第3話 別に仲良くしてくれる必要はありません。あ、可愛い子は別です。
基本的に火曜日に投稿しようと思ってます。
「はいはい、静かに。今日は編入生が来てるからね」
僕は廊下の前でお呼びがかかるのを待っている状態。
クールな先生は、校長先生の前ではそう思ったけど、生徒の前では柔らかい声音になっている。
待つ僕の傍には花音はいない。
そう、僕たちは別々のクラスに配属されたのです。
全く、僕たちを離れ離れにするとは……あの校長、後で物申しておきましょう。
それにしても、教室が騒がしい。
もしかして……、
「それでは、水篠くん。入っておいで」
お呼びがかかった僕は教室のドアを開け入室する。
一斉に僕の方に視線が向く。
どことなくガッカリした雰囲気が伝わってくる。何と失礼な。
「新しい仲間の水篠零くんです!……みんな仲良くしてあげてね!」
クールだと思っていた先生のにこやかな表情に、僕はびっくりしながらも今日からクラスメイトになる男女を見渡す。
そして一人の少女と目が合った。
銀の煌びやかな髪色と銀の瞳が特徴的な美しい少女だ。
(銀の髪と瞳……)
思わずその美貌と彼女の家系に驚いていた時、クール先生から自己紹介するように言われた。
「では、水篠くん。自己紹介をどうぞ!」
そう言われ、僕は口を開く。
「水篠零と言います。趣味はゲーム。別に仲良くしてくれる必要はありません。あ、可愛い子は別です」
「はい、ありがとう!とても素晴らしい自己紹介でした!」
(どこが!?)
クラスメイトの全員がそう思った。
僕はそんなことには気付かず、外していた視線を銀髪の少女に戻す。
「水篠くんの席は……」
「私が――」
スッと洗練された仕草で手を挙げた少女。それは、僕が気になっていた銀髪の子だ。
「白銀さん。そうですね。あなたなら適任……よし、水篠くん。彼女の横に」
白銀と呼ばれた少女がじっと僕を見ながら、クール先生にそう提案する。しかし、彼女の隣には左右どちらも座っている生徒がいる。
白銀さんが隣の席の女の子に小声で何か言うと、赤らんだ頬で席を立ち、空いている席へと移った。
「やあ、始めまして。零と言います。気軽に零くん、とお呼びください」
「私は白銀白奈と言いますわ」
「白奈さんですか!よろしくお願いします!」
ツンとした態度で、名前を教えてくれた白奈さん。
それに、『白銀』の苗字。日本人で白銀の姓の人はいるけど、銀髪銀眼の人は限りなくゼロに近いと言っていい。
異能者の中には、あまりに強すぎる異能と魔力のせいで外見にまで現れている人がいるのだ。そう、白奈さんの髪は染めたわけではなく天然もの。それ故にこの子が誰なのかすぐに分かった。
日本に六人いる『Sランク』の一人。その家系の娘だと言うことが。
先生の態度、クラスメイトの白奈さんへの尊敬と畏怖を含んだ視線。
「水篠君だよね?」
「はい?そうですが」
白奈さんと話していると、後ろから肩をトントンと突かれ後ろを振り向く。すると、これまたイケメンくんがにっこりと笑いかけてきた。
僕は顔を顰めながら言う。
「どうぞ、水篠君と呼んでください」
「白銀さんと対応が違くない!?」
「いえ、全然?それより、用がないならもういいですか?」
「ひどい!……はあ、なんか癖のある子が来たな。まあいいか。俺の名前は松田――」
「松田君ですね?了解しました」
「名前を聞けい!そんなどうでもいいか!?」
「はい」
僕がそう言うと、ガクッと首を落とし、これ見よがしにため息を吐く。
そんなことさえも顔が良いと言うだけで様になるのが、ムカつく。
「それよりお姫様と知り合いなのか?」
「お姫様?」
「白銀さんだよ」
隣にいる白奈さんに聞こえないように小声で話しているみたいだけど、時々チラチラとこちらを見てくる当たり気付かれているみたいだ。
しかし聞かれていることに気付いていない松田君は嬉々として続ける。
「この学校には五大家の者が三人もいるんだ」
「五大家?」
「おいおい……」
まさか、そんなことも知らないのか?みたいな表情で見てくる松田君。失礼な!
「知ってますよ」
「だよな。そしてうちのクラスには、白銀家のお姫様がいるわけで、ファンクラブってのがあるわけだ。で、だ」
ずいっと顔を寄せる。
止めてくれませんか?
