5話「遠い校舎」
「ここが、ソーンブリムの校舎、、、」
見上げると、かなり大きな建物がそびえ立っていた。
塔のような縦長の校舎があり、そのてっぺんには十字の巨大な飾りがある。
そしてその校舎を囲むようにドーナツ状の中庭があり、さらにそれを囲むようにドーナツ状の平屋の校舎が建てられている。ようだ。
ようだ、というのは、広すぎて一見ではわからず、入口にある案内地図を見たのだ。
「大きいんですね」
「ええまぁ、これでも王立ですからね。何代か前の国王様が肝いりで建てられた学校ですから。そう言っても、メイドの為の学校なんて、他の国で聞いたことないですけどね」
ニコッと笑いながら話す彼女は、ハナ・ハーディ。俺を文字通り拾ってくれた人だ。
後ろで結った赤髪が、黒と白のメイド服に目立つ。
「あっちに見える建物は?」
「あれは寮ですね」
「寮? 寮って、私が目覚めたところだけじゃないんですね」
「そうですよ。学生は大勢いますから。さすがに、あんなに小さい寮には入りきりませんよ」
それもそうか。寮っていくつもあるのか。
「それにしては、こちらの寮は、大きいし、校舎にも近いですし。ハナさんがいた寮は、ずいぶん離れてませんか? ここまで来るまでに、結構かかりましたけど」
「それはですねぇ、、、」
「ハナ・ハーディ!」
苦笑いをしながら答えようとする彼女を、彼女の名を呼ぶ声が遮った。
「はい!」
ハナが姿勢を正し、呼ばれた方を向くと、これまたメイド服を着た女性が立っていた。そしてこちらを睨みつけている。
「おはようございます。ヒックス先生」
「おはようございます。ハナ・ハーディさん。今は何時ですか?」
「えー、お昼に近い朝でしょうか」
「そうですね。朝、というには随分とゆっくりだと、私は思います」
ヒックスとハナが呼んだ女性は、そのしかめっ面を崩さずに、話し続ける。
その威圧的な声は、こちらまで緊張してくる。
「ではこんな時間まで、何をなさっていたのですか?」
「ちょーっと、いろいろとありまして」
「いろいろ、ですか」
ヒックスがこちらを見る。
「そのようですね。そちらのお嬢さんは? うちの学生ではないようですが」
「実は昨日、プリムローズの側で倒れているのを保護しまして。今朝、気がついて、こちらに来たいと言うので、連れてきました」
「ほう。行き倒れている少女を保護するのは、大変素晴らしいことです。ならばなぜ、すぐに本校まで知らせないのです。校舎には宿直の先生もおられますし、医務室だってあります。今朝まで意識のない少女を、一人で保護して、何かあったらどうするつもりですか!」
「す、すみません」
何? この先生、怖いけど優しいのか?
「うちの生徒が大変失礼しましたねお嬢さん。とりあえず、医務室で事情を聞きましょうか?」
「いえ、身体は大丈夫です。それより早く学院長に会えませんか?」
ヒックスは驚きの表情見せる。ハナも驚いているようだ。
まぁそれもそうか。行き倒れの薄汚い少女が、学院長に会わせろなんて。驚きもする。
「事情がおありのようね。でも落ち着いて。とりあえず順を追って話を聞かせてちょうだい」
「これを。これを見せればわかって貰えると思います。ソフィアの。ソフィア・レイランドの物です」
そう言って俺は、首から下げていたネックレスを取り出す。
「お姉様の?」
それに反応したのは、ハナの方だった。
そして、ヒックスも無言でネックレスを手に取り見ると、わかりましたと口にした。
「いいでしょう。私が思っている以上の事情があるようですね。それでもまず、医務室で治療を受けてください。その間に、学院長を呼んできます。ハナさん。あなたは授業に出なさい」
「はい!」
そう言って、ハナは駆け足で校舎へと入っていく。
「ハナさん! 校舎内で走らない!」
「はい!」
そしてハナは、早歩きで、校舎内へと消えていった。