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世界最強なのに、学校に行かされることになったんだが……  作者: sena
第1章 異能者育成学校編入編
6/11

第6話 ふふん!どうですか?僕の力は

 

 今日はみんな大好き異能の授業がある。


 僕が通う異能者育成学校は、その名通り異能を持つ人間が通う学校である。そしてこれまた当たり前だが、異能についてのカリキュラムも組まれている。


 基本的に一人につき異能の数は一つ。そして所有する異能は人それぞれであり、同じような異能を持つ人もいるけど、違う人もいる。そのため異能の授業とは言え、教師から教わることはあまりない。


「じゃあ~そこの的に向けて撃ってね~」


 やる気のない女教師が僕たちに向けて言う。


「花音花音。あの教師、いつもやる気ないですよね」

「そうですね。まるで、お兄様のようです」

「失礼な!僕のどこがやる気ないと言うのですか!?」


 全くっ!花音は……いつも僕をからかって。

 僕たち以外の生徒は、この教師の態度に驚いている様子はない。それもそうだろう。すでに何度もこの教師の授業を受けているのだから。


 その時、訓練場にどよめきが起こった。


「さっすが白銀だな~」

「ありがとうございますわ」


 白奈さんは異能で創り出した白銀(はくぎん)の剣をシュッと振るう。

 白奈さんの前にある的は、綺麗に真っ二つに斬り裂かれていた。


「相変わらず綺麗な太刀筋ですね」


 僕は感心したように呟く。

 すると、ぼけーと端っこの方で見ていた僕を目ざとく見つけた白奈さんがずかずかと近付いてきた。


「何してますの?」

「……見学です」


 力強い視線に、面倒くさくて避けてましたなんて言えず、体のいい言い訳を言った。

 しかし白奈さんの視線は強くなるばかり。


 ぐぬぬ……これでは僕が悪いみたいではないですか。

 まあいいです。幸い今は異能の授業です。僕の得意分野。ならば、お望み通り見せてあげようではないですか!この僕の力を!


「白奈さん!」

「は、はい?なんですの?」

「今から僕の力を見せてあげます!いいですか?ちゃんと見ておくんですよ?」

「……分かりましたわ」


 白奈さんはなぜ僕がこうも自身あり気なのか分からず首を傾げながらも見る姿勢を取る。

 僕は的がある場所まで歩いて行く。


 おもむろに右手を突き出し――


「おりゃっ」


 気合の声を出す。

 右手の前に小さな氷が出現する。その氷は(やじり)の形を取り、掛け声と同時に最高速度に達し、的を貫いた。


「ふふん!どうですか?僕の力は」

「……」


 胸を張りながら僕は振り返り、花音と白奈さんの方を見る。

 花音はパチパチを拍手をしているけど、白奈さんは微妙な表情……をしている?え?なんで?


「あの……零?今のが零の力ですの?」

「はい?そうですけど……」

「水篠くんは……もっと訓練しましょうね~」


 先生も慰めの言葉をかけてくる。

 なんと!先程の技の凄さが分からないと言うのですか!


「全く。お兄様の凄さを理解していないとは、愚かですね」

「そうですそうです!もっと言ってやってください、花音!」

「いいですか?先程のお兄様の技は――」


 花音が僕のことを擁護するけど、白奈さんは中々理解していないようですね。

 さっきのを簡単に説明すると、鏃の大きさに圧縮した氷を音速で飛ばしただけのものです。しかし魔力消費はほとんどなく、小さいため視認しにくく、殺傷力と言う点でもかなりのもの。鋼鉄製の的を容易く貫く程の威力はあります。人体に向けて放てば、いくら強靭な肉体を持っている異能者と言えど、急所に当たれば絶命や致命傷は免れないでしょう。


 それが白奈さん、そして生徒のみんなは分からないようなのです。そして教える側である先生さえも理解できていないとは……大丈夫なのでしょうか。


 もしかして異能とは派手でド派手で広範囲に作用して、かっこいいもの……なんて思っているのでしょうか?


