動き出す人たち
一週間の休暇を終えた俺たちは、この世界の三度目の冬に備えて、リユートの町での仕事をこなしていました。
まあ、この世界の冬といっても、耐えきれない寒さが訪れる訳でもなく、大気中のマナが減ることで薄寒くなり、農作物を育てるのに適さなくなる時期ということで、冬といわれていました。
なので、この時期になると伐採や建設などが進み、次の季節にむけての準備と、保存食の生産が主な仕事になります。
建築現場では、ドワイトさんたちもかり出されていますし、徹くんも汗水垂らして働いています。
かたや北の森では、薬草やキノコなどの最後の収穫をすすめており、イノシシや鹿などの狩りも大詰めを迎えています。
そして、理恵ちゃんと木村さんの仕事である、薬品類の生産も佳境を迎えていました。
『マナポーション』
MPを15%を徐々に回復させる下級アイテムであり、錬金術に欠かせない薬品である。
『エーテル(ポーションタイプ)』
MPを瞬時に30%回復させうる中級アイテムであり、高等錬金術で使われる薬品に欠かせない素材である。
『ハイポーション』
HPを33%を回復させる中級アイテムであり、錬金術師にしか作れない薬品である。
『万能薬』
毒、麻痺、混乱、眠り、暗闇などの一時的な状態異常を解除する薬品である。
なお腹痛や頭痛、酩酊や解熱なども治るが、専用の処方薬がある故におすすめはしない。
という具合いで、二人の錬金術師が育ちつつありました。
では俺が何をしていたかについては、建築から鍛冶仕事、薬師から調理、剣技から弓術、魔法全般を使えるという事で、修繕から製造、改築や撤去、治療や狩りの手伝い、戦闘や魔法の指導と、やれる事がいっぱいあり過ぎて、超絶ブラックな仕事量をこなしていました。
まあ、そんな仕事もあと数日で終わり、その後はダンジョンの攻略に乗り出す予定です。
◇◆◇
リユートの町での仕事も終わり、近隣の村への支援も俺たちの手を離れて、町に住む人達だけでもまわる様になりました。
当初、俺達の力で開拓した森も、いまでは職を求める人達へゆずり、町や村での支援事業も、現地雇用の受け皿となったので一安心といったところです。
ただ、今回のことで大きく変わったリユートの町は、以前とは違った活気があり、住まう人々のやる気がハンパないことになっています。
理由は…… ぶっちゃけてしまえば、今までの暮らしとはまったく様式がかわり、とても住み心地がよく、待遇も良いとのことで、これまでの暮らしがなんだったのかと、彼らのやる気が漲っているそうです。
そらそうです。 リユート村の、もといリユートの町の平均収入は、彼らが住んでいた場所とは違って、比較にならない程の差があります。
日当はまちまちの日雇い仕事であっても、一日みっちり働けば五日分のお給料がもらえるので、やる気に火が着くのは当たり前です。
たとえば、街で仕事を求めれば、まずその仕事での実績は必要ですし、手に職がなければ奴隷のような扱いがあたりまえで、大半の人々の賃金は一日あたり5Gくらいしかないそうです。
まあハンターとなって、街の外で稼げば、かなりの収入となる筈なのですが、己の命を危険にまでさらして稼げる人達は、訓練と実戦に耐えられたごく少数の人だけであって、普通の人たちの大半は死んでしまいます。
いままで、ハンターを職業として躊躇していた人たちも、武器を手にして狩りへとかり出された事で、その対価として得た獲物の肉のうまさに、やる気を奮い立たせていきます。
こうしてハンター見習いとなった人達は、リユート村でハンター活動をしていた先達たちに指導を受けて、徐々に様になっていきました。
そして、一日の稼ぎもしだいに増えていくと、さらに指導も厳しいものへと変わり、生存戦術を習い始めます。
俺たちは、そんな光景をただ見守るだけでしたが、厳しい指導のなかにあっても、生きる糧を得られた彼らの顔には、以前とは違った輝きが宿っていたので、大丈夫だと思うことにしました。
「いやあ、なんかデジャブを感じるのですが、気のせいでしょうか?」
「あっ、私も感じましたよ」
「ん? なんのことだ?」
つい先日までの誰かさんを思い出してか、木村さんと理恵ちゃんは徹くんに視線を向けます。
ですが当の本人には、その向けられた視線の意味は分かっていないようなので、俺はそんな彼らを言葉で促します。
「まあ、そんなことはさておき、ダンジョン攻略にむけて、準備をすすめましょう。 冬も差し迫ってますし、ダンジョンでしっかり稼がないといけませんからね」
「おう! ガンガン行こうぜ! ダンジョンだよ! ダンジョン!!」
「まったくもう…… お兄ちゃんは、いっつもそうなんだからあ」
「ははは。 私達も、しっかりサポートしないといけませんね」
この世界にきて、三年目となった戦いはより厳しくなって行くのかも知れません。
かの邪神に嗤われない様に、しっかりと準備をしなければなりません。
まさかその先で、新たな出会いと運命が待ち受けているなど、この時の俺たちは予想すらしていませんでした。
次回は、来週後半の予定です。




