新たな場所
ドォン!
てっきり転移ものって言うのは地面から始まるものだと思っていたけど…、まさか空中から落とされるとは思っていなかった。
女神様ならやりかねないわね。
私は加護のお陰で重症を負わずに済み、その場からフラフラと立ち上がり辺りを見回す。
広がる草原と図鑑でも見たことのない動物や植物。
ここが異世界であることを実感せざる終えない、見回していると遠くに村らしきものが見えた。
何やら煙が上がっているみたいだけど…。
村に近づくにつれて何やら人々の騒ぐ声が聞こえる、怒号に近いもの、怯えるような声…もしかしてこれは盗賊とやらに襲われているのでは?
とすればチャンスでもある、スキルを試す機会でもあるし人助けも出来て情報ももらえるし…一石たくさんね。
そうと決まれば村、近くの岩影で様子を見てみる。
やはり予想通りだった。
助けてくれ!!やめて!!
食料を死にたくなければ出しな!金品もな!
…此のままでは大変なことになっちゃう。
盗賊団かと思ってたけど、五人くらいかな?規模は小さめなようだ。
私も別に戦闘が得意な訳じゃないけど…スキルを信じるしかないよね。
岩影から身を表し、盗賊達と村人の前に立ちはだかる。
そして盗賊の中でも一人だけ装備が違う人、長らしき人に向かって叫ぶ。
「貴方達やめなさい!」
「誰だお前は?見慣れない服装だな…怪我したくなかったらそのまま立ち去りな」
「そうはいかないわ。これはチャンスでもあるんだから」
「何言ってるんだ?女でも容赦しないぞ…。最後の警告だ、見なかったことにして家に帰りな」
「それはできないわね!」
私は勇気を振り絞り彼に向けてパンチを放つ。
人を殴ったこともない私の素人同然の攻撃はあっけなく回避されてしまう。
それと同時に彼は拳を振りかぶってきて。
「…っぶ!」
「女だからって顔殴らないとは言ってないからな…加減はしたが、っつ!?」
彼の拳が私の左頬を捉えると視界が揺れる。
ヤケクソ気味に放ち返したストレートを彼は直感で感じ取ったのか先程よりも大きく回避をすると。
ドォン!
私の拳の先から衝撃波が発生し、彼の後ろにあった身長大くらいの岩に当たると粉々に砕け散る。
避けてなければ彼も無事ではすまなかったはず。
たった一発の弱めのパンチであの威力。彼の表情も私を舐めたものから真剣なものへと変わると。
「油断できない姉ちゃんだ。悪いが手は抜けなくなったぞ」
「こっちこそ、手加減なんてできないんだから」
不死身になっていることもあるからか、恐怖はあるものの保険となっており立ち向かう勇気になっている。
私は再び彼に向かって拳を振るうが。
ドムゥッ!
「んぅ!…ぁ」
私の拳が届く前に、リーチの長い彼の拳が私のお腹を抉っていた。
不快感にわたしはたまらずお腹を押さえ膝を折ってしまう。
負けてはいられない、すぐに立ち上がり彼を睨み付け返すと。
「お前は他とか違うみたいだが、もうそこで大人しくしてろ」
「くっ…貴方本当は怖いんでしょう?さっきの力が」
「…何だと?俺が怯えてるとでも?」
「えぇそうよ。貴方は目の前の女の子に対して怯えてるわ」
「へぇ、そうかよ」
よし、挑発成功。
表情を一切変えなかった彼もこの言葉には流石にカチンときたのか眉を細めて私を睨み付ける。
ただ、ちょっと怒らせ過ぎたかも…。
私はとっさに頭を守るために両手で顔を守るフリをし攻撃を腹筋を固めたお腹へ誘導する。
ドスッ!ズムッ、ドムッ!
「ぐふっ…がはっ、うえっ!」
「で、誰が怯えてるって?」
防御を固めたお腹でもあっさりと貫かれ、拳が奥へ入り込み苦痛を与える。
前のめりになり倒れそうになる私を彼の拳が支えると、全体重をお腹で支えてしまい、さらに奥へと入ると、液体が込み上げ吐き出してしまう。
「っぷ、げえっ!」
バシャリ
「おいおい、大丈夫か?もう終わりじゃないよな?」
「…いえ、終わりよ。貴方がね」
「っつ!?しまっ!」
ここまでが作戦。
それにしては非常に不格好にはなってしまったけど、私はお腹にめり込んでいる彼の腕に触れスキルを発動させる。
決死の反撃
彼の体は大きく後ろに吹き飛び、岩に何個もぶつかっては強すぎる勢いで砕いてしまい次の岩へ、を繰り返し岩にめり込んで止まる。
彼はそのまま動かなくなってしまった。
「ひ、ひっ!」
「親分がやられた!逃げろ!」
…なんとか勝利かな?それにしてもベタな逃げかたね。ボスをおいて逃げちゃってるけど。
…スキルを使った反動か意識がもうろうとしてきた。
もうちょっとかっこいいスキルが良かったかなー。女神様に向けて心の中で呟きながら私はその場に崩れ落ちる。