類の確認印は押し終わって無いのだけれど……」
「あの、父様!お仕事中に失礼します!!」
部屋の中から少し驚いた気配を感じる。
やはり俺が仕事中に来るのは想定して無かった様だ。
だが、俺にも譲れない事がある。返事を待たずして部屋へと入って行った。
「…!……アリューゼだったか。こら、アリューゼ。私は政務の途中なのだから、私の返事を待たずに入って来るのはあまり良い事とは言えないよ?」
そう言いつつ重要書類は無いのか、確認していた書類を横にどけて俺に向き直ってくださる父上。
うっ。確かに気が急いてしまってあまり行儀が良いとは言えない事をしてしまった……だが、それに対して一言謝罪を入れることにして要件を伝える。
「すみません、父様……少々焦っていたようです。今後はこのようなことが無いように気を付けます。……それでですね、あの……姉様のお見合いについてなのですが」
ここまで一気に言った瞬間、父上の顔が露骨に口惜しそうな、哀しそうな、なんとも言えない表情えと変わる。
それを見た俺は、やはりあのお見合いは父上にとっても許容しかねる案件であった事を確認する事が出きた。それだけでも気分が少し軽くなった。
「…そうか。アリューゼも知ったのか。……それは、シャルが自分で言ったのかい?」
「あの、姉様の様子が普段と少し違う様に感じまして、何か嫌な事でも有ったのではないかと聴いた所、その事を教えて下さいました……あの!父様、この件、本当になんとか……」
「ならない。私としてもとても心苦しいが、身分が上の者からの頼みを断る事は下の身分の者には難しいんだ」
「それでは……お相手は伯爵様なのですか?」
そう聞くと、父上は力無く首を振り、絞り出すようにその名を告げた。
「……ダニエル辺境伯だ」
「辺境伯閣下…ですか?」
「ああ、南の森を抜けたその先は隣国との国境を護る為に辺境伯であるシュナイダル家がある事はアリューゼは知っているね?そのシュナイダル家の当主であらせられるダニエル卿からの頼みでね。こうやって形に残る様に手紙で日程と要件を伝えられている。私としても本来なら断りたい。だが、それをしてはこの国では生き残れない……」
辺境伯だと…!!なんでそんな奴が姉上を狙って……!!
俺は疑問に思った事を父上に聞いてみる。
「父様、そのダニエル卿は幼女趣味だったりするのですか?」
すると父上は身を乗り出して俺の頭を軽く小突く。
「こら、アリューゼ。少々口が過ぎるぞ。もちろん、ダニエル卿にそんな趣味があったなんて聞いたことが無い。私も昔は色々お世話になるくらい懇意にしていた方だ。奥様方と仲良くなさっているのを何度も見ている。だからこそ、今回の話に驚いているのだよ」
「なるほど、そうでしたか……だとすると色々不自然ですね。奥方様方と仲のよろしいダニエル卿が何故50も過ぎてから8歳の姉様の事を見初めたのか」
「ああ、私もそこを気にしている。だから手紙も何度も読み直したし、実際にお会いした時にも『中々器量の良い娘だな。ぜひ家の嫁に加えたい。今度手紙を送るから指定した日時にお見合いをするぞ!』と言われてね」
ん?なんか今引っ掛かったぞ?
お年がお年だから一人称が『俺』か『私』か『儂』か分からないが、自分の事を指さずに『家の嫁に』……ね。
これは夜にでもアウラ様に確認を取るべきだな。
とりあえずここはお暇しよう。
「そうでしたか……無理を言って申し訳有りませんでした。これで僕は失礼します」
「ああ、アリューゼもいきなりの事で面食らってしまったのだろう?だったら咎めたりはしないよ。シャルもアリューゼが姉想いの弟で嬉しいと思うよ」
そう言って、俺の頭を撫でてくれる父上。
剣ダコがあって節々が硬いけど、大きく、暖かい父上のいつもの掌だ。
暫し撫でられるがままになっていたが父上も政務の途中であることだし、名残惜しいが部屋を後にするのだった。