「分かりましたか?まだ分かっていないようですね。では、もっと詳しく説明――」

「わ、分かりましたから!花音、そこまでで結構ですわ!」

「む。しょうがないですね」

「僕のことを理解(わかっ)てくれるのは花音だけです」


 僕は目頭が熱くなるのを我慢できません。

 まあ実際に技を喰らえばいかに凄まじいものか分かるかもしれませんが、さすがに気が引けますし。


 花音に慰められながら他の生徒に目を向けます。


「炎、水、あれは風ですか?これほど多彩な異能者が揃っているとは、さすがは異能学校といったところでしょうか」

「零。もっと練習した方がいいのでは?」

「失礼な!」


 せっかく話を逸らしたと言うのに、白奈さんは……。





 異能学校の授業の半分は普通の高校生が受ける授業である。そしてもう半分が異能についての授業。その中でも体育は多い。

 戦いには体力を使うから、と言うのが主な理由です。


「も、もう……限界です……」


 パタリ。


「零!?まだ一周もしていませんわよ!」

「お兄様にしては頑張りましたね」

「あなたは甘やかしすぎですわ!だから零はこんなになよなよしているんですわ!」

「し、失礼な……!はあ、はあ、ぜぇ……」


 動悸が激しく、心臓の音がうるさい程鳴っています。

 あまりの鼓動の速さにこめかみがズキズキしてきました。


 先生は僕を虐めて楽しいのでしょうか?

 僕にとって体力は必要ないのです!ですので、今すぐこんな拷問はやめるべきだと判断します!


「先生!僕はこの授業には反対です!もっとタメになることをやりましょう!」


 やっと息も整ってきたため、先生に向けてそう言い放ちます。

 基本的に体育の授業はあのゴリラ先生、もとい竹内先生がしています。僕が苦手なタイプの教師です。何度も何度も僕に注意して飽きないんでしょうかね?


「水篠お前は何を言っているんだ?二十メートル程度しか走っていないだろうが」


 竹内先生が呆れたようにため息を吐きながら言う。どうやら怒鳴る気力もないようだ。


 ふふん。僕の気迫が勝った、と言うことでしょうか。


「はあ。水篠妹。兄のことはお前がどうにかしろ」

「分かりました」


 花音に丸投げした竹内先生は、再度ため息を吐き、他の生徒の方へ行く。

 僕のことを任された花音は、グラウンドを十周以上走っている。ば、化け物ですか……。


「さあ、お兄様。私と一緒に走りましょう。合わせてあげますから」

「い、いえ。遠慮します。それでも速いんです!僕はのんびりと歩いて行きます!」

「お兄様は歩いても走ってもあまり変わらないですよ?」

「え?」


 ガチンと体が固まる。


「え?速いでしょう?」

「零は遅いですわよ?と言うか、あれが走っていることに今気付きましたわ」

「え?」


 心外だ。とても心外です。僕は頬がピクピクと動くのを止めることができません。


 まさかそんなことを思われていたとは。


「いいでしょう!お遊びはこれまでです!今から本気で走ってあげましょう!」


 ぷんぷんと怒りを露わにする僕は、スタート位置まで駆け足で行き、両手を地面につく。四足歩行のような体勢になる。ようするにクラウチングスタートの体勢です。


「……何をしているのですか?花音、白奈さん」

(わたくし)もですの?」

「当たり前です!」

「お?何か面白いことやってんな。俺も混ぜてくれ」


 そんなことを言って近付いてきたのは、いつぞやのいけ好かないイケメン君ではありませんか。


「おや、松阪君ではありませんか」

「松田だよ!馬鹿にしてんのか!?」

「おお、よく分かりましたね」


 まさか顔だけの松田君が僕の言いたいことを当てるとは……中々やりよる。


「まあいい。お前に期待するだけ無駄だからな。って、そうじゃなくてだな。お前が本気で走るんだろ?なら競争しようぜ!」


 何を言っているんです?この馬鹿は。

 しかし勝負で負けたくはありませんね。特に松田君に負けるなんて恥です。僕のプライドが許しません。


「いいでしょう。勝負です。そして賭けをしましょう」

「賭け?いいぜ」

「それでは、負けた人は勝った人の言うことを一つなんでも聞く、と言うことでどうでしょう?」

「おお!いいな!お姫様と妹ちゃんも参加しないか?」

「何でも言うことを、ですか……ふふ、いいですわ!零、勝負ですわ!」


 やる気になった白奈さん。

 そして花音も乗り気のようです。

 しかし四人になりましたし、賭けはどうなるのでしょう?


