国づくりに必要なもの
リユートの町での騒動は収まり、興奮さめやらぬまま宴会に突入した民衆たちは、明け方になってもまだ家にも帰らず、会場となった中央広場に醜態を晒す羽目になったそうです。
そんな翌日には、俺たち転生者四人と、町の責任者である三名は、朝も早い時間から仕事を始めます。
「マジかよ。 俺たちの国って……」
「そっかあ…… ここが、あたし達の国になるのね」
「なるほど、我々の国をここにつくると……」
昨晩も話し合ったのですが、木村さんや田上兄妹は未だに上の空といった感じです。
唐突に伝えられて、我々で国をつくるぞ! と云われても、普通の人からすれば、まず関わる事などない事態なので、この反応は正常ともいえます。
「えっと、大丈夫ですか?」
「えっ? ええ、まあ……」
「く、国って……」
「あははは……」
確認を繰り返しも仕方ないので、俺は彼らに今後の予定を説明しながら、町長さんやマリーさん、ドワイトさん達とも話し合います。
今後の予定としては、俺たち転生者はダンジョンの攻略を進め、町長さんとマリーさんには町の拡張を進めて貰う話をしました。
資金面は、これまでに貯めてきた俺たちの預貯金と、マリー商会に運用を任せている貸付金が、今もなお利益を上げているとのことで、当面は大丈夫であると報告されています。
また、リユートの町を拡張した後は、周辺の村や比較的に近い町と交渉をして、リユートの町周辺に新たな居住地をつくる事を提案しました。
近い将来、多くの人が亡くなるかも知れないと告げた時、木村さんと田上兄妹は顔をしかめました。
またそれに伴い、多くの難民が押し寄せてくる可能性もあると告げると、さらに顔色が変わります。
「何なんだよ、それっ!?」
「またなの? なんで……」
「ふむ、その可能性は思っても居ませんでしたね」
こちらがやっと落ち着き出したと思ったら、また新たな難民がやって来るとなったら、彼らにも事の大きさに気付いた様子でした。
「彼らも、生きるのに必死だったと思いますが、こうなってはどうしようにもないといった感じですね」
「はい。 当初立ち上がった人達も、一枚岩ではなかったようですし」
「うーむ。 窮地にこそ、人々は互いに協力すべき筈なのに、なんとも愚かな事を……」
「オレには分からんが、相当腹に溜まってたもんがあったんだろ。 でなきゃ、焼打ちなんざしねえよ」
この世界に生きて来た彼らの言葉は、俺たちの心に影を落としました。
危険と隣り合わせの地に生きて、力を併せて生き抜いてきたからこそ、俺たちは彼らに受け入れてもらえて、ここ迄来れたのに対し、街に住まう彼らにはそれが解らなかったとはいえ、自爆してしまったからには、取り返しがつかないと思います。
「えっと、具体的に私たちは何をしたらいいのかな?」
「あっ、それな。 俺らに、いったい出来るんだ?」
「お金ですかねぇ? いや、それだけでは、流石に……」
田上兄妹の質問に、木村さんからも声が掛かります。
「我々に出来ることは一つだけです。 ダンジョンを攻略して、物資とお金を稼ぐしかありません。 すべての解決策に、あのダンジョンは必要なのですから」
俺の答えに三人は少しだけ頷き、互いの顔をあわせてはもう一度頷き、納得したとばかりに語りだします。
「ふむ、なるほど。 それしかありませんね」
「そっか、そうだよな! 俺らにはダンジョンしかないよな!」
「もう、お兄ちゃんたらぁ。 そればっかだよね! でも、それしかないよね。 ふふふ」
答えは単純明快、必要なのは力とお金。 それと、職場となるダンジョンが目の前にあるのだから、悩む必要はありません。
後のことは、町長さんとマリーさん、ドワイトさん達に任せて、我々はダンジョンに挑むことに集中するだけだと、意気揚々とその準備を開始しました。
◇◆◇
一方、その頃のダンジョン側では、悩みを抱えた主と、傍に仕えるメイドが何かを始めようとしていました。
ダンジョン攻略の準備を進める達也たちの事情などをまったく知らずに、ダンジョンマスターであるのりこは、四階層以降をどう扱うかを考え悩んでいました。
「うーん、困ったわね…… ねえ、どうしたら良いと思う? まりあ〜」
「はい。 まずは外敵を排除しなければなりません。 マスター」
のりこに投げ掛けられた問に、軽く俯きながら目を閉じたままのまりあが、簡潔な答えを述べました。
「うーん、そうなんだけどぉ。 それだけじゃないと思うのよ。 分かんないかなぁ……」
「申しわけありません。 マスター。 マスターの深いお考えに気付けない私などでは、他に答えが導き出せません」
少しだけ不満を口にしたのりこであったが、ダンジョンコアであるまりあの情報管理と防衛システム、その他諸々の処理能力では、主であるのりこの問に答えようがありません。
「まあいいわ。 ごめんなさい、まりあ。 八つ当たりよね、ふぅ……」
「いえ、問題ありません。 マイマスター」
時折みせる主の悩む姿に、まりあは黙ってその想いを受け止めるしかありません。
たとえ、それが八つ当たりであっても、主であるのりこのストレス発散に繋がるのであれば、それもダンジョンコアであるまりあの仕事であると判断したからであった。
現に、のりこは自分の過ちを認めて、素直に謝罪するだけの優しい心を持ち合わせていました。
なんの落度も無いかといえばあるものの、この一年以上に渡る外敵からの侵攻よる、ストレスに晒された状態は異常なことであり、少女といえる程に幼い彼女からの八つ当たりなど、可愛いくらいの反応といえました。
「排除かあ…… 出来なくもないんだけど、呼び出すモンスターが問題なのよねぇ」
まりあにとっては、ダンジョンマスターであるのりこが判断を下せば、それに従うしかないのだが、少しずつではあるがのりこの考えが正しく、より良い答えを導きだすのではと思い始めていました。
「よし、決めたわ。 やっぱりあの子たちを使いましょう。 上の人たちにも、頑張って貰わないと駄目よね」
そう述べた主は、ダンジョンマスターの権限を使い、コマンドを選択して、呼び出すモンスターたちの種類を選んで行きまします。
「これと、これと、これ! はい。 じゃあ、後はまりあに任せるわね」
「かしこまりました。 マスター」
ひと仕事を終えたのりこは、細かな配置と運用についてはまりあに一任して、ダンジョン内を映し出すモニターを呼び出して、何時もの見回りを開始しました。
「はあ…… まだ帰ってないかあ。 残念」
ダンジョン内を一通り監視したのりこは、目的の人物を探し当てられなかった事に、ため息を吐いてしまいます。
ここからが、ダンジョンの存在がどちらに転ぶかも分からない、運命の歯車の一部となっていくとも知らずに、のりこは達也たちの帰りを心待ちに過ごすのでした。
今週は、この回までとなります。
来週もまた用事があるので、何処まで書けるかは分かりませんが、投稿はする予定です。