そんな僕の内心など知る由もない松田君は、更に低くした声で話し始めた。
「背後には気を付けろよ?」
「こわっ!?なんですか?」
「特にうちの姫様は人気だからな」
「なぜです?他にもいるんでしょう?」
「二年の先輩は男性。そして最後の一人は生徒会長だ」
「生徒会長?それも男子なのですか?」
「いいや、女子だぜ?ただ……な」
そこで言うのを止めた。
凄く先が気になるけど、ちょうど先生に話しているのがバレ、うやむやになってしまった。
♢ ♢ ♢
編入してから早一週間。
その間も僕と花音(ついでに父上)は高度な戦いを行っていた。
編入して二日目に、僕は不登校を決め込もうとしていた。しかしそんな僕の思考を花音が読み間違うはずもなく、強引に学校に連れていかれた。
三日目。寝坊作戦を実行した。そしてそれは成功した。ある意味で。
起きると学校にいた。そして僕は自分の席に座っていたのだ。その時のクラスの視線は、凄く痛かったとだけ述べておこう。
そんなこともあり、僕は学校を休むことが出来なかった。
「ねえねえ白奈さん。教科書忘れた」
「またですの?仕方ないですわね」
学校に行くようになったのには、もう一つ理由がある。それが、白奈さんだ。最初はツン九十パーセントだった彼女は、今やツンデレと呼ばれるところまで態度が軟化していた。
ここ数日僕は暇さえあれば猛アタックしていたのだ。
教科書忘れた作戦。教室移動の時も昼ごはんの時も。とにかく付きまとった。最初はウザがられていたけど、少しずつ優しくなっていったのだった。
机を引っ付け、ぴったりと寄せる。
「すぅ……すぅ……」
「零、起きなさい」
「すぅ……もう、食べられないです……」
授業が始まり数分後、僕は夢の中にいた。
たくさんの料理を目の前に出され、好きなだけ食べれると言う夢のような……あ、夢だった。
「――を答えなさい。えーと、水篠」
どこか遠い所で僕を呼ぶ声が聞こえた。
「零っ、起きなさい!」
「いてぇっ!?なんですか!?なんなんですか!?僕のお菓子ですよ!?……ふぇ?」
机をバンッと叩き立ち上がると、みんなの視線が僕に集中する。その異様な光景に間抜けな表情を浮かべてしまった。
その時、クイクイと袖を引っ張られ、そちらに顔を向けようとしたけど、それ以上に強烈な視線が僕に向けられ、思わずそっちを向いてしまう。そして後悔した。
「水篠?まさか、また寝ていたのか?」
凍えるような視線で射抜くように僕を見る先生。
中年の、しかししっかりと鍛えられた肉体を持つ厳格な雰囲気の男性教師だ。名前は確か……竹内剛志だったはずです。ただでさえ、強面の顔を顰めながら僕を睨むように……というか、睨んでいる。
僕はそんな教師に今度は自分の意思で机を叩き、抗議するように声を張り上げる。
「失礼な!僕がいつ寝たと言うのですか!!!」
「昨日も寝ていただろうが!」
「ぬぐぐ……」
なんと生徒に厳しすぎる教師か!
「それで、この問題を答えて見ろ」
「うぅ…………代わりに白奈さん。答えてください」
「なんで私に言うんですの!?」
「それは、将来僕を養ってくれる人……つまり、僕の保護者だからです」
僕は胸を張りながら言う。
そんな僕に、白奈さんは目を剝きながら席を立つ。
「違いますわ!?」
「いえ、違いません!」
「なんでそんな強気ですの!?」
こんなに声を張り上げる白奈さんにクラスのみんなは面白がるように見ている。
今まで白銀家の者として対等な相手、友人と呼べる存在がいなかったのだろう。確かに僕は相手が誰であろうと態度を変えませんし。だからこそ、仲良くなれたとも言えますね。
そして、白奈さんとは、こんなやり取りをほぼ毎日繰り返している。そう言うわけで、クラスのみんなも僕たちが言い合う姿は見慣れたのだろう。
「だって言いましたから!僕を!一生!支えると!」
「言ってませんわ!!」
「昨日のことを忘れたんですか?」
僕は思わず心配するような視線を向ける。
昨日のことなのに忘れてしまっている白奈さんの頭は心配だ。こんなにも若くしてボケてしまうとは……それほどまでに、白銀家の教育は厳しいのでしょうか?本当に心配だ。
僕の心を読んだかのように、白奈さんが怒り出す。
「失礼ですわ!覚えていますわ!……ではなくて!そんなこと言った覚えはありませんわ!」
「ええっ!?」
白奈さんの言葉に、僕は盛大に驚く。
そこへ、第三者、もとい先生が止めに入る。
「水篠!白銀!そこまでにしろ。くだらないことで争うな!」
「「くだらないとはなんですか!?」」
「お、おう?」
僕と白奈さんの台詞がハモる。
先生は勢いを削がれたように納得しかけるが、すぐにまた怒鳴る。
「水篠!お前は廊下に立っていろ!」
「ええぇ!?横暴だ!体罰です!抗議します!!!」
「黙れ!何度言わせれば理解するんだ!毎度毎度寝やがって!」
「それは仕方ありません!僕は昨夜夜遅くまで訓練していたのです!」
「ほう?それは素晴らしいことだな。で、何の訓練をしたのか言ってみろ」
感心したような声だが、その顔は一切の表情が浮かんでいない。むしろ呆れの表情を浮かべている。失礼なことだ。
「はい。ゲームです。初めてやったゲームだったので、操作に慣れるまでに、かなりの時間がかかってしまいました」
やれやれだぜ、と僕は肩を竦めながら、首を横に振る。
先生は肩を震わせている。
ふっ、僕に関心していますね。それでいいのです。
「廊下へ行け」
「ふふふ、そうでしょう。そうでし……え?」
「松田。連れていけ」
「え、俺!?」
僕の後ろにいる松田君がいやいやながらも僕を抱え、廊下まで連れ出す。
「ちょ、ちょっと!松田君!何をするぎゃん!」
「悪いな……まあ、俺からしてもお前は寝過ぎだからな。少しは反省しろ」
ドスッと落とされ、お尻の痛みに涙目になりながら、ドア越しにチラリと白奈さんに助けの視線を向ける。
ふんっと怒ったかのように逸らされた。しかし、その頬は緩んでいた。面白がっているかのように……。
それから授業が終わるまで約三十分の間、廊下に立たされたままだった。