夢見る少女
達也たちが、三階層をうろうろとするのを眺める少女が居ます。
もちろん、このダンジョンの主となった少女『尾形のりこ』本人でした。
ダンジョンのレベルが上がり、その規模と様相が一変した事により、達也たちの反応が気になったので、最下層である自室にこもり、その様子をカメラ越しに観察していました。
「あははは! あのお兄さん面白いなぁ。 でも、大丈夫かなぁ?」
現在、三階層の前半のエリアを引き返す彼らを、のりこは見守ることしか出来ません。
直接話す機会もなければ、会いにいく手段もありません。
ダンジョンの管理や、細かな運用はダンジョンコアである『まりあ』が行っているので、のりこ的に何かができる訳ではありません。
配置する防衛用のモンスターの種類や、その強さを決めることは出来ても、敵の目の前に配置するとか、また好きなタイミングで襲わせるなどは出来ません。
似たようなことは出来るとは言えますが、その采配はダンジョンコアであるまりあの仕事なので、のりこは方針を指示する事しか出来ないのです。
なので、達也たちの行動やその戦い方を眺めては、襲わせるモンスターの強さをどうするのか考えます。
「んー。 後半の防衛は様子見しかないのかなぁ……」
三階層の大蛇は、後半部分に移動させたことを思い出して、のりこはその方針を放置しました。
黒猫を配置した理由は、三階前半の防衛レベルを引き下げ、達也たち以外の人種を招き入れる為でした。
実際、問題となっていたネズミの駆除はほぼ完了したし、残存する侵入者は黒猫が排除したことで解決しました。
◇◆◇
あれから、一週間ほどの探索は行われたものの、達也たちは一向に四階層へ向かいません。
なぜなら、達也たちが低レベルの職業を鍛える為に、レベル上げをしているからでした。
三階層に配置されてるモンスターは然程強くはありませんが、倒すためにはいくつかの工夫を凝らさなければ為りません。
なので、一体を倒せばそれなりの経験値が彼らに入り、この先を切り抜ける為の戦闘経験も積める良い相手といって良いモンスターでした。
大蛇は敵を捕らえ捕食するに適し、なおかつ有り余る体力によって敵をどこまでも追っていく習性を持っていました。
レベルのわりに、敵を排除するにはもってこいであったし、足止めするにも適していたので重宝していました。
使い始めのころ、これ程執拗に敵を追い詰め排除するなどとは思ってもおらず、よいモンスターだなと思ったのですが、それが達也たちと対等どころか、苦戦させるなどと思いもしない結果となりました。
その後、問題解決の目処がたったので、出現数を減らしたり、他のモンスターを増やしたりと、何かと調整を繰り返し、試行錯誤した程でした。
いっその事、大蛇を下げようかと考えもしましたが、達也の繰り出すアイデアによって解消されて行きました。
ダンジョンマスターとしてのりこは、その達也たちの戦闘を報告書を通して、改めてその偉大さを知ることと為ります。
なぜなら、達也たちの戦闘行為の結果による、DPの収支結果の項目がとんでもないことになっていたからでした。
ダンジョンのシステム上、人種を育てると収入は跳ね上がるとは知っていたのですが、まさか予想を上回り、あり得ない量のDPが入っていたのです。
低ランクのモンスターであるゴブリンなら、通常5ポイントのDPが必要で、倒されれば2ポイントが帰ってくるところを、6ポイントが帰ってきた事により、のりこは唖然となってしまいました。
これまでは、防衛の為に格安で生み出せるゴブリンを使ってはいましたが、これだと収支はマイナスとなるだけの存在としか言えませんでした。
しかも、敵対者である侵入者を足止め程度の力しかなく、数に任せて敵の排除ができるならと諦めていたゴブリンが、まさか黒字で返ってくるなど、予想を越えて呆気にとられる程の結果となったのです。
ダンジョン内で倒されれば、味方のモンスターなら半額、侵入者なら、その対象の強さに応じたDPが収入として入ってきます。
なので、DPの収支は敵の排除がもっとも高く、ダンジョンのレベルに対応する時間経過によるDPがもっとも少ない収入なのです。
その事を知っていたのりこは、まさか敵対者の排除より効率が高く、生み出し倒させるだけで黒字となる結果は、あり得ないことが起きたとしか言えませんでした。
これが大蛇であればどうなるかは、誰がどう見ても悩ましい結果となるのは明らかです。
大蛇は比較的に強く、だからといって強敵とはいえません。
ダンジョン側から見れば、使いやすいモンスターであり、低コストで生み出せるモンスターでもあります。 倒されれば痛いものの、しぶとく長い期間活動できるコスパの良いモンスターなのです。
それが、達也たちの戦闘によって倒されれば、これ迄にない結果と収入が約束されるのだから、外すには惜しいモンスターなのです。
大蛇一体投入すれば、30ポイントの出費で、敵対者を排除できれば黒字確定な上に、達也たちと戦い倒されれば、36ポイントとなって返ってくる上に、彼らの経験値となっていくのだから、のりこの心情としては、これ程に美味しい結果を齎すモンスターは、ほかに居ないといえました。
なにせ、達也たちの成長はダンジョンの危機回避に必要であり、収入面でもこれ程の上客は居ないのです。
「マスター? どうかなされましたか?」
「え? う、うん。 えっと、大蛇はどうしようかなって、思ってたの」
のりこは、まりあが上げてきた収支報告書を眺めていたのですが、思ったより長い時を沈黙していたと、焦って返事をしてしまいます。
「失礼ながら、申し上げます。 マスターの懸念は取り越し苦労となるでしょう。 かの者、『守護者』たる、神が遣わした『使徒』様たちの良き糧となる筈です。 大蛇程度のモンスターであれば、幾らでも打倒されようとも、かの者たちの血肉となり、やがてこの地に安寧を齎す存在と為りましょう」
「そ、そうよね。 ありがとう、まりあ。 貴女の助言はいつも適確なので、安心できるわ」
まりあはのりこの言葉を受けて、深々と腰を折り頭を下げつつ『失礼しました』と、主の前で謝罪の旨を表現します。
「ふう、三階層は良いとして、問題はそのあとよね……」
「はい。 まだ彼らの前に立ちはだかる試練はありましょう。 ですが、マスターであれば、かの者たちを導けると思います」
現実的に、達也たちのレベル上げは捗っている様子であり、回収された素材を持ち帰っているので、身に纏う武具の進歩も見受けられると、報告書に記されているのです。
近い将来、達也たちと邂逅を夢見る少女は、このダンジョンが抱える窮地から解放を齎す『勇者』が現れるのを心待ちにしています。
「ああ、早くお会いしたいです。 わたしの勇者さま……」
そんな少女の願いは、勇者となる人物、かの者次第なのですが、そんな未来の話など、まだ彼女が知る由もなく、ただ時は流れて行くのでした。
彼女の想いは…… 乞うご期待!とは言えませんが、心情としては描きたい部分でもあります。
その分、作品として長くなるかも知れませんが、よろしくお願いします。




