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エラーコード  作者: 東楽
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1-4 逃亡する少女

 蒸し暑い夜の街、少女は息を切らし跳んでいた。

 文字通り跳び跳ねていたということではない。空間から空間に、まるでコマ送りのように空間を跳んでいた。


 少女は跳び続ける。

 どこへ跳んでも、どれだけ逃げても、少女の位置を再補足し襲ってくる。少女にはそれが何なのかわからない、人であることは確かであるが、念移能力者(テレポーター)を追い詰める能力者なんて少女には見当もつかなかった。


(なんなの?)

 

 一度だけその攻撃が掠ったのだが、何がどう作用して自分が傷ついたのか見えなかった。

 ただ、偶然に自分の代わりとなって抉られ、上部と下部が永遠の別れを告げた道路標識を見て、嫌な憶測だけが頭の中に浮かび上がる。


 その人物が目の前に現れる時はかなり派手に、周囲のものが破壊されている。まるで小隕石でも落ちたかのように衝撃波がおこるのだ。

 最初はコンクリートで舗装された川沿いを歩いていた時。その人物は大量の水を消し飛ばしながらそこに現れた。あまりの光景に自然と体が逃げることを選択し、すぐにテレポートで跳んだ。


 跳んだ先は日も大きく傾き子供たちも帰ってしまった公園だった。空間を跳躍したのだ、少女を行き先を知る術なのでないはずだ。

 しかし、少女がテレポートしてからまだほとんど時間も経っていないというのに、衝撃波と共に追手は現れた。

 公園中央にあるジャングルジムがまるで飴細工のように吹き飛びひしゃげている。

ありえない──テレポートに追いつけるのはテレポートしかないはずである。しかし、この惨状はテレポートらしからぬものであった。


そして仮に相手もテレポーターであったとしても、少女の跳んだ先に同じようにあらわえるのは不可能だ。体に発振器でも付けられているのではないかと疑うが、そんなものを付けられる暇なんて無かったはずだ。


 公園から、ビジネスホテルの屋上へ、繁華街の路地裏へ、ビルの建設現場へ、だだっ広い駐車場へ──人気のないところを考えてはテレポートを繰り返した。

 徐々に飛ぶ宛を失っていく。

テレポートといってもどこにでも跳べるわけではないのだ。跳びたい場所を明確に知っていなくてはいけないし、情景をはっきりと思い描く必要もある。写真を見ただけではそこにテレポートすることは出来ない。少なくとも一度自分でその場所に赴き、その場所を体に記憶させなくてはならない。


 日がすっかり沈み込み辺りは夜闇に包まれていく。

 襲撃者から逃げ続け、少女は閑静な住宅街に跳んでいた。

 辺りにはセミの音だけが響き渡る。高級そうな豪邸が並ぶその住宅街には夜遅くまで人が帰ってこない。高いローンを支払うために遅くまで働いているのだろう。豪邸に住むためにその豪邸へ帰る間も惜しんで働くなんて本末転倒だと少女は思う。


 その住宅街で一際大きな豪邸の屋根へ少女は跳んだ。

 緩やかなカーブを描く蒼色の瓦が敷き詰められた屋根は、他の住宅よりも幾分か傾斜がゆるく、その上に立つことも容易であった。屋根の頂点中央から二メートル四方にソーラーパネルが敷き詰められている。


(あの時、能力を使ったのがいけなかったの?)


 少女は先ほどテレポートを使って交通事故に遭いそうだった少年を助けたことを思い出す。それが直接の原因であるという根拠はないが、少女が超能力を公で使用したその日のうちに襲撃者が現れたという状況に、因果を結びつけたくなるのも自然な流れだ。

 超能力者が珍しくないといっても、その能力は千差万別だ。希少な能力、有用な能力になればなるほど、それを非合法な手を使っても欲しがる者はいる。

 だからこそ、珍しい能力を持つものは特に自分が超能力者であることを隠すことも少なくない。そしてこの少女もその一人だった。

 少年を助けるためとはいえ、超能力さへ使っていなければこうして窮地に立たされることもなかったかもしれない。


(うんん。仮にそうだとしても、助けないなんて選択肢はなかったの)


 あの人のようにと、少女は自分が敬愛する人物のことを想いうかべる。

 届かなくても、伝わらなくても、それでもそのひとに近づきたいと、少女が人助けのために行動することは必然だった。


 少女が息を整える間もなく、またもや追撃者は現れる。

 衝撃波とともに、ソラーパネルを無残な姿へと変性させて。それが豪邸としてのアイデンティティの一つなのかはわからないが、屋根を突き抜けることだけはなかった。


 少女は改めて、追撃者を確認する。

 スモークの入った黒いフルフェイスメットに、漆黒のライダースーツ。闇に溶けいってしまいそうな全身余すとこなく真っ黒なその人物は、なぜかその輪郭だけが赤くぼやけ、逆に闇に浮かび上がっている。 

 高熱に当てられてプラスチックが溶けてひしゃげていくように、日光の熱に耐久するソ―ラーパネルが反り返っている。熱を持っているのか、パネルは電気ストーブのように赤く発光している。


 もし追撃者がなんのアクションもせずに、何かしらの攻撃を繰り出せるならこんなにも逃げ続けていられないだろう。

 テレポートで逃げ続けていることもあり、追撃者の能力を目視できたことはないが、自分の逃げが成功するための条件には見当がついていた。


 追撃者はノーアクションでは攻撃できないはず。ならば指先一つでも動いた瞬間にテレポートすれば良い。

 これは根比べだ。少女の体力が尽きるか、追撃者が諦めるかの。


 少女は集中する。

 追撃者の一挙手一投足を見逃さないように、神経を張り巡らせる。

 数秒が数時間に感じる時間が凝縮する中で、すっとその人物の膝が曲がった──少女は見逃さない。追撃者が行動に移るより一瞬早く少女はテレポートした。


 そのすぐ後、少女の残像が消えることも許されないほどの速度で、少女の居た──少女の首があった空間を追撃者の、首狩りの片腕が通り過ぎた。




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