「人数も増えたことだし、一番の人だけが他の三人にってことでいいか?」

「異論はありません」

「同じく」

「構いませんわ」


 それでいつまでこの体勢のままでいたらいいのでしょうか?そろそろ腰と腕と足が痛くなってきました。始まる前に僕が一番不利じゃありません?そこんとこどうなんでしょう。


「せんせーーーい!!!」

「なんだ?」

「俺たち今から競争するんで、スタートの合図お願いします!」

「お前たち三人でか?」

「失礼な!今僕のことを数から外しましたね!?」

「お前がやったところで勝負にならんだろう?」


 ズバッと言うこのゴリラ先生。


 た、確かに僕は花音や白奈さんに比べたら遅いかもしれません。ただの競争ならの話です。

 そう、僕には秘策があるのです。


「勝負と言っても距離はどうするんだ?」

「零のことも考えて半周と言うのはどうだ?」


 松田君がそう提案する。僕としても異論ありません。でもいいんですか?半周なんて。


「では、位置につけ」


 僕たちはスタート位置につく。と言うか僕はずっと待ってたんですが。そろそろ限界なので助かりました。

 僕はニヤリと笑い、


「よーい……スタート!」




 ♢ ♢ ♢




「ひっく、えっぐ……!」


 僕は花音の膝の上に座りながら、泣いていた。

 目の前にはボリューム満点のハンバーグがあり、花音が丁寧な所作で小さく切り取り、フォークで刺し、僕の口へ運んでくる。それをパクリと食べる。


「食べるか、泣くかどっちかにしろよ……」


 目の前には、松田君が呆れたような表情を浮かべながら頬杖をついている。


「だ、だって……だってっ!……あんなの卑怯です!やり直しを要求します!」

「ダメです。ほら、お兄様」

「パクリ」


 勝負の勝者は、花音だ。

 僕の作戦は魔力による身体強化で、三人を追い抜くというもの。異能はダメだけど、魔力の使用は禁止していなかった。しかしこの授業では、魔力を使わずに走るというものだったため、他の三人は使わないだろうという、裏をかいた完璧な作戦だった。


 しかし僕はクラウチングスタートの体勢のまま、走り出す寸前に強化した。するとどうなるか、疲れた足腰が耐え切れず、しかし強化だけはされた。それにより、前のめりになり何度も前転を繰り返す羽目になったのです。その間に花音が一着、白奈さんが二着、そして松田君、最後に僕。


 花音の僕への命令は、今日一日花音の命令に従うこと。だからこうやって膝の上に座り、食べさせられていると言うわけである。


 松田君へは、三人に学食を奢ること。腹いせに特別高いコースを頼んだため、松田君の昼ごはんは質素なものとなっていたけど、僕の知るところではありませんね。


 白奈さんへ……何を言ったんでしょう?


「ほら、もう泣き止みなさい」

「ぐすっ……頭も痛いです。僕の頭を撫でることを許しましょう」

「なんでそう上から目線ですの?」


 口ではそう言いながらも、白奈さんは優しく撫でてくれる。ふわっといい匂いが鼻孔をくすぐる。


「ぐぬぬ……では、再度勝負しましょう!」

「また今度な。これ以上負けたら、俺の財布が持たん」


 どうやら松田君は負けたらお金を使わされると思っているらしい。


「今度は異能で勝負です!」

「いや、それもお前が負けるだろう」

「なんだとおおお!?言いましたね!?それを僕に言いましたね!?」


 異能勝負で僕が負けることはあり得ません。それを松田君は……いいでしょう。今度こそ、今度こそ僕の力を見せつけてあげましょう。


 で、でも、僕は器が広く深い人です。子供の言うことなど、容易く受け流してあげましょう。


「ふ、ふう。まあいいです。次の異能の授業の時勝負しましょうか」

「当たり前のように授業中にやるのな……」

「当たり前です。授業――」


 なんて受ける必要はありません、と続く言葉は、でなかった。

 そしてふと、思い出したのだった。僕が学校に通うようになった訳を。父の独断によるものだけれど、一応は僕のことを思ってのことだったらしい。家に引き篭もってばかりではなく、外に出て友達を作り、青春と言うものを経験してこい、と。迷惑な話ですが。


 この会話や勝負なども青春に入るのでしょうか……。


「ん?どうしたんだ、零」

「いえ、何でもありません」

「急に笑ってどうしたんだ?気持ち悪いぞ?」

「なっ!失礼な!」


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