1-2 友人たち
道を歩けば超能力者に出会う、と言われる時代。
久徳の能力はそんな超能力であふれる世界でも異彩を放つ。
空を飛んだり、手を触れずに物を動かしたり、炎を操ったり、瞬間移動したり、というような絵に書いたような超能力ではないからだ。
それはただ丈夫なだけの能力。
ありとあらゆる危害から身を守る。殴られようが痣一つできず、ナイフを突付けられようが些かも刺さらず、火で炙られようが火傷一つ残らない。
ただ、痛覚だけは人並みに存在するので、傷一つつかなくとも、それに相応する痛みも、熱さも、苦しみも感じるのだ。
だから子供の代わりに車に轢かれた久徳はその際、強烈な痛みに襲われたし、昼休みになってやっと登校してきたのも外傷はないが激痛に苦しんでいたためだ。そして、今でも軽い頭痛の残る久徳は、その苦しみに打ち拉がれている。
「さっすがギコウ部のエースやわ」
そうとも知らない唯衣は頭痛に響く大音量で賞賛する。
ギコウ部──偽善たる慈善を施行する部。久徳が半ば無理やり、どさくさに紛れて、あやふやのままに入れられてしまった部活だ。
主な活動は部長の気まぐれと独りよがりと自己満足と自己利益のため行われる人助け。慈善活動ならぬ偽善活動だ。
初代部長にして現部長である一人の生徒が暇つぶしに作ったその部活には、久徳と几唯衣を含め四人しか──もとい四人も部員がいる。
「なんだかんだ言って部活動に一番意欲的なのはお久だよねぇ」
いつのまに横に立っていたのか、もう一人の部員、天花寺瞭祐がいつもの爽やかを振りまきながら言う。痩身で淡いブルーがかった髪の瞭祐は、学校指定のネクタイを取り外し胸元を大きく開いて片手をうちわのようにして扇いでいる。
「そやなあ、最初はめっちゃ嫌がってたのになぁ」
「ほんとだよねえ。それで、そんな心変わりをしたお久は、今度はどんな見返りを期待して子供を助けたの?」
「まさか、また何の得にもならへん人助けなんちゃうやろな?」
ギコウ部の基本的な行動理念は自己利益なので、唯衣と瞭祐には見返りもなく人助けをするなどという奇行が考えられない。
「そのまさかで悪いかよ。だいたい目の前に困っている人がいたら助けるだろ? 普通」
そんなものは断じて普通ではないと、唯衣と瞭祐が呆れ顔で応じる。
しかし、人助けというものを自己満足で行なっている久徳にとっては、見返りを求めずとも十分に部の行動理念に沿っていると自負している。
「まあ、お久は人助け症候群やからなあ」
「人の性分を病気みたいにいうなよ」
唯衣の軽口に久徳は言い返すが、少しは自覚があるのかその語気は強くない。
「お久って本当に変わってるよね」
「お前には言われたくない」
「そうなの、慶兄ぃは優しいの。バカ兄ぃとは違うの」
ひょっこり久徳の机の影からうウェーブのかかった淡いブルーの髪の少女が顔を出す。瞭祐の妹、天花寺彩里だ。
中等部の一年生である彩里は白い半袖のブラウスにリボンストールタイ、スカートも唯衣とは違う柄のない一色物で一目で中等部と分かる。
中等部の生徒が高等部の教室に来ることは珍しいが、教室内は昼休みで賑わっているために誰もそのことを気に止めていなかった